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特集記事 行政のバイパスとしてのNPOと、支援のこれから

リーダーがビジョンを語る4720viewsshares2011.11.29

行政のバイパスとしてのNPOと、支援のこれから

リサーチ・アセスメント・提言を通じて、東日本大震災の復興支援活動をしているRCF復興支援チーム代表の藤沢烈さん。最前線ではなく、一歩引いた立場から現地の支援をされてきた藤沢さんに、情報を分析する中で見えてきた支援のあり方についてお話を伺いました。【RCF復興支援チーム・藤沢烈(1)】

―震災後の藤沢さんの動きを教えてください。

もともと僕はベンチャーの支援とNPOの支援を両立していたのですが、東日本大震災以降は、すべての時間を震災支援に費やしていました。宮城のすべての避難所をボランティアが巡回して、衛生や食などの環境をヒアリング、個別の問題があればそれを専門団体につないで解決する「つなプロ」というNPOによる支援プロジェクトがありました。この中で、現地に入っている人がミクロの支援をしているのに対して、RCFはマクロの状況的変化を分析する役割。400の避難所すべてのデータをもとに、週単位で状況がどう変化しているかをレポートにして県や自衛隊に届けたりしていました。その後、国とボランティアとの情報連携を行う震災ボランティア連携室が内閣官房にでき(※現在、復興対策本部に統合)、私は岩手担当になりました。隔週で現地のNPOや県庁の動きを確認して政府につないだり、政府の考えを現地に伝えたりしていました。

普通はボランティアといえば現地に入るものを想像しますが、藤沢さんの場合は少し引いた所からマクロに広く見るポジションだったんですね。

当時テレビなどで報じられましたが、一ヶ月たったにも関わらず被災者の食事内容は依然として粗末な状況でした。おにぎりやカップ麺が中心でおかずがつくことは少なかった。そのとき国や県はこうした状況を把握するための面的な調査をやっていませんでした。4月の終わりになってようやく、県や市町村があまりに避難所の状況をつかんでいないと問題になり、国が直接、つなプロに近い形で被災地の調査をはじめたのは5月からでした。つまり、政府には当初あまり情報が集まっていなかったのです。県や市町村が業務でパンクしており、そこを通じて政府のほとんどの部局が情報を集めていたからです。こういう非常時には、政府だけでは対処しきれないことが出てきます。その意味では、つなプロは政府に先立って調査をしたことで重要な役割を果たしたといえます。

―現地の情報を集めて伝えることはとても重要だったんですね。

そうですね。支援する側と被災地で情報がうまく伝わらないことが原因になって、多くの問題が起こりました。今も物資を送られてくると地域の経済が回らないという現地の声がありますし、送られた物資を管理する方法も問題になっています。気仙沼の教育委員会の方から次のような話を聞きました。あるとき電話で「地域でランドセルを100個集めました。ぜひ送らせてください。」といわれたことがあったそうです。既に気仙沼にはランドセルが1000個も届いているので、断ろうとしたところ、泣かれてしまった。それでその方は折れて、「じゃあ送ってください」ということになった。こんな冗談みたいな話が現実にあります。

善意のお金や物資が集まってしまったからには、送らないと詐欺になるかもしれない、だから支援者は必要とされていなくても送ってしまいます。けれども現地の人はもう物資はいらないので送られても扱いに困ってしまう。現地の状況把握をせずに支援することがマイナスに働くことになってしまいます。

―どうすればよいのでしょう?

被災者支援の初期には、行政の対応能力がボトルネックになっていました。ボランティアセンターも市町村の役場もそうです。しかも、合併などで市町村の機能などがどんどん統合・整理されていたので、余計に大変でした。医療の問題、瓦礫の問題。死者がたくさん出て、産業も全て被害を受けて、それらに対応しなければいけない上に、メディア、国や県にも対応しなければならない。市町村の役場の方々は、自分たちもまた被災者であるのに、完全無休で働いていました。だからといって簡単にそこに手伝いに入れるようにはなっていませんでした。

行政の取りこぼしたところを拾って細かく支援する、それだけならば小さいNPOにもできるはずです。でも、行政がパンクしている分を自分たちでやる必要も出てきた。第二の赤十字も、第二のボランティアセンターも、第二の市町村もあるべきでしょう。これからは、NPOのような民間の団体が、被災者につながる支援の行政に代わる担い手に成長すべきです。

