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特集記事 【イベントレポvol.6】地方創生のために、企業ができることとは?-第4回みちのく復興事業シンポジウム-

地方創生のヒントin東北10422viewsshares2016.05.17

【イベントレポvol.6】地方創生のために、企業ができることとは?-第4回みちのく復興事業シンポジウム-

2016年3月8日、「みちのく復興事業パートナーズ」とETIC.は、電通ホールにて、「みちのく復興事業シンポジウム」を開催しました。

東北の被災地では高台移転や復興住宅の建設が進む一方、まちや産業の復興はいまだ途上の段階にあります。しかし、東北ではこの5年間、さまざまな人々が集まり、さまざまな試みがなされ続けています。この復興という過程で、東北のみならず、日本の地方創生の契機が生まれつつあります。

地方創生において、企業は何ができるでしょうか? この日、東北復興に取り組む企業のコンソーシアム「みちのく復興事業パートナーズ」はゲストもまじえ、地方創生における企業の取り組みについて議論しました。

みちのく仕事では、 みちのく復興事業シンポジウムの内容の一部を6回にわたってお届けします。今回はその最終回。地方創生における、企業の役割をテーマに行われたディスカッションの内容を紹介します。

●みちのく復興事業シンポジウムのイベントレポート
【イベントレポvol.1】「東京より田舎のほうがリスクが少ない」『里山資本主義』藻谷浩介氏が考える、その理由とは?-第4回みちのく復興事業シンポジウム-
【イベントレポvol.2】「大切なのは、まず自分が幸せになる覚悟があるか」森の学校牧大介氏が語る、地域おこしに関わる人に大切なこと-第4回みちのく復興事業シンポジウム-
【イベントレポvol.3】りぷらす代表橋本大吾氏が取り組む、”支えられる側が支える側にまわる”福祉とは?-第4回みちのく復興事業シンポジウム-
【イベントレポvol.4】「漁師の仕事を新3K=かっこいい、稼げる、革新的に」フィッシャーマン・ジャパンの長谷川氏が描くビジョン-第4回みちのく復興事業シンポジウム-
【イベントレポvol.5】「きちんと動けるチームを、セクターを越えてつくれるか」アスヘノキボウ小松氏が語る、地域おこしのポイント-第4回みちのく復興事業シンポジウム-
【イベントレポvol.6】地方創生のために、企業ができることとは?-第4回みちのく復興事業シンポジウム-

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ディスカッションでは、基調講演で登壇した牧大介氏、プレゼンテーションで登壇した小松洋介氏に加えて、入川スタイル&ホールディングス株式会社代表取締役の入川秀人氏、そしてみちのく復興事業パートナーズから、株式会社東芝CSR経営推進室社会貢献担当部長の山下剛志氏が登壇しました。モデレーターを務めたのは、ETIC.代表理事の宮城治男です。

“やる人をつくること”、“人づくり”

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宮城は基調講演とプレゼンテーションを振り返って、「未来形の話のように聞こえてきませんでしたか?」と会場に問いかけます。「つまり彼らの描いた未来のシナリオには、まだ登場人物が足らなくて、誰かがその登場人物にならなくてはいけないのです」と、この日何度も繰り返されたテーマ“やる人をつくること”を強調しました。そして「Wired Café」の創設者でもあり、『カフェが街をつくる』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でもある入川氏にコメントを求めました。

入川氏は「みちのく復興事業パートナーズにメンターとして参加して1年ぐらいなんですけど、そのプログラムの中で“愛のある正拳突き”をしてきました」と言って、話し始めました。まちがスーパーをつくりすぎて商店街をシャッター化してきたなか、工場が撤退した後の建物などを改装してつくった「カフェというコミュニティのハブ」でまちの活性化に取り組んできた、と入川氏は話します。

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入川 秀人 氏 – 入川スタイル&ホールディングス 株式会社代表取締役
1999年「LDK」を玉田敦士氏と共に創業。2001年「コミュニティ&ストアーズ(現カフェカンパニー株式会社)」を楠本修二郎氏(現代表取締役)と共に創業。2005年に入川スタイル研究所を創業、2007年には現在の入川スタイル&ホールディングスを創業。現在、株式会社ダブリューズカンパニーの代表取締役会長も務める。現在は、これまでの実績や蓄積したノウハウ、独自のマーケティング手法等を基に、関連企業の企画および開発業務のほか、街づくりや地域ブランディングに関する社会実験や、教育・出版事業等をメインに精力的に活動を行っている。

