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特集記事 助け合うこと。見守ること。コミュニティを再生するカーシェアリングの力。

リーダーがビジョンを語る10854viewsshares2016.07.28

助け合うこと。見守ること。コミュニティを再生するカーシェアリングの力。

 

今や、地方創生の最前線を走っていると言っても過言ではない東北。新しいうねりを見せている地域の一つに石巻市があります。 今回は、石巻でカーシェアリングを通して、「コミュニティ再生」に挑んでいる、 一般社団法人日本カーシェアリング協会代表理事の吉澤 武彦さんにお話を伺いました。

コミュニティ再生は、人と人の問題だからこそ難しい、でも生活を支える大きな課題。被災地でのカーシェアリングの導入には、現場を仕切ることではなく、「サポートする姿勢であることが大事」だと言います。その理由は何なのでしょうか。      

 

カーシェアリングって何?自転車で始めた自動車集め。

 

吉澤さんは宮城県石巻市で、カーシェアリングを通して、住民同士が助け合う地域コミュニティを生み出す活動をしています。

 

でも、巷で話題のカーシェアリングとは少し違います。

 

●吉澤 武彦さん(一般社団法人日本カーシェアリング協会代表理事) 立命館大学政策学科を卒業後、6年間広告代理店に勤務。退社後、本格的に社会活動に従事し始め、平和や環境に関する様々なプロジェクトに取り組む。震災後、一般社団法人日本カーシェアリング協会を設立し石巻で取り組みを続ける。

●吉澤 武彦さん(一般社団法人日本カーシェアリング協会代表理事)
立命館大学政策学科を卒業後、6年間広告代理店に勤務。退社後、本格的に社会活動に従事し始め、平和や環境に関する様々なプロジェクトに取り組む。震災後、一般社団法人日本カーシェアリング協会を設立し石巻で取り組みを続ける。

 

吉澤:震災後、僕は福島に入って、皆さんを疎開させる活動等をしていました。震災から1か月後くらいに、神戸元気村っていう阪神淡路の時に災害支援のひな型を作った団体の山田和尚さん、僕はバウさんって呼んでいるんですけれども、その方から連絡があって「福島の帰り、東京にちょっと寄ってほしい」って言われたんです。それがカーシェアリングの提案でした。「仮設住宅でカーシェアリングやってみたらどうや、たけちゃん」って。僕はカーシェアリングっていう言葉をその時初めて聞いたんですよ。でも、現場で車が流されている状況を見ていたので、「あ、共同で車を使ったら便利だよな」って思って、引き受けたのが最初でした。

 その時は、僕は車を運転できないような人間だったんです。でも、「まぁ車集めたら何とかなるかな」と思って、当時住んでいた大阪から自転車で行ける一部上場企業を回って、「車いただきたいんですけど」って言って、そうやって始めていきました。

それから3か月くらいかかって、最初に仮設住宅に車を届けたのは、2011年7月くらい。そこから、さらに3か月かかって、きちんと仮設住宅内に車庫証明を取って、本格的に登録できたのは10月。ニーズはありますから、一台一台車を届けて行ったんです。でも車が追いつかなくなった。その時、ガリバーさんから、どん、と25台の車をもらったんです。それで、かなり拍車がかかりましたね。それを見ていた役所の方から、「これは必要な事業なので市も一緒にやっていった方がいいと思います」というお話をいただき、2012年2月から僕らがその事業を委託として受けるようになりました。石巻市内でカーシェアリングをやる人のサポートを、僕らが行政サービスの一環としてやるようになったんです。そのあたりから、かなり本格的になっていきましたね。それから、自分なりのやり方で、利用者みんなでルールを作りながらやってきました。

そうして、みんなで作っていったカーシェアリングを通して、今は、お年寄りとか、地域の中で見守っていかなきゃいけない存在である人たちが、仲のいい友達に囲まれたような感じになったんですよ。だから、今度は石巻全体にやっていきたいと思っています。他の地域にも広げていきたいですね。

