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特集記事 「気づいたらもう動いてた」教育支援NPOアスイクが誕生した日

リーダーがビジョンを語る8228viewsshares2011.10.21

「気づいたらもう動いてた」教育支援NPOアスイクが誕生した日

震災直後。まだ学校の再開すら危ぶまれている時期に、宮城県仙台市で立ち上がった、子どもの教育支援NPO団体「アスイク」。「教育に関わることになったのは偶然」創設者の大橋雄介さんはそう語る。彼がなぜ教育に携わることになったのか。その経緯や現地での活動について伺った。【アスイク・大橋雄介】

学習スペースが無い中での活動


—アスイクをやることになった経緯を教えてください。

僕はせんだい・みやぎNPOセンターの非常勤職員なのですが、震災後に行政の職員幹部や現地のNPOが集まって今後のことを考える会議があったんですね。その会議の中で「津波で学校が崩壊してしまって、残った学校にも何十万人という避難者が避難しているので、学校を再開できるかすごく心配だ」っていう話が出て。
その時に僕は、教育という基本的な行為をここ数ヶ月に渡って受けられない子どもが出てくる可能性があるんじゃないか、と感じたんです。で、子ども支援のNPOは沢山あるけど、学習支援をやっているところは無かったし、震災でNPO自身も被災して活動できない団体も沢山あって、誰もやらないのであれば自分が早く動かなくちゃいけないな、と思って、すぐ立ち上げたというのがそもそものきっかけです。

―これまで、どんぴしゃで教育に関わるお仕事というのはなさっていたのですか。

学校教育には携わっていなかったです。もともと東京教育大学という名前だった筑波大学出身ですけど、教員免許は持っていないですし、中学生の時に、絶対教師にはならないと強く思ったことがあって。中学校の時の教師が最悪で、こんな酷い人間がいる仕事は絶対やらないと。そんなふうに思っていた人間がなぜ教育をやってるのかって、自分でもよく分からない(笑)。でもそんなもんかな、と思って。これまでの活動もそうでしたけど、とりあえず目の前の機会を捕まえてみて、そこから動いてみる、というのをずっとやってきたので。入口はなんでも良かったのかなと思うんですよね。

—なぜその入り口が教育だったんでしょうか。

なんですかね。僕自身よく分かっていなくて。気付いたらもう動いてたっていうのが正直なところですね。後から振り返ってみると、人を育てることにずっとこだわりがあったっていうのもあったし。もともと仲がいい会社の経営者が教育関係の仕事をやっていたということもあって。そういうことも関係していると思いますね。最終的に目指しているところは、何の領域でやっても多分似たようなところに行く気がしていて。それはやっぱり、より多くの市民が、自分たちが住んでいる社会に当事者意識を持って関わっていく。そういう社会を創っていくことだろうなと思って。そこが大きなビジョンで、そこに行きつくための手段はなんでもよかったのかもしれない。

―地震の後に、教育支援をやろう!と決めてから、はじめに何をしたのですか。

まず知り合いの教育関係の社長さんに電話して、会社の事務所や教材を貸していただいて。そしてそのあとすぐ考えたのが「復興後にやってくる明日のために教育を」というキャッチフレーズだったんですよ。で、団体名は、かなり安易なんですけど、明日と教育の育をくっつけて『アスイク』にしたんです。結構アスクルさんなどと間違えられるので、ネーミングとしては少し失敗したかなとも思っているんですけど(笑)。でも、動きが早かったので、「明日すぐに行きます」という意味なんですよね、とか言われることもあって、あー、そういう意味もありだよな、って思ったりしてます。

—そのあとはどんなことを。

最初に旗をあげたところに色んなものが集まってくるだろうと思ってたので、いちはやく活動をやろうと必死だったんですよね。だから、その次の日からメールなどで学生に声をかけたりして、活動したいという希望者を集めていました。それをやりながら、避難所との交渉や調整も進めて。当時はまだガソリンも無かった時期だったので、チャリンコでずっと避難所を回っていました。

—苦労したことや印象に残っているエピソードはありますか。

若林地区での1番最初の授業ですね。まず、参加する子どもをどう集めるかというのが結構大変だったんですよね。避難所に行って一人ひとりに声をかけて「こういう活動どうですか」と回ったんですよ。「ちょっといいですか」と声をかけて「全然よくないわよ!」と怒られることもあって怒られたり、中には怒ってくる方もいて。そういう時は「すみません!」と謝って次にいって。結局、4人の家庭がとりあえず興味を持ってくれたのですが、子どもの方は全然興味のなさそうな子もいて。「1回やってみて、嫌だったらもう来なくていいから」と言ってとりあえず連れてきました。当日の朝、子どもは疲れてどんよりした顔をしているし、これ、本当はやったらまずい活動なのかな…とすごく不安だったんですよね。で、4人集まって、最初にこう挨拶させたんです。「よろしくお願います」と。そしたら、その時の写真は今も大切に持っていますけど、その瞬間に、みんなの顔が笑顔になったんですよ。結構、鳥肌が立つような経験で。「やってよかったんだな。他のところでもやっぱり必要かもしれないな」って思って、強烈でしたね。