「東北に“ダイブ”した若い人たちに、僕たちが歴史のなかで得てきた知識やスキルなどを、モラルも含めて伝えていくことができる時期になってきました。いままでは東北自体が何をすればいいかを可視化できる状態だったのですけど、やっと復興が始まって、人の縁みたいなものもどんどん複雑になってきて、これからどんどん見えにくくなっていきます。そんななか企業の人たちは、自分の子どもの世話をするように、彼らを応援できればいいと思います」

宮城が「東京を含めたまちづくり、場づくりではどういうことをなさっていますか?」と問いかけると、入川氏は1つの例を挙げました。「渋谷の宮下公園に“ブルーシートの方たち”が20人ぐらいお住まいになっています。僕も何度か泊まったことがあり、彼らにヒヤリングしているですが、彼らは非常に高い意識、高いプライドを持っているのですよね。そこでの朝市で小さなカフェをやったとき、4時ぐらいからテントをつくったのですが、“ブルーシートの方たち”に手伝ってもらったのですよ。彼らがプライドを持って仕事をして、“仕事をした”ということを区役所に届けると、再チャレンジできるように住宅を借りられる、というプログラムを実施しています。社会を変えるような取り組みが、いま東北でも起こっているのですけど、都会の真ん中でもこれから起こっていくでしょう」

宮城が東芝の山下氏に、みちのく復興事業パートナーズのメンバーとして、これからのステージで求められていることについて意見を聞くと、山下氏は「課題先進地域と呼ばれている東北の復興なくして、日本の地方創生はありえない。ひいては日本の未来はない」ということを前提として述べたうえで、次のように話しました。

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山下 剛志 氏
株式会社東芝CSR経営推進室 社会貢献担当部長

「課題先進地域の東北には、企業は2つの側面でアプローチできます。1つは事業的な側面です。まちづくりについてはすでにビジネスモードになっており、当社も再生可能エネルギー事業、たとえば太陽光発電、水素などいろいろな事業を始めています。新規ビジネスの実験場として東北を位置づけておきたいということです。もう1つはCSR的側面です。行政というセクター、企業というセクター、それからNPOというセクター、その3つがバランスをとって連携することが必要だと盛んに言われていますが、まず企業はこのトライセクターの一翼を担っている使命感を持つこと。そのうえで、やはり“人づくり”、次世代育成ということに焦点をあてていきたい。教育機関への支援、子どもの貧困対策、引きこもりの若者への就労支援。また、今日しばしば話題になっております“ハブ”としての社会起業家への支援ということも大事になっていくだろうと考えております」

宮城が山下氏に、みちのく復興事業パートナーズに参加して、東北の現地を見て驚いたことや認識の変化があったかを尋ねると、山下氏は「現地で活動する人々の活力というか、パッションが非常にすさまじい。そんなパッションにあふれる人たちがたくさんいることに驚き、そうしたパッションに答えなければならない、と思いました」と答えました。

支援ではなく「いっしょに企てる」フェーズに
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牧 大介 氏 – 株式会社西粟倉・森の学校代表取締役
京都府宇治市出身。京都大学大学院農学研究科卒業後、民間のシンクタンクを経て2005年に株式会社アミタ持続可能経済研究所の設立に参画。森林・林業、山村に関わる新規事業の企画・プロデュースなどを各地で手掛けてきた。2006年から地域再生マネージャーとして西粟倉村に赴任。2009年より株式会社西粟倉・森の学校を設立と同時に代表取締役就任。

牧氏もまた“人づくり”の重要さを強調します。「東北は特殊な状況にあります。魅力的な“火種”があると思います。まちおこしや地域おこしというは一種のたき火のようなものだと思っています。震災があって人材やお金といった燃料が供給され、わあっと燃え上がったのですが、燃えやすい人は燃え尽きてしまったような感じがあります。でも小松(洋介)さんだとか長谷川(琢也)さんだとか、非常にいい火種が残っている。あらためて、いい仲間を増やして、いい火おこしをしないといけませんね。丁寧な“人づくり”をしていかないといけませんし、大企業はその伴走役として、またいい人材の輩出元としての役割も大きいと思います」

