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特集記事 東北の社会課題を、本業のICTと繋げて(2)

リーダーがビジョンを語る4514viewsshares2013.04.01

東北の社会課題を、本業のICTと繋げて(2)

何か社会的な活動をしたいと思った時に、どうやって本業を生かすか。またどうしたら本業に生かせるのか。社会貢献に関心のあるワーキングパーソンなら誰でも考えたことがあるだろう。NPO法人ETIC.の「右腕派遣プログラム」の派遣先プロジェクトの1つでもある「石巻医療圏 健康・生活復興協議会」で、東北の現場の住民の実地調査に取り組んできた生川慎二さんの本業は、富士通のシステムエンジニア、コンサルタント。どうして被災地での活動に携わるようになり、それがどう本業と関連しているのかを聞いた。【石巻医療圏 健康・生活復興協議会・リーダー・生川慎二(2)】((1)はこちら)

■石巻だけの問題ではなく、日本全国に普遍性がある■

―調査では、これが石巻固有の問題ではなくて、日本全国に普遍性があるということがわかったとか。

在宅被災世帯の高齢者世帯比率は64%を超えるものでした。しかも、独居だったり、老老介護の人たちが多い。にもかかわらず、支える行政の力や地域の力が相対的に減っている状態が発生していました。これは、日本の都市部でも10年から15年かけて、同じような問題が急速に発生します。高齢先進国モデル構想会議では、「石巻でこの問題を解決する社会システムを作ることが、被災者支援になるだけでなく、必ず日本のこれからの一番大きな社会問題を解決するひとつの大きな手がかりになる」と考えました。そのため、石巻モデルのノウハウをオープンにして、他の被災地や都市部高齢化した団地などの住民の健康・生活支援に協力をしています。岩手県、埼玉県、神奈川県などです。また、次の地震に備えて東海・東南海地域の自治体や支援団体にも情報提供を行いました。国や県にも提言しています。

―石巻モデルがほかの地域にも広がったのですね。他の面での広がりはありましたか。

このような取り組みをしていると多くの企業、支援団体、行政の方とお会いします。震災後、特に感じるのは、企業や組織の枠を超えて、「私もソーシャルイノベーションに参加したい」という“うねり”というか、熱気。超高齢社会という社会課題に対して、行政や自分の所属している企業の姿勢に不平不満を言うのではなく、自分がどう動くかということを志した方に出会え、組織の枠を超えて繋がる機会が増えたことで、そう感じました。企業の枠では、自社の得意技の範囲でしか提供できなかったことも、様々な職種・組織(医療・企業・行政・NPO)が組み合わさることで、その価値が最大化します。ビジョンを共有した多職種協働では、そのスピードや可能性への期待で毎週興奮の連続です。

―それはすごいですね。

富士通の社内でも変化はありました。みなが、自分の職責の範囲でできることを協力するということが自然発生しました。震災後には、被災自治体の保健師が調査はしたものの、多忙のためデータ化することができない健康調査票が大量にございました。役場ごと流された自治体にとっては、住民の命をつなぐ大切な健康情報でもあり、唯一の住民の最新情報です。その状況を富士通内で報告した際に、「情報システムを提供するだけでなく、データの入力に駆けつけよう」と、のべ120名が集まり、東京からバスで現地に駆けつけ3日で紙の健康調査票をデータベース化しました。本社総務部門からは、箱ファイル1000箱、会議用テーブル、ホワイトボード、椅子などが提供されました。また、企業への呼びかけによって、イトーキ様が書類を保管するロッカー、リクルート カーセンサー様が、保健師が訪問する際に使う自動車、マーフィード様が子育て支援センターや仮設保育所への浄水器、ベネッセ様が震災後産まれた赤ちゃんのためのベビーカーやオムツを即決で届けてくださいました。その後、今日現在でも、多くの企業と被災地で活動を継続しており、民の底力を感じました。

■現場は社会課題の宝庫、それは本業にもつながる■

―活動の間、本業はどうされているのですか。

震災後、毎週東京と石巻の往復ですが、会社の理解があり、両立できています。私が現在、富士通で所属している部署は、社会課題にICTで貢献することにチャレンジする部署で、震災後に発足しました。1企業1個人では解決できない社会課題に対して現場に入りICTを活用して解決策にチャレンジすることがミッションです。

―こういう社会的活動は、どう会社の事業と関連してくるのでしょうか。

私は、震災前マーケティングや企画に関わっていました。机上では気づかない本質的なことに、実践現場では気づきました。社会的実践活動は、課題とアイデアとネットワークづくりの宝庫だったのです。例えば、東京にいたらこれ程までに気づかなかったことに「人と人のつながり。親子でおもいやる気持ち。地域で支え合う循環」などがあります。企業ビジネスの世界では、直接接することが少ない領域です。被災地では、改めて人間の自然な気持ちに気づきました。そして、文字ではない、現実の“社会課題”というものを体験しました。少子高齢化で日本の財政に限りがある以上、民の得意技である経済循環性が重要になってまいります。課題があるということは、その解決策は社会モデルになりえますし、経済の循環性を加えることで、継続性が産まれます。社会に貢献し、支持をうけたものが社会プラットフォームとして根ざしていく。そこには企業の知見や得意技が不可欠であり、当然事業としてビジネスにもつながります。

―会社がバックアップしてくれるのは非常にありがたいですね。

国は、管轄がいろいろな役所にまたがって縦割りになってしまうんです。だから民でやる。それは商売といえば商売なんですが、社会的価値と経済的価値の同時実現だと思います。この二つの価値をこれからの企業は達成しないといけない。企業とNPOだとか、いろんな人が組み合わさって取り組まないと社会課題は解決できないと思います。行政に文句ばかり言っていても始まらないので、むしろ行政が補えないところを民間で支えることで一緒にやっていく。そういう姿勢を石巻で勉強させてもらいました。被災地に行かなかったら絶対気づかなかったです。行ってこの目で見て体感するというのは、非常に大事だなと思いました。

【石巻医療圏 健康・生活復興協議会】

平成23年11月設立。石巻医療圏での在宅被災世帯への健康・生活情報の戸別訪問聞き取り調査を実施し、その調査の結果、健康・生活面への支援を必要とする方に対し、協議会、専門職及び専門職団体(自治体・NPO・医療/福祉団体・民間企業など)との連携により必要なサポートを行っている。医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック石巻院長の武藤真祐氏が代表を務め、45名の職員とともに活動している。

生川慎二氏

富士通株式会社 ソーシャルクラウド事業開発室     事業開発統括部 シニアマネージャー
一般社団法人 高齢先進国モデル構想会議   理事
石巻医療圏 健康・生活復興協議会 副代表

執筆:プロボノライター/写真・データ提供:石巻医療圏 健康・生活復興協議会/編集:NPO法人ETIC.

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※復興支援の取り組みを活かし、富士通は在宅医療・介護向けクラウドサービス「高齢者ケアクラウド」の提供を1月23日より開始しています。下記リンクより、石巻医療圏の代表である、武藤真祐氏の記事を読むことができます。

「高齢先進国モデル」の実現に挑む! : 富士通WEBサイト

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