リーダーがビジョンを語る
出会いが花咲くみんなのリビング
「まちのリビングのような居心地のいいカフェをつくろう」――地域の人が気軽に集まり、ほっと休める場所にしたいとの思いからスタートした、りくカフェ。東京大学の小泉秀樹准教授ら都市計画や建築の専門家のサポートを得て笑顔あふれるカフェがオープンしています。中心メンバーの吉田和子さん、鵜浦淳子さんにお話を伺いました。【りくカフェ・吉田和子、鵜浦淳子】
-ここはいわゆるカフェなんですか?
和子さん)はい。名前は私たちがつけたんじゃないんですけどね。要するに皆が集まる場所が必要だということからコミュニティカフェということで始まって、じゃあカフェってついてるからコーヒーいれるのかしらねって。どっちかっていうとそちらからなんです。
-なるほど、ではそもそもは…。
和子さん)そもそもは、コミュニティのためのスペースということで、東京大学の小泉さんがそういう場所が必要だってことからつくろうとなりました。
淳子さん)だからお茶を飲まなくても、ただ休んでいただいてもいい。持ち込んで食べていただいてもいいですし。ただ、それだと運営していく上での資金がまったくないわけですから。運営していくのに、それじゃあコーヒーとか出そうということになって。
-そうなんですね。
淳子さん)やっぱり、おいしいコーヒーを飲みながらおしゃべりするとほっとするし、良いんです。
和子さん)それでコーヒーを出すならケーキもじゃない?ってなったりして。
淳子さん)だんだん広がって。
-はじめはコミュニティスペースというか、リビングともおっしゃってましたね。
和子さん)そう。街のリビングプロジェクトというのは、たとえばこれまでは鵜浦医院のところにいらした患者さんがバス待ちのために寒い中そのへんに立っていたわけですよ。それがこういうところに座って待てるよという、そういう場所をつくるプロジェクトなんです。
あと、私の家は吉田歯科医院なんですけど、たとえば入れ歯を修理しに来ても、今までだったらいっぺん家に戻ってまた何時に来てくださいと言うところなんですが、今はなかなかそういう動きがとれなくなっちゃってるんです。だから、ここで待っててくださいと。そう言えるのはすごくいいんです。そうすると、待っててもらって「はいできましたよ」ってぱかっと入れ歯を入れて帰れるし(笑)
-そうですね(笑)。
淳子さん)どうして町のリビングなのかというと、震災後、吉田和子さんの家が街のリビングだったんです。みんなが集まってお茶を飲んだり、支援物資が集まってみんなで分けたりする場所だったんです。
-中心だったわけですね。
和子さん)仲間内ではね。私は元々出身が東京だったものですから、みんなが支援物資を送ってくださって。陸前高田の吉田和子はここしかないし、クラス会に出るために東京に行くと、あなたそんな岩手からよく来るわねって言われていましたので。
-クラス会に。
和子さん)はい。東京のクラス会に行くと、友達が「なんで岩手行ったの」とか、「陸前高田ってどこ?」とかそういう話題になるわけです。その話題が突然今回は、「陸前高田と言えば吉田さんじゃん」となるわけじゃないですか。そうするとなんか大変なんじゃないの?と連絡がくるんです。
「なにが欲しいの?送ってあげるから」って聞いてくれるので、まわりに聞いてみたのですが、最初のうちは「何もないから何でもいい」と。そこで「なんでもいいわよ」と答えていました。
それが少し経ってくると、高齢者用の下着が欲しいとか、扇風機とか、3Lのパンツとか、いろいろ要望が上がってくるようになりました。そのたびに「次のご要望はこれこれしかじかよ」などとお願いしているうちに、我が家はみんなが送りたいものを送る場所になっちゃったわけなんです。送ってくれる人としては、ほんとに必要としているものを必要としている人のところに送りたいというのがすごくありましたし。
-そうですね。
和子さん)そうすると300箱届いたんですよ。
-え?
和子さん)300箱!
-全部で。そんなに。
和子さん)はい。最盛期は一日に10~20箱は。ヤマト運輸さんが来るでしょう。「今日何箱?」って聞くと「17箱です!」という感じで。
-ええ~!
和子さん)そうやって届くと、みんなが集まってきて振り分けて。「わあ、これもらうわ。」「早く早く。どんどんもらってって」という具合に、そんなことを家でしていたわけなんです。
淳子さん)そうすると、そこでお茶を出すわけです。
和子さん)せっかくだから「じゃあお茶飲もう」ってみんなお茶飲むじゃないですか。それでいろいろしゃべるようになって、「じゃあまたね」「また来てね」と、一か月間くらいそういうことを繰り返していました。
淳子さん)そこにたまたま小泉先生がいらして。
和子さん)その様子をご覧になって、こういう場所が必要なんじゃないかっていうことになってここまで来たわけなんですよ。
-なるほど。
淳子さん)そうそう、そうなんですよ。まさかこういうことになるとは思わないで。
淳子さん)何気なくこういう場所がまったく街になくなったから。個人のお宅に行くのはご迷惑もあるじゃないですか。
和子さん)それにね、家に来てほしくない人来たって嫌じゃない(笑)。
淳子さん)でもほら、すごく居心地が良い場所があれば、みんなが集まって少しでも発散することができる。しゃべる場所って必要なんですよね。
-しゃべる場所。
淳子さん)はい、おしゃべりする場所っていうのは絶対必要なんです。
-だいたいいつくらいまで支援物資は届いてたんですか?ピークは?