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小松 洋介 氏 – NPO法人 アスヘノキボウ代表理事
宮城県 仙台市出身。2005年4月に新卒でリクルートに入社。震災を機にボランティアに関わり、地元宮城に戻ることを決意。2011年9月にリクルートを退職後、被災地の自治体、商工会、商工会議所、観光協会などをヒアリングを続け、東北に必要な長期的な支援は「産業の復興」と導きだし、その進捗に奮闘している女川町と出会い女川町復興連絡協議会戦略室へ入室。2013年4月、女川を中心にまちづくり、産業活性に取り組むNPO法人アスヘノキボウを立ち上げた。

小松氏も同様の見解を示します。「ほんとに企業さんとのかかわりは重要です。震災から3年目ぐらいまでは“支援”だったのですが、被災地として受け身にならざるを得なかったのですけど、去年ぐらいから支援ではなく、“いっしょに企てる”といったフェーズになってきています。東北を課題先進地域と捉えて、実証実験として新しい取り組みに面白みを感じてくださっている企業さんが出てきているのです。また最近よく感じるのは、東北を人材育成のフィールドと考えている企業さんも出てきていることです。東北には外からいろんな人が入っていて、地元の人もいて、その多様性の中で人を育てられるのです。『東北を研究したほうがいいんじゃないか?』と気づいた企業さんが若手を送って何かを“企てる”。人材育成と新しい事業を起こすために。そのようになってきているかなと思うのです」

宮城はここで、みちのく復興事業パートナーズが、この日何度も出てきたキーワードの1つ「ハブ」を育てていくことをその役割の1つとしていることを説明しました。

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「“ハブ”という言葉は、広くとらえれば『社会起業家』、狭くとらえれば、小松(洋介)さんのようなつなぎ役を本業としている方だと考えていただければいいと思います。これまでまちづくりというものは行政が中心だったのですが、このハブを介することで、地元の人も企業の人もその主役になれるのです。結節点になって、生きるということや働くということが、社会をよくしていくことやまちをつくっていくことにつながっていく。そういう役割を担う人です。みちのく復興事業パートナーズでは、こういうハブになっている人、これからなっていく人を育てていきたいと考えておりますので、ご興味を持った方はぜひご連絡ください」

お金や権威ではなく、人のアイディアを

入川氏は「東北はすごいチャンスだと思います。地域にいいことをつくるシステムを形成することについて、たとえば建物の容積の緩和など、行政が動いています」と、やはり東北の可能性を指摘します。「まちづくりもひとづくりも、実は裏表だと思っておりまして、僕は東北復興支援のいちばんの醍醐味は、まちづくりの本当のところをできることだと思っています」

一方、山下氏は、東北でのチャンスを肯定しつつも、「行政はNPOが苦手」なのが現状で、企業としてはリソースの提供だけではなく、「行政とNPOをつなぐ役割」も担うことができる、と指摘します。また、NPOは地域住民にとってもよくわからない場合もあるので、NPOがかかわるプロジェクトなどに、よく知られた企業名などが付くことによって信用を供与することができれば、それも企業の価値であることも指摘しました。

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牧氏もまた、「東北にはいい“火種”がたくさんありますので、みちのく復興事業パートナーズは、消えかかっている火種をまた燃やすことができたと思います。小さな事業でも地域にとっては大きな意味がありますので、今後、大手企業さんが社内ベンチャーとして事業をつくっていただいで、地域の火種とともに進んでいくようなことがあればいいなと思います」と、企業への期待を強調します。

宮城は登壇者たちの話を受けて、「復旧、復興のステージを過ぎて、創生のステージには、単にお金とか権威とかではなく、人のアイディアやコミットメントなどが必要になります。人と人との顔の見える関係からまさに火種が、パートナーシップが生まれつつあるのです。今日がその契機になればと願っております」とディスカッションを締めくくりました。

ディスカッションの後には、による映像『3月11日を「つながる日」に』が会場で上映されました。

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最後に、司会を務めた宮城県気仙沼市出身のフリーアナウンサー佐藤千晶さんが、5年目の3月11日を目前にして、「出身者として311をどう迎えるか考えています。でも、人ですとか未来ですとか笑顔ですとか、明るいものにつなげていきたいと思っておりますので、みなさんこれからも被災地、東北の支援をどうぞよろしくお願いします」と、少し声を震わせて語り、シンポジウムは幕を閉じました。

書き手:粥川 準二(フリーライター)

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●みちのく復興事業シンポジウムのイベントレポート
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