リーダーがビジョンを語る
チャレンジできる場所が生まれるまで
震災以降、「ヒトの誘致」をテーマに様々なプロジェクトを実施する石巻2.0。東日本大震災からの復興のみならず、疲弊する地方都市の再生にも活用可能な新たなまちづくりのスタイルを全国へ送り出そうとしている。前回に引き続き、その代表の一人である松村豪太さんに2.0として活動するまでの経緯と、これからを伺った。【一般社団法人石巻2.0 代表理事 松村豪太(2)】
―改めてになりますが、豪太さんがここに至った経緯を教えて頂いていいですか?
生まれは石巻だったのですが、石巻を飛び出したくて高校は北海道、大学は仙台に行きました。そのまま暫く仙台にいたのですが、数年前から石巻に戻ってきて、震災時にはNPO法人のマネージャーをしていました。というのも、伯父が8年前に総合型地域スポーツクラブというカテゴリのNPOを立ち上げて、人を探していたんです。そして、僕もNPO法人というもの、特に運営に興味があったので、手伝うことになりました。
―具体的にはどのようなことを?
主に運動の苦手な方を対象として、スポーツの機会を提供していました。特にウォーキング事業では、石巻の人もあまり注目していない歴史的、自然的資産、あとは食材を楽しみましょうと、スポーツを通したまちおこし的な活動を震災前からしていました。
―3月11日はどうしていたのですか。
ここから30メートルくらいのところにある、川近くのオフィスにいました。天井近くまで津波が押し寄せたので、一晩は二階で過ごしました。次の日にはヘドロが30~40センチ残っていましたが、水は引いていたので外に出ることは出来たんです。やることがたくさんあったので、多くのスポーツの関係者や手伝いに来てくれた方達と一緒に自分のオフィスの泥かきから始め、隣にどんどん広がっていきました。更には、掘り起こした食器を皆で洗いましょうってやっているうちに、自分の周りだけじゃなくて外からも段々ニーズをいただくようになって、プチボランティアセンタ-的なことをしていたんですよ。
―自然に生まれるものなんですね。
そうですね。そういう活動をしている内に、大学の研究者や建築家、広告代理店の方とか、様々なアイデアを持った方達と出逢って、夜な夜な話をしていました。
石巻2.0のもう一人の代表阿部久利は、430年続く旅館をバックボーンに持つレストラン経営者なのですが、彼の店舗も半壊状態だったので早い段階で解体したんですね。残ったスペースで毎日発電機で灯りをともして、鍋をつついたりして語り合っていたんです。そこで話をしている中で分かったのは、僕も阿部も、同じ問題意識を持っていたということでした。
―というと?
先ほどお話した、元々石巻が抱えていた問題点に関してです。だから、石巻2.0は新しい立場でよりオープンに、多くの方が手を挙げやすい環境を作っていこうということになったんです。
―スタートしてからはどうでしたか。
街の方たちの変化というよりも我々が気付かされたというか… 今まで中心になって決めていた上の世代というのは比較的つまらない人間だと決めつけていたんですが、震災後いろんな活動を通して、実は素晴らしい方がたくさんいたということに気づかされました。それは自分達を恥じるばかりなんですけども、本当に文化的素養が深くて、奉仕の精神のある方たちでした。でも、そういう方たちって、意外と今まで街づくりに積極的にコミットしている人ばかりではなかったんです。だから、我々は積極的にそういう方たちと繋がっているし、応援しても頂いて、良い関係が生まれていると思います。
―すばらしいですね。
石巻2.0で活動するメンバーには、立ち上げ当時からのコアメンバー以外にも様々な繋がりから関わるようになってくれた人もいます。継続的に運営の面で関わってくれる方もいますし、プロジェクトやイベント単位での関わり方をしてくれる方もいる。とにかく“人を巻き込む”というところが我々の活動のキーワードになっているのかもしれないですね。
―結果として良い発見も、良い関係も出来ましたね。
はい。あと今まで気づいていなかったことがまだあって、行政や商工会議所の中にもやはり我々と同じような想いを持っている熱い方がいたんです。やはり、自分達だけでやってしまうのではもったいないと思うんですよね。
―これからどうなって行くのでしょうか?
ここから数年は、復興需要で物が売れたりすると思うんです。ただ、震災前から石巻の人口は減っていて、合併後2万人近く既に減っているんです。この先も流出は進むでしょうから…パイがどんどん減っていくのは間違いないんですね。その中でコストをかけて建物やお店を再建するっていうのは勇気のいることなんです。なんとか住める状態でも、今なら行政のお金で壊すのはタダですよっていう提案があるとみんな乗っかってしまって、毎日1戸以上建物が消えて、空き地がどんどん増えているんです。でも、そうやって出来た空き地の次のアイデアっていうのはハッキリ言って持っていないですね。だから、どんどん塩漬けの土地が増えて、街がどんどん死んでいく危険が切迫しているんですよ。
―深刻ですね。
その一方で、自然発生的なアーティストインレジデンスのような活動や拠点が生まれたり、自分達がリフォーム、リノベーションしてシェアハウスが出来ていることってとても面白いことだと思うんです。だから、こういったことも行政の支援をしっかり受けられるように繋ぎながら、そういうライフスタイルが生まれる仕掛けが出来れば面白いのかなと、今アイデアを練っています。
-最後に何か伝えたいことがあれば教えて下さい。
出来るだけ場づくりをこれからもしていきたいと考えています。このIRORIという場所をノマド的に利用して頂く事も歓迎しますし、あとは地元の方と繋ぐことはできるだけさせてもらうので、多くの方がチャンスと思って入ってきてほしい。むしろ、チャンスという以上に楽しみを見つけにやって来てほしいです。今までやりたいけれども実現できなかったアイデアをここで実現してもらえたら良いですね。
―そうですね。
本当に面白い出来事がぽんぽん生まれていますので、街を歩くだけでも楽しいと思いますね。あとは、東京の若者あるいは仕事をされている中堅の人達、何人かで街の中や海沿いの建物を別荘の様にシェアして頂いて、週末に遊びに来てもらうようなやり方も面白いと思います。
―なるほど。いろいろな可能性が考えられますね。ますます楽しみです。ありがとうございました。
●石巻2.0 http://ishinomaki2.com/
●インタビュー前篇「まちづくりの暖簾分け」 http://michinokushigoto.jp/archives/5675
●石巻2.0 小泉瑛一さんのインタビュー「未来の石巻をつくる、ものづくり、まちづくり」 http://michinokushigoto.jp/archives/2719
聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:加納実久(ボランティアライター)