リーダーがビジョンを語る
生きている実感って?「何のために働くか」に立ち返る、地域での働き方
2016年3月13日に渋谷で行なった「東北のリーダーと語るダイアログセッション & 右腕プログラム説明会」の様子をお届けします。
今回ご登壇いただいたのは、東北で活躍する、森山貴士さんと高橋博之さんの2人のリーダーです。
震災から5年を迎えた東北。実は「今」だからこそ、東北と関わるのが面白いと言います。
2011年から、様々な人が東北の地でアクションを起こし続けてきました。
何もない中から人と繋がり、地域と繋がり、新しい価値・モノを社会に生み出してきたと同時に、働き方・生き方を大きく変えた人がたくさんいます。
食分野のNPO法人東北開墾と、IT分野のVisitor。
一見、別の畑のように感じるそれぞれのリーダー・右腕が「今だからこそ面白い東北」を語ります。
課題の多い南相馬でできたなら、どこでもできる。
全国で真似されるようなモデルをつくりたい。
森山貴士さんは震災後に福島に移住し、高校生にプログラミングやWEB制作を教えています。
森山:僕が活動拠点にしている福島県南相馬市は、原発事故のため、一部が強制避難区域となっていましたが、もうすぐ避難解除になり、人が住めるようになる地域です。でも、長期間人が住んでいなかったこともあり、震災前の生活の基盤となっていたコミュニティが大きく変わってしまいました。急速な変化にのまれ、対処できていない問題がたくさんあって、例えば、集落で管理していた用水路の掃除や、お祭りの担い手がいない、商店街経営が難しい、医療や放射能の問題など、まだ様々な課題があるんです。しかも、実際に帰還したいと思う若者は20%以下と帰還以降も険しい道のりが待っています。
でも、これだけ問題があるからこそ、大きなインパクトが出せると思っています。全国各地の課題を、ここで解決できたら、「南相馬でできたなら、うちでもできる」と全国に広がるのではないか。そう考えると南相馬は、一番影響力のあるところ。これが今、僕が活動している理由です。
僕は、地元で助け合って生きるって幸せだし、かっこいいと思うんです。でも、地元の若者はそんなこと考えてない。田舎は何もなくてつまんないと、高校を卒業すると東京に行ってしまう。その価値観を変えないと、田舎の人口流出は止まらないと思います。
地元の高校生が周りの仕事してる大人を見て、「あいつら、めちゃくちゃかっこいいんだけど」って憧れるような空気感を作っていきたい。そのためには、僕たちが面白がって働いていることが重要だと思っています。
それ以外にも、ハッカソンという、考えたものを実際にITで作っちゃうイベントをやったり、商業高校の部活や授業に参加させてもらって、プログラマーを育てています。育てても仕事がないと困るので、仕事を受注する仕組みを作るために、受託開発をメインでやっていて、乗り合いタクシーのようなサービス開発に乗り出している、というフェーズです。
地方で活動していると、「俺もできる」感ってすごく大事です。若者ですらITに苦手意識を感じています。だから、若者を巻き込むところからやるんですが、たとえ高校生でも、自分の人生に関わることは自分で選ぶっていう文化を作ることも、とても面白いと思っています。
若者の価値観を大きく変えることは決して簡単ではありませんが、南相馬でできるならほかの地域でもできる、地元の人が主体的に問題解決をしていく、日本中で真似されるモデルを作りたいんです。
都会の人と生産者が直接つながる。命に直結する食べ物が生まれる過程をリアルに感じる。そうすれば生きてる実感も得られるはず。
NPO法人東北開墾で発行している「東北食べる通信」の編集長、高橋博之さん。
「食べる通信」は、食の作り手を特集した情報誌と食材がセットで届く「食べ物付き情報誌」です。
高橋:私は、我々の代わりに食べ物を作っている農漁業を担う人たちが食べていけないのは理不尽だし、その状況を誰も変えないという現状を変えたい、と思っていました。
同時に、都会では多くの人が生きてる実感を喪失しているんじゃないか、とも思っていました。
実は、都市生活者が欲している生きている実感や関係性は、一次産業の現場にある。そこで、都市生活者が食べ物の裏側を知り、生産者への理解を深めれば、一次産業の価値を高められるのではないかと、農漁業と都市生活者を繋ぐ「東北食べる通信」をスタートしました。現在までに全国各地で食べる通信は26通信創刊されています。
私は、資本主義社会を凌駕したいと思っているんです。なぜなら、病気になればなるほど、薬も買うし、病院にも行く。資本主義にとってはプラスになりますよね?でもこれは幸せなことじゃない。