和子さん)4月…。
淳子さん)いやずっとですよ。冬まで。
-ずっと続いてるんですね。
淳子さん)だって冬は冬でほっかいろとか。じゅうたんとか。
和子さん)夏は扇風機がすごかったね。みんなが扇風機がないと暑いわよねというのが始まって、それがfacebookとかで広まって。扇風機はね、扇風機は…80台きましたね。
-80台!すごいですね!
和子さん)その時はね、毎日、「ヤマトさんなあに?扇風機?」っていうと、「そのようですよ」って4台ずつくらい。どうやってそんな届いたかっていうと、ロサンゼルスにソニーの社員がいるんですよ。まさきくんっていう。その人が、「和子さん、なんでも言ってください。僕の人脈でいろんな人に言ってみますから」って。
だからちょっとメールとかで、いや実は「扇風機が欲しいとみんな言っている」と伝えたら、「扇風機ですね。わかりました!」ってみんなに伝えてくれたんです。そうするとしばらくして「これから扇風機がどしどし行くと思いますよ。驚かないでください」と連絡がきて。それで、どんなふうに来るのかなと思ったら、知らない人からも扇風機が4台送られて来るんです。
-へえ~。
和子さん)「誰だかわからないけど来たからいいのよ。そのために送ってきたから」とか言ったりして、みなさんに扇風機を渡して(笑)。みんな「いいんですか。」という感じで。
-そうなんですね。
和子さん)少し落ち着いて、夏場が過ぎて秋になると、今度はまた小学校時代の友達が、「もうすぐ冬になるけど何が必要なの?」と聞いてくれるわけですよ。
-はい。
和子さん)またまわりと、「こたつかねえ」「電気式毛布かねえ」などと言っていたら、ある人が電気式毛布を送ってきてくれたんです。するとみんなが「え~!電気式毛布があるの~」という反応だったので、「どうやら電気式毛布の需要がありそうだ」と思って、またまさきくんに「電気式毛布が必要なようです」とお願いすると、「わかりました!」という感じで。すると面白いことに以前、扇風機を送り損なった人がいるわけですよ。
-ああ…。
和子さん)よかったら送ってと言われても、前回送りそこねた人がいて、そういう人が今度こそ私だと言ってくれて。
-そうですよね。
和子さん)そして、電気式毛布が80数台。
-そんなに!
和子さん)私が東京生まれだったということがすごいよかったと思う。だって地元の人だったらみんな被災しちゃってるわけだから、なんともしようがないじゃないですか。気持ちがあっても。
-親戚がいたとしてもだいたい近い地域ですからね。
和子さん)それに親戚がいたとしても1品、2品ならくるけど30、50は来ないでしょ。だからそれは、人とのつながりがあったためにこんなに広がるもんだと思うくらい広がりましたね。
まさきくんという人に言ったら、この人が送ってくる、この人が送ってくる。みんなが送ってくるでしょ。だからみんなとfacebook仲間になっちゃったり。もう、逆にすごい人の輪が広がった。
-うーん。
和子さん)顔も見たことないんだけど、みなさんが「和子さん家族とか大丈夫ですか?」とか言ってくれて。それはうれしいですよ。
淳子さん)ほんとねえ。そういうのが…。小泉先生との出会いもそうだしね。
和子さん)やっぱりすべて出会いの、ちょっとした出会いからこんなに花が咲く感じですね。それが最終的にこのカフェになったわけだから。ここに来たら来たでまた広がりすぎるくらい広がってますね。
-そうですか。
和子さん)ここでみんな言ってくれるのは、カフェでみんなとの出会いがあって、気分転換になるって。だからこの場所はみんなにいいよね。小泉さんが、「みんなが楽しくなってればいい。それが一番です」っておっしゃって。「楽しくやってるよね」って感じですね。
淳子さん)だから私たちはあまりにウエイトレスとか接待みたいなことをせずに、私たちもここでお茶を飲んだりして。「いつもいっぱいね」と言われるけどスタッフだけでいっぱいという時もある(笑)
和子さん)そういう時もあってもいいねという感じです。そう。先日もたまたまいらしたとらやさんという会社の方となじみまくっちゃって。
-そういう新しい出会いも生まれるわけですね。
和子さん)生まれるわけなんです。そう。それはおもしろい。だから、私、ちゃんとほかのスタッフがいる日にも、たまたま来るとそうやって話が広がるような人達との出会いが多いですね。
たとえばこうやってスタッフがケーキとかつくってくださって、食べてもらってやっぱりうれしいもんですよ。こういうのってね。みんなが「わあ!」って言うと、「またつくっちゃおう!」という気になるし。だからすごくいいかな。自然体ですよね。
とても素敵な場所でした。ぜひ陸前高田を訪れたときは顔を出してみてください。みちのく仕事でもまたお伺いしたいです。ありがとうございました。
りくカフェのHP http://rikucafe.jp/
聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:坂口雄人(ボランティアライター)