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特集記事 日和山公園から蛤浜へ。つなプロの日々を振り返るみちのくさんぽ

リーダーがビジョンを語る5160viewsshares2012.11.06

日和山公園から蛤浜へ。つなプロの日々を振り返るみちのくさんぽ

被災地をNPOとつないで支える合同プロジェクト・つなプロに参加した後、「みちのく仕事」のボランティアライターとして現在も東北に関わり続ける加納さん。みちのく仕事編集部で作成した「みちのくさんぽ」を持って、震災から1年を振り返る意味も込めて、東北の思い出の場所やお世話になった人を巡る旅に出ました。この記事は、宮城県・石巻〜南三陸までを一緒に移動しながら伺ったお話をまとめたものです。【つなプロ/慶應義塾南三陸プロジェクト・加納実久(1)】

今年5月にみちのく仕事編集部が発行したフリーペーパー「みちのくさんぽ」。「右腕」として派遣された方々に、その地のおすすめのお店を教えてもらうミニ観光ガイドです。表紙は、宮城県石巻市にある日和山公園の桜。この写真は、加納さんが去年の4月に撮影したものです。

―表紙の写真を撮影したときのお話を聞かせてください。

たしか、4月の4週目だったと思います。わたしは石巻市街地を、つなプロのボランティアとして訪れていました。そのときの活動は、避難所を回ってニーズ調査をするというものでした。避難所に行く途中に寄ったのが、この公園です。

―ニーズ調査って、どんなことをするんですか?

つなプロは、普通の支援で漏れてしまう特別な支援が必要な人に対象を絞って支援を行っていたので、妊婦さんやアレルギーのお子さんを持つ方に事情を聞いたりしました。必要なものがあればNPOのネットワークで集めてくる、というのを繰り返して。

―1日でいくつの避難所を回れるものでしょうか。

3、4箇所でしたね。車で行っても、時間によっては冠水するし道がガタガタだったので、ここから先は進めない、ということもありました。あとは、日々刻々と状況が変わる中で、最新の情報がなかなか集められず、4月も終わりになると以前あったはずの避難所も、実際行ったらもう閉鎖していた、ということも…。

―どのくらい滞在したのですか?

一週間です。長期でいる人もいるけど、基本は一週間でメンバー交代でした。風邪が流行ったり、ストレスで体調を崩す人もいたので、最長二週間というルールが途中でできました。わたしは一度帰って、一週間後にもう一度行きました。

―1度帰って、またすぐ来たんですね。

自分が何もできていない「もやっと感」があったんです。現場にそのままいたいという気持ちもあったけど、このままいても一緒かなと。でも、やっぱり東京に帰っても「うーん…」と思って、すぐにもう一度つなプロに申し込みました。

―東京で「うーん…」と思ってしまったのはなぜですか?

やっぱり「温度差」ですね。東京はすでに原発事故の報道ばかりが溢れていて、津波の被害のことが全然取り上げられていなかった。どちらの方が大変、と比較できるようなことではないものですが、まだまだ津波の被害も収まっていないのに…と思ってしまって。あと、「ボランティアに行くなんてすごいね!」と周りに言われて、でも、自分は「すごくないよ、何もできてないし…」と思って。すごく違和感がありましたね。

―で、もう一度行こうと。

そうしたら多少、何か見えるのではないかと思って。でも、そんなに変わらなかった。やっていることは一緒で、ニーズ調査をしても、その問題を解決するのは自分たちではないから。調査のあとどうなったかが分からないのがつらかった。

―あくまで要望を聞く役目で、叶える役目は別の人だったのですね。

わたしはただの学生だったので。医学部、看護学部、美容師、それにマッサージ師の人とかを見ていると、「これができます」というのがそのまま人の役に立っていて、うらやましくて。マッサージしてもらってるおばあちゃん、嬉しそうで。「なんで専門学校行かなかったんだろう」と思うときもありました。

―4月に行ったときは、あまり腑に落ちなかったんですね。

自分たちがやっていることにだって意味があるんだと、自分を納得させていました。4月後半になると、会社や学校がはじまるから、高齢者の方には話し相手になってくれる人が必要だ、という話も聞いたし、少しは役に立てたのかな?

―地元の方との印象的なエピソードはありますか?