―どのNPOにもできることではなさそうですね。

ただ現地にお金を送ればいいわけではありません。義捐金が配られたらすぐに、パチンコ屋に開店待ちの行列ができたといいます。被災者の方にお金を渡すことは大事ですが、そのお金が有効に活用されるかはわからない。単純に見えて難しいのです。

さらに、NPOに求められる役割も変わってきています。これまでは企業からお金を預かってそれを配分する役割を担うことが求められ、事務能力に長けていて、いろんなNPOをよく知っていて、安心してお金を配分できるところが支援活動の中心となっていました。しかし今回の震災では、企業などの信頼を得てお金を集めることができても、地元のことを知らなければお金の使い道は分からない。お金を集めたNPOではあまり役に立てなかったのです。

―そうだったんですね。

今後は戦略プロデューサー的なNPOが求められます。中間組織として、問題を把握した上でプログラムの策定が必要となり、それを実行するためにどのようなNPOが必要かということを全て考えられるNPOです。イギリスにはイーストコンサルティングという社会起業専門の会社があります。そこが4~5年前に、ロンドン中のホームレスをなくすというキャンペーンを行いました。そのときに10社から10億円集めました。それから炊き出しをしている小さなNPOも100団体集め、1年間キャンペーンを実施しました。プロジェクトの中心にNPOが立って、ホームレス問題を理解した上でパートナーNPOも集めたのです。集めるだけでなく、そこに資金を提供しモニタリングをし、成果をきちんとドナーに報告しました。

また、最近では企業による支援活動についての新しい考え方が広まっています。欧米には、従来のCSRに代わる概念、CSV(creating sheared value)という考え方があります。企業は、経済活動をした上で社会的問題を解決するのではなく、社会問題と経済合理性との両面にはじめから取り組む、というものです。日本ではCSRが主流でした。企業は公募でパートナーを募集して、お金は出すけれど、事業内容には深くは関与していなかった。しかし、今回の震災を期に一部の企業は変わりました。これまでとは比べ物にならない規模で、いろんな企業の経営トップが率先して支援を進めています。

社会がつぶれてしまったら経済どころではないと危機感が高まり、その際に、自分たちは社会的事業に沿うNPOに支援をするということになりました。

―NPOも待っているのではなく、自らビジョンを持つ必要が出てきた。

そうですね。

ビジョンを持って復旧した事例として、50日で復活した東北新幹線が挙げられます。1200箇所で様々な障害が発生していましたが、その復旧方法がよかった。まず最初の3日で問題点をすべて洗い出しました。続いて全国の会社に声をかけ、工事作業員を1000人単位で集めました。このように問題の全体を見渡しながら復旧を進めた事例になります。一方で、瓦礫処理はその場その場での対処になっていました。まず瓦礫を目に見えない状態にすることだけを考えて、作業をはじめました。しかし、中間処理場が瓦礫でいっぱいになり、一度作業が止まりました。その後、中間処理場を増やしましたが、続いて産業廃棄物と一般廃棄物の分別に時間がかかりました。さらには福島原発の問題で線量の高い瓦礫が生じ、また作業がストップしました。こうした問題はある程度事前に予測することができたはずです。しかし、十分な分析ができていませんでした。

問題点を予測し見つけた時は何が起きるかを真剣に考えなければならない。それが震災の現場ではできてはいませんでした。

―なるほど。では最後に、藤沢さん自身が支援をしてきて思うところを教えてください。

社会に貢献する仕事をしようと言い続けて来た自分が、震災を機に何もしなかったら嘘をついていたことになります。たしかに震災でこれだけの被害が出て、放射能の問題もある中で、自分ができる限りのことを尽くすのが当然だと思います。しかし、反省点も多くあります。あるとき福島の方に、「藤沢さん、いろいろやっているけど福島のことはやっぱりやられていませんね」と言われました。岩手と宮城では被害は止まったのに対して、福島はいまだに原発被害が続いています。ボランティアも岩手や宮城に比べて福島は約三分の一です。NPOの数も三分の一。しかし、避難者の数は福島で倍以上存在します。福島の人たちは自分たちが見捨てられていると思われている感覚が強い。なんとか福島の支援をしたいと考えています。

―ありがとうございました。次回は被災地の状況についてお伺いします。

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