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特集記事 当事者として、福島との関わり方を考える

リーダーがビジョンを語る5775viewsshares2012.03.19

当事者として、福島との関わり方を考える

福島県への右腕派遣が、福島大学災害復興研究所、一般社団法人ふくしま連携復興センターとNPO法人ETIC.の協働によって今春からスタート。福島大学災害復興研究所のメンバーであり、ふくしま連携復興センターの代表理事の1人である丹波史紀先生やスタッフの鎌田千瑛美さんに、今後のビジョンや福島で活動を考えている方に向けてのメッセージを伺いました。【ふくしま連携復興センター:丹波史紀/鎌田千瑛美(2)】

前回いろいろな問題についてお伺いしましたが、具体的に今後どういうことに取り組んでいきますか。

丹波:県外避難者の支援と県内の支援団体のネットワークを早急にやっていかなければと考えています。カウンターパートになっている団体が今は10団体くらいあるのですけれど、ちゃんと人を雇用してっていう仕組みまで持っていける力のあるNPOって本当に数えるくらいしかないので。じゃあそれを新しくつくっていかなければとか、組織自体のきちんとした基盤整理みたいなものを1個1個していかないとなと。行政関係の支援金がなくなったときに、自分達で自立的に回せるようにしておかないと正直難しいだろうっていう部分があるので、基盤整備と人材育成ですね。

鎌田:若者がそもそもいなかったことに加えて、この震災で放射能の問題に対して県外流出が特に若い子育て世代には顕著に現れているので。そこをどう補っていくのかっていう部分が大切だと考えています。

-長期的には、どのようなことをしていくつもりですか。

丹波:宮城や岩手も同じだと思いますが、仕事づくりっていうのが次の一手としては大事になってきて、被災者の人たちが自立的に生活できるための仕事、産業が大事。今は例えば1年単位の建設関係の仕事とか、短期の緊急雇用だとかが中心になっていて、それで被災者の方が自分の息子を大学に行かせられるかっていうとそれは無理なんですよ。そういう意味では、自立的な生活の基盤や成功例をつくっていくことが地域の中でできるかどうかが鍵になってきていると思います。

-成功例があると「あ、うちもできるんじゃないか」ってこともありそうですよね。

丹波:福島には風評被害の問題があって、福島県は産業が全部ダメになっているわけでないのですが、全然災害の被害がない地域でさえも物が売れないという状態です。まず1つ、風評被害を克服して販路を拡大したりするような場をつくるために、ネットスーパーなどを誘致していくことも考えられます。2つ目は被害が酷い地域から避難してきている人たちが生業を再開できるようにサポートをしていく。それは我々だけではできないので、青年会議所やいろんなところと協力していこうと思っています。3つ目は起業家支援で、被災地の復興にむけて何かやっていきたいなという若い人たちで集まったり、特産品や伝統工芸をきちんと世界に発信していくことを考えたりしたいなと思っています。

-みんなが同じ状況なわけではない中で、いろいろなアプローチを考えているんですね。

鎌田:今回のことにおいて根底にあるのは、避難した人と避難していない人の分断なんですね。価値観の分断とも言えます。放射能っていう1つの問題に対して、あらゆる価値観がある中で、震災当初は避難するか、しないかっていう極論しかなかったんです。で、避難しない人に対しては「なんで避難しないの」って怒るし、避難した人には「なんで避難したんだ」って怒るし、お互いがお互いをバッシングするようなことが起きてしまった。そういうふうに今までは1か0かしかなかったんですけど、それを「AもBもCもDもある中で、これを選ぶよね」という風に、選択肢を増やすことがとても大事だと思います。避難していく人たちも今後戻ってきたければ戻ってきてもいいし、今から避難したいんだったら避難してもいい。きちんとそれぞれの選択肢を選べるような仕組みづくりが必要です。

-お互いの決断を尊重していく場を設定していくっていうのも大事そうですね。

丹波:放射線保護の三原則は距離と時間と遮蔽で、無用な被ばくを避けるには距離を置いた方がいいに決まっているんですよ。ただ全部の生活を投げ打って避難することができない方もたくさんいる。仕事もある、学校もある、地域の生活もある、家族もある。そういう環境の中で子どもたちの発達が健全に出来ないのであれば、たとえば1次的に保養という形で県外に行くとか、のびのび遊ぶ場を県内で作るとかの選択肢も考えられる。福島で生きたとしても県外に出たとしても、わだかまりなく後ろめたい思いをせずに生きていくことができるような場をつくっていかないといけないんじゃないかな。そうしないと福島が成り立たないと思います。