―だいたい何か所くらいで、何人くらいのお子さんをサポートしたのですか。

3か月で、4市町・9か所の避難所を回って58回。参加したサポーターが延べ308人、子どもが延べ444人です。せっかく開拓した避難所が軌道に乗ってきたのに、「もう終わりっすか」という気持ちになったこともよくありましたね。

 

―これからの活動をどう展開しようと思っているか聞かせてもらえますか。

これからの1つのポイントは学習支援のクオリティーだと思っています。今までは支援者のスキルが自己流でバラバラなところがあったのですが、そこをどう、誰がやってもある程度の内容を提供できるようにするか?というのが1つのポイントかなと思っております。具体的に何をやるかというと、教育のプログラム化をして、3ケ月サイクルで1回目はこんなことをやって、2回目はこんなことをやって、と大枠の枠組みを作って、それに沿って学習支援をしていくことが1つ。そこでの1番の特徴は、「関係構築」というのを第1回目の授業に持ってきていること。そこで1回分、1時間分使ってしまおうと。

—なぜ「関係構築」を重視するのですか。

関係構築を重視するのには2つ理由があって、今回被災した浜の方の子どもはもともと塾慣れしていないらしくて。だから、いきなりがーっと教えられると来なくなっちゃうのではないかと思って。それは自分の実体験としてもあって、あ~、そういうことあったなーって。だからゆっくりゆっくりやっていく必要があるということで、関係構築が大事だな、と思った。もう1つは、今回被災した子どもたちの状況に合わせてなんですけど、結構、家族を亡くしてしまった子どもって多いんですよ、本当に。そういう子どもたちは結構気丈に振る舞っているのですが、親の方も疲弊してしまって、どんよりしてしまったりするんです。そういう状況の中で、親と子供の関係も変わってくると思うんですね。実際、父親とすごく相性が悪くなってしまった子供の話も聞いたりしていて。気丈に振る舞っている子どもには話せる相手が必要だと思うんですよ。なんか、そんな関係性が学習っていう結果の部分よりも前提として大事なのかなと。そういう意味での関係構築ってことですよね。

—学習だけではなく、前提としての心の支援も行うのですね。

はい。もう1つは、河合塾さんと連携が決まって。河合塾の講師が困ったことに対してウェブ上で相談に乗ってくれる、そういう仕組みを作ってくれたりとか。あとは3か月に1度くらいの頻度で対面で研修をやってもらって、教える技術を底上げしてくれるなど。そういうことが決まりましたね。プログラムと企業との提携、この2つで、少しクオリティーを上げていこうかなと考えています。

―先ほど「教師にだけはなりたくなかった」とおっしゃっていましたが、どんな教育を大事にしていきたいですか。

自分が嫌いだった教師は、クラスの落ちこぼれの子どもに対して差別的だったんですよね。成績のいい子供に対してはちやほやして、勉強ができない子には冷たく当たるといったような。そういうのを見たときに、理不尽というか、「本当に信用できないな、この人」と思った。だから、僕自身の1つのこだわりは、ついていけなくてドロップアウトしてしまった子どもに、寄り添ってあげることかなと思っています。そういう教育を目指していきたいし、今の社会の中で絶対必要なことだと思うんです。本当に今、格差を是正するための教育が機能していないと感じます。そこを民間の団体が、穴を埋めていくことが必要なのかなと思います。

―「ここはやりきろう」と思うところはありますか?

一通り経営の経験を積んでみたいですね。今まで個人事業主のような感じでしたけど、組織を作って、社員を雇っていく。自分の意志としてやっていきたいと思っています。あとは、自分が倒れるにしても、誰かに引き継げるようなノウハウを残していきたいです。ただでは倒れないというか(笑)。次の世代に引き継いでいければ、やった価値はあったのかと思いますね。でも、ここまでやればいい、というのは問われると難しいですね。言葉にできないです。

―今回、特に難しいですよね。お話ありがとうございました。またお伺いします。


※インタビューした月と現在の状況は変わっている可能性があります

■右腕募集要項:仮設住宅で生活する子どもたちの 教育支援プロジェクト(募集終了)

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