牡鹿半島に行ったときに、家の一階が浸水してしまったので二階に住んでいるという人と話したんです。ホタテの養殖をやっていたけど再開の目処がたっていない、という深刻な話でした。でも突然、「おめぇいくつか」って聞かれて「24です」と答えたら、「そろそろ結婚だな」って言われて。えっ、このおじいちゃん、こんな状況で私の結婚の心配!と驚いた後になんだか嬉しくなってきてしまって。

―素敵なおじいちゃんですね。

ニーズ調査自体は、リストに沿ったものだったから、そういう人間らしさを感じられる会話が嬉しくて。避難所に来ても、「疲れてるし、交流とか面倒くさい」と思っていた方もいたようです。そういうとき、外の人が相手だと、逆に本音を打ち明けてくれたりしたんです。

―「話を聞く」という役割を発見したのですね。

「旅行に行きたいのよね」「グアムがいい」とか、「地震の前は盆栽いっぱい育ててね」とか、そういう話を聞いて楽しませてもらったかと思いきや、最後に楽しかったと言ってもらえる。それらは形のあるものではないけど、何かできた、という気持ちになりました。わたしも、少しは楽しんでもいいのかな、と思いました。やっぱり、ボランティアは人の役に立つだけではなくて、自分も満たされないと続けられないです。

―楽しかったお話、もっと聞かせてください。

つなプロの活動のときは、みんなで登米市内のお寺に泊まっていました。わたしは一人っ子なので最初は共同生活が不安だったんですが、すぐに馴染めました。

―お寺での暮らしはどんな感じでしたか?

とにかく規則正しかったです。6時に起きて、掃除から1日がはじまる。雑巾がけする人、ほうきで掃く人、と分担して。で、ご飯のあと迎えがきて出発。夕方に帰ってきて、ニーズ調査の結果を入力する。その後は、みんなでごはんを食べたり、感じたことをシェアしたり、ニーズを報告したりします。

―みんなで話すときはどんな雰囲気でしたか?

楽しくも真面目でした。みんな、震災の辛い話も含めて色々な話を聞いてくるから、頭がそれでいっぱいになってしまう人もいて。夜中の1、2時まで話してたこともありましたね。そんな状況でよく翌朝6時に起きてたな、と思います(笑)

―なかなか味わえない経験ですね。

つなプロには、本当に色々な人が参加していて、北は北海道から南は沖縄まで。学生もいれば、会社に休みをもらってきた人、わたしの父、母の年齢の人もいました。そういう人たちと出会えたのも貴重な体験でした。

桜を見たあと、同じ石巻市内の蛤浜(はまぐりはま)に移動しました。加納さんは、ここに物資を届けたときのことが印象に残っていると言います。

―どうしてここが印象に残っているのですか?

つなプロの他のグループの報告で、大変な状態だと知っていたのですが、実際に行ってみて、すぐ分かりました。瓦礫がものすごくて、その上に、ぼん、ぼん、ぼんと畳が置いてあるんです。それが道になっていて、その上を通って物資を届けました。食べものがほとんどないと聞いたので、パンなどを持って。ここからちょっと上の方にコミュニティーセンターのようなところがあって、そこを避難所にして暮らしている人たちがいたんですよ。

―凄まじい状態ですね。

でも、そんな光景のなかに、鯉のぼりがあったんです。思わず写真を撮ってしまいました。青空にすごい映えていて、色々な想いがこみ上げてきました。とても印象に残っています。

―鯉のぼりと青い空。そこだけ切り取ると、本当に平和な光景ですね。

東北の思い出の写真を選ぶ、となったら、これを選ぶだろうな。瓦礫の写真は選ばないかもしれません。

―瓦礫の写真は選びませんか。

瓦礫をずっと見ていると…。元々の景色を知っていれば良かったけど、まったく知らずに来たから、こうなる前の生活が全く見えなかった。だから、パッと見てショックを受けるというよりは、話を聞いてイメージして、人の生活があったんだ、と思い知ってから、かなりの衝撃を受けました。そういう思い出を想像しようと思うといくらでもできてしまうけど、どこで割り切ればいいのか…。

―難しいですね。

でも、つなプロのみんなはすごく明るかったんですよね。意図的に明るくしてたのかもしれないですが、どれだけ悲しい顔をしてもしきれないくらいの光景が目の前には広がっている。それでも、少しでも楽しくしようと、車にiPodをつないで、みんなで歌とか歌っていました。高校生のときに聞いていたような歌とかを。

聞き手:笠原名々子・藤田展彰(みちのく仕事編集部)/文:笠原名々子

■「みちのくさんぽ」はこちらから入手できます。ぜひ読んでみてください。

http://michinokushigoto.jp/wp-content/uploads/2025e853a308a41997d0b4b17997cf7b.jpg

■関連インタビュー:良い意味での適当が大事。「行かなきゃ」ではなく「またくるね」【つなプロ/慶應義塾南三陸プロジェクト/みちのく仕事ライター・加納実久(2)】

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