 


大事なことは「背中を押すこと」。
ちっちゃな動きでも、地域は大きく変わっていく。

 

コミュニティという人と人との問題は、とても大事でありながら難しい面もあるように感じます。
地域の皆さんと関わっていくノウハウ、のようなものはあるのでしょうか。

吉澤:僕は、一緒にカーシェアリングをやっている人たちを、コミュニティ、というより、個人として見ています。例えば、人柄のいい行動力ある人とかを見つけて声をかける。それで、その人が動き始めたら、自然とコミュニティに変化が生まれていくんです。それは自治会とか町内会とかにこだわらずに、その人の周りにいろんな人が集まってきて新しいコミュニティができたりする。

当たり前のことですが、車だけ置いておいても何も起こりません。大事なことは、きっかけを与えたり、背中を押したりすることなんです。きちんと適材適所が行われ、きっかけが与えられれば、動き出すんです。それでちっちゃな動きが始まったら、そこからその地域はどんどん変わっていきますよ。

トラブルは実はあまりないのですが、そこに発展しうる問題や課題はやっぱりあります。人と人のことだから。その時は僕らが間に入って、個別に話を聞いたりして、折り合いがつきそうな解決策を一緒に探していきます。第三者みたいな存在があると、人間関係っていうのはスムーズになりますよ。みんな、実は言葉では言いにくいこととか抱えてたりするから、言いにくいことをきちっと確認しながらそれを反映して、やりやすいようなシステムにしたりとか、マッチングしたりとか。そうやっていくうちに、カーシェアリングもちゃんとその地域に合った形ができてきました。

僕たちが募集しているのは、これからカーシェアリングを始める仮設住宅とか復興住宅に入っていく導入の部分を一緒にやってくれる人です。説明会とかアンケートをやって、ボランティアの方々にも手伝ってもらって、一か所一か所のフォローにもあたっていきます。また、そういったコーディネート業務全体のマネジメントを一緒にやっていってくれる人。僕は本当は、もう他の仕事をほったらかしにしてその仕事ばっかりをやりたいくらいなんだけど、そうもいかないから、右腕になる人が羨ましいくらいです。そのくらい面白い仕事です。

 

「これは石巻に必要だ」現場で生まれた助け合いの力が、市との連携でさらに強く

 

吉澤さんは誰にでも、「まずは現場を一度見に来て」と声をかけていたのが印象的でした。現場の持つ力が行政を巻き込んでいったエピソードについてお話を伺いました。

吉澤:僕らは現場で、直接お会いするところから始めます。この取り組みが広がればどんな風になるかが想像できるようにね。誰でも一回、現場を見てもらったら、それですべてわかります。今、一緒に事業に協力いただいている検討委員会の皆さんも本腰入れて取り組んでくださるようになったのは、現場に来て、そこでたくさんの助け合いが起こって、みんなが感謝している様子とか、おじさんたちが頑張っている姿を見てからです。「これは石巻に必要だ」って思ってくださったんです。この取り組みを広めたいなら、まずはこういう現場を一丸となって作らないといけないですよね。行政サイドで応援できるところはどんどん応援してあげるとか、被災者の側からも「これ本当にいいから行政も応援してよ!」みたいな雰囲気ができるといいですよね。

同時に、僕らは基本的にできるだけ行政に頼らずに自分たちでできるところは自分たちでやる、というスタンスを持っています。基本的な考え方として「石巻を応援するためにやっている」ので、そこには地元の自治体も含まれていて、そこはきちっと自分たちの気持ちの中心にあるんですね。

例えば、僕らは役所の関係課を含む多くの方々と定期的に会議をしています。活動についてきちんと情報確認しながら、石巻は10のセクションが参画いただいているので、それぞれの課の政策とのすり合わせであったりとか、どんな補助が使えるのか、っていうのを調整します。普通、各課の連携って難しいものなんです。また、課長まで話が通っても、部長まで届かない、とかあるのですが、僕らは半年位に1度、市長にも事業を報告させていただいたり、直接要望を伝えさせていただいているのです。縦にも横にも割れていない、球体の行政なんです。僕らはこんなにしてもらっていいのかなってくらい、石巻市役所はしっかりと連携をとってくださっています。