鎌田:そうですね。今のままでは、出て行く一方で戻ろうとする人はいない地域になってしまう。それこそ高齢者だけが取り残されて、若者が育っていかない。

丹波:福島には自給農家が結構多いんですが、「大事に育てて作った米を孫に食わしたい」と思ったら、娘から怒られたり。そういうことを巡って、家族がばらばらになっちゃうんですよね。地域もばらばら、家族もばらばら。そこに福島が今抱えている課題があって、どう再建できるのかっていうのはすごい難しいことではある。科学者でさえ放射能をめぐって意見が違うんですから。けれども、まずはお互いの共通理解からはじめない限りは物事は進みません。

-右腕として福島に入ることを考えている方や「みちのく仕事」の読者に向けて、なにか伝えたいことがあれば教えてください。

丹波:残った人たちに対して、「なんで福島にそんなに人がいるんだ」っていう方が時々いるんですね。「あんな危ないところに人を」って。でも福島の人たちは何も考えていないわけじゃなくて、それぞれの状況の中で合理的な判断をして、決断をしているわけです。ここで生きていく人も県外で生活している人も。だから右腕派遣される人も、ある意味でその決断を迫られているのかなと思いますし、するかしないかは本人の選択です。今ここでは、最後まで自分で責任を負うという市民が求められている。これは、本当は原発問題だけじゃない切り口においても言えることだと思います。日本の安全は守らなきゃいけないけど基地が自分のところにあるのは嫌だとか、そういうご都合主義ではもう福島では生きていけないということなのでしょう。さっき言ったようにいろんな課題や矛盾もあって一筋縄では行かないんだけれど、それを解決する面白みも僕はあると思う。1000年に1度の大災害と言われていて、右腕の人たちは前人未踏の場に携われるチャンスでもある。そういう機会を活かしたいと思う人が、ぜひ来てくれるといいなと思います。

鎌田:福島では、もう忘れ去りたいって思う人たちも多くて、今は表立って「私は放射能に関してこう考えているよ」っていうのは誰も言いません。言うと、価値観の違いから人間関係が壊れてしまうから、身近な友達とですら自分の意見を言い合えないというような状況です。そんな中で、「こんな考えもあって、あんな考えもあるけれど、私はこうだよ」と、お互いの価値観をちゃんと尊重しあって「一緒にこうしたいね」ってできる結び役というか、いろんな価値観を受け入れられる人がいいなと思います。福島イコール放射能というわけではなく関東でもホットスポットと言われる場所はあるし、この先もどこかで起こりうるかもしれない問題で、福島だけの問題ではない。自分はどう捉えてどう解決の糸口を見つけていくのかを当事者として見据えた上で、自分なりの選択や関わり方、成果の残し方を考えていただけたらと思います。

丹波:そうですね。無用な被ばくは避けた方がいいことには変わりないし、正しく怖がればいい。リスクを無視して来なさい来なさいって言っているわけじゃなくて、正しく理解した上で、自分で判断して自分で決断して来ていただきたいなと思います。自分は行きたいと思っても、親や親族や友達やまわりから反対されることもあるかもしれません。それくらい決断が必要な状態でもあるということも理解して欲しいです。安易に決断は出来ないし、自分なりに納得していかないと後悔すると思います。

鎌田:目に見えないことが本当にね、すべての問題に深刻に絡まっていて。来ていただいてわかると思うんですけど、もうこの生活が普通なんですよ。震災1ヵ月後くらいからそうでしたけど、誰もマスクなんてしていないし、放射能さえなければ福島は普通の田舎でしかない。だけどそこに本質的に根をはっている問題っていうのは、かなり複雑的にいろいろな方向の中で絡まりつつできている問題で、紐解きはそんなに簡単ではない。本気で一緒にやれる方に右腕として入っていただいて、福島でこれから生きる人たちに仕組みなのかノウハウなのか人柄なのか、何かしらのおみやげを残していただけたらと思っています。

聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:田村真菜(みちのく仕事編集部)

■インタビュー前編はこちら:今、福島で起きている問題とは ■右腕募集情報:福島大学災害復興研究所

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