普段の食にお金をかけずに体調崩して、医療費払って「ネガティブコスト」にするのと、普段から食に気を使って「ポジティブコスト」にするのと、どっちがいいですか。つまり、いいものにはお金を払って健康寿命を伸ばす。そっちの方が安く済むし、個人としても社会としても幸せなはず。
そのためには、裏側を知ってもらわなければならないんです。例えば、200円の牛乳と250円の牛乳では、ほぼ200円のが選ばれますね。でも50円高いのには理由がある、それを見える化するんです。人生っていう長い時間軸の中で考えると、50円のコストを合理的だと判断をする消費者を増やしていきたい。それにより生産者も浮かばれるんです。
みんなが自分の問題に思えないのは、命に直結する食べ物が生まれる過程が、流通に分断されて見えなくなってしまったからです。それが見えるとリアリティがわく。
東京で感じる「ふるさと欲求」。
親より自分を知っている南相馬のじいちゃん、ばあちゃん。
ここからは、森山さんと高橋さんの対談です。都会育ちの人が語る田舎は、「憧れ」であり、帰る田舎が欲しい「ふるさと欲求」をもつ人は多いといいます。都会暮らしの2人の経験から、話は始まりました。
森山:東京に憧れてもいいと思うんですよ、若者は。一度は東京に行って、でも戻りたいと思ったときに、戻れる場所とかコミュニティ、仲間を地道に作っていくことも大事だと思います。居続けてもいいし、移住してきてもいいし。
今東京でやっているビジネスって、付加価値、付加価値って言いすぎていて、本当にそれやって幸せなんだっけ?って感じている人が多いんじゃないかと思います。
純粋に、誰のために働くとか、誰かの役に立つとかという部分が見失われがちでしたが、あの震災がきっかけで、もう一度強く意識されたのかなって。
高橋:今は東京生まれ、東京育ちが増えているので、本当に田舎に憧れてますよね。
でも、田舎の子たちは、東京の人たちに憧れられているということを知る機会がないんです。知らないから、都会にすべてがあると思ってしまいがちです。
よく都会の子が、農家民泊とか漁村民泊をして、すごく感動するんですよ。作り物の世界の中にいた彼らが、初めて本物の乳絞りをして「これ飲んでるんだ!」とか、いつも一人の食事が、大家族で食卓囲んで飯食って、一泊で変わって帰っていきますよ。大事なのは、その様子をその地域の子供たちが見ていること。例えば、北海道の十勝に行った子は、民泊から帰ると親に「買うなら十勝のを買って!」と言うそうです。大学入って彼氏ができると、民泊した農家さんに「彼氏できました」、子どもができたら、「子どもできました」って報告しに行くんですよ。
森山:南相馬のじいちゃん、ばあちゃんも、うちの親より僕のこと知ってますよ(笑)
地元で困っていることをつないで仕事にする。
高橋博之さんと同じく東北開墾で活動している、阿部正幸さんも、東北で働く面白さについて語りました。
阿部:復興関係の仕事の面白さというのは、face to face。大事なのは、こちらが適応することなんです。自分が何をできるかも大事ですけど、今必要とされていることを汲み取り、先々必要なことも考えて、やっていく。ボトムアップで吸い上げた「どないすんねん、だれがやるねん」という問題を、「しゃーない私がやりますよ」みたいな立場なんですよ。
森山:もちろん、適応できなかったらきついです。でも、たぶんそれは普通のベンチャーでも一緒だと思います。実は僕も、若者育てようって思って南相馬来ましたけど、今生徒で一番多いのは、おばあちゃんです。すると、おばあちゃんたちが抱えている問題が明確になって、それは若者たちの仕事にできるんじゃないか、とつながる時もある。地元で困っていることをつないで仕事にしている感じです。
聞こえてくる困りごとに向き合うことは、その地域での「自分の居場所」作りのカギになるようです。
これは決して東北だから、地方だからではなく、どこで生活していても、その地域の声と向き合うことが、居場所づくりのヒントになるのではないでしょうか。
なんのために働くのか、と原点に立ち返り、働き方を見つめ直す機会になったと思います。
ご登壇いただいた森山さん、高橋さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。
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書き手:坂入陽菜(ローカルイノベーション事業部)