 

 

 

イベント参加者に語る吉澤さん(写真右)

イベント参加者に語る吉澤さん(写真右)

カーシェアリングが防災・生活再建にもつながっていく。

 

カーシェアリングには様々な効果が期待できるようです。地元で連携して実証された、カーシェアリングの効果について、さらに伺いました。

吉澤:カーシェアリングをみんなで運営する形にするために、一緒に旅行に行ったり、防災訓練したり、みんなで会話をしながらやっていきました。そういう形で車を一緒に使うことで、移動とか防災のいろんな面で効果が出ています。

今年度は、行政と地元の大学、住民組織と一緒に社会実験をやりました。復興住宅に太陽光の自然エネルギーを使って動く、電気自動車でのカーシェアリングを導入して、毎週集まりながらその効果を検証していったんです。説明会をして、みんなに使ってもらって、それをインタビューして、国交省ともやりとりして進めてきました。

電気自動車を使った防災ネットワークは、いざという時に、避難所に電気自動車があれば電池にもなりますから、災害時の備えとなります。また、それまで車の使用料をいただいていなかったのですが、レンタカー料金をいただくようにして、またカーシェアリングを運営するコミュニティの主要な役員の方々には手当が支給されるというような持続可能な形が、ようやくこの一年でできてきました。

 

 

カーシェアリング協会の電気自動車

カーシェアリング協会の電気自動車

 

実は、復興住宅入居者の半分くらいの人は、入って1年くらい経っても、仲のいい知り合いがいないっていうのが実情なんです。

復興住宅入居者のうち、カーシェアリングを使ってない人の44%が、団地の中に仲のいい知り合いはいないと回答しているんですね。でも、僕らのカーシェアリングを使っている人たちでは、仲のいい知り合いがいないと回答した人は0%で、「たくさんいる」という人が64%という結果になりました。

日本全国の集合住宅などでコミュニティが崩壊したり、過疎地の問題とか、高齢化とか、移動に困ってたり、いろんな課題があるんですけれども、そういうのもカーシェアリングをみんなで運営しながら解決していくことができるんです。そこで、コミュニティが運営するカーシェアリングが全国へ広がっていくための実践ガイドブックを作りました。関心あるNPO、自治体や町内会の方が読むと、やり方が大方わかる漫画で40ページの大作です。石巻で生まれた、みんなで車をシェアする雛型を活用して、これから石巻以外の地域でもお役に立てるように取り組みを続けていきたいと思います。

カーシェアリングがわかる!実践ガイドブックはコチラから!
http://www.japan-csa.org

 

 

カーシェア利用者のみなさんとの旅行にて

カーシェア利用者のみなさんとの旅行にて

 

 

「コミュニティ再生、という課題だからこそ、主役は地元の人で、自分たちはサポートという立ち位置であることが大事」と話していた吉澤さん。「現場では次から次へと課題が出てきますが、あの手この手を借りながら、粘り強く、あきらめないことが重要だ」という言葉が印象的でした。

車を一緒に使って、たくさんの助け合いを生み出していく中に秘められた可能性は多岐にわたります。たかが車、されど車。車を一緒に使うことで、同じ家に住んでいる家族のような地域の輪を生み出しているのではないか、と思います。

カーシェアリングは、車がなければ移動が難しい地域に最適のコミュニティ再生手段なのではないでしょうか。今後、他の地域にもカーシェアリングを広げていくことで、生活基盤になっていくコミュニティがさらに強化される可能性に、大きな期待が寄せられています。

日本カーシェアリング協会のHPはコチラから!
http://www.japan-csa.org

書き手:坂入陽菜(ローカルイノベーション事業部)

 

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