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特集記事 「人のために何かする人」が、1人でもいれば

リーダーがビジョンを語る12085viewsshares2012.09.19

「人のために何かする人」が、1人でもいれば

破棄される1000頭ものシカの肉を全て回収し、救援物資にできないか。地元の日本製紙(株)を定年退職し、狩猟を趣味としてきた三浦信昭さん。被災地・石巻で、シカ肉を加工販売しており、木の屋石巻水産さんに依頼して缶詰も製造している。「人に喜んでもらえさえすればいい」という想いについて伺いました。【丸信ワイルドミート・三浦信昭】

 

 

―シカ肉を販売しようと思った経緯を教えてください。

牡鹿半島は、シカがいっぱいいるんだよ。年間1000頭くらいとれるっていうから。しかも持って帰らないで、そのまま捨てちゃう部分もいっぱいある。それで「できれば肉を全部回収して、缶詰にして救援物資にしたい」と考えたわけ。

たまたま定年になって時間もあったし、この商売で食べてゆけなくとも困らない程度の十分な生活はできる。飢えている子どもたちもいる中で、ちゃんと調理すればおいしい肉を捨てるなんて、もったいないことするなと思っていたから。それを、1人でも2人でも多くの人に食べてもらえば、命を獲られた動物も本望だろうと。

―現在多くのボランティアが「ワイルドミート」の活動に参加しています。

できれば、廃棄された1000頭を全部回収して救援物資にできたら、って夢を持ってやったんだけど、歳をとりすぎたな。1人でやるのは大変だ、誰かに手伝ってもらわないと。若い奴は大好きだし、ボランティアで大学生なんかもいっぱい来てたからさ、そのうち、この事業にやる気のある奴が出てくるかなって思いながらやってる。でも、なかなか色々な問題があるんだよね、やっぱり。あるというより、こちらが作るんだよな。

―問題を作る?

ああ。なんというか、鉄砲撃ちなんてのをやっている人たちはさ、一風変わってるんだよな。派閥とか、色々なルールみたいなのを自分たちで作って猟をやるんだ。現に、それで俺が「もったいないことするなあ」と思った。だからこうして、みんなが肉を食べられたらって思ったのがきっかけなんだよ。そこで、友廣(友廣裕一)たちとの出会いがあったんだけど。

―なるほど。

今お世話になっているのは、「木の屋」さんっていう缶詰屋さんのとこ。そこで、うちのシカの缶詰を作ってもらい、売ってたんだよ。それを食べた友廣が「美味しい」って言ってくれて、プロ野球の試合会場で販売したんだ。

―スタジアムで、売っていましたね。

楽天イーグルスの仙台でのホームゲーム初戦で、友廣たちが販売したんだな。いろんなメディアが集まるところで、被災地の商品をPRしようって。こいつは実のあるやつだなと思って、友廣とはずーっとそれからの付き合いだ。

―それは、去年ですか。

去年だな。災害あってからだからな。全国から若い人間が集まってきて、一生懸命被災地・石巻で復興に向けて頑張ろうというのにさ、ボランティアに対してお礼みたいなものを何もできていなかったんだよ。今でこそお返しなんかできるようになったけど。だから、被災者とボランティアを30人ばかり集めて、ここで焼肉パーティーをやったんだ。シカの焼肉から、イノシシ鍋からさ。それでボランティアの人たちが俺を慕って来るようになった。来れば絶対粗末になんかしないからね、俺は。去る者追わず来る者拒まずどんどん受け入れてるから。

こないだも、北海道のボランティアやってる団体と縁があって、「土地をなんとか調達できないか」って言ってきたから、土地を借りてやって、トイレと洗面所はうちのを使わせてる。そんなふうにして、人のために何かをするのは当たり前のことさ、別に大それたことはしてない。こうして、皆が慕ってくれるだけで俺は満足だ。

―満足なんですね。

うん。商売しようって、今でも全く思ってない。あんまり儲けなくてもいいって思ってるから。友廣もさ、色んなアイデアを考えてるからさ。シカのペンダント見た?あのシカの角は全部俺が、友達から知り合いから集めて手配してるんだ。最初はお金もとらずにやっていたけど、その角は自分のものではないからね。できるだけ交渉して、角1本につき500円前後でやってる。角1本からネックレス20は取れるはずだから、割には合うだろうなと。本当は無料でやりたいんだけどね。

―ネックレスなどを販売しているOCICA、本当に大人気ですよね。

俺が感心しているのはね、「被災地の奥さんたちに、少しでも小遣いをとってもらおう」ってところ。そういう心意気が好きなんだ。人のために何かする人が1人でもいれば、そういう奴を応援してやろうっていうのが、俺の気持ちだね。俺自身は、子供たちも皆結婚して苦労も何もないからさ。そんなわけで、毎日遊んでいる感じだ。そう、遊んでいるのとおんなじよ。

―ここ、素敵な場所ですよね。気持ちがいい。

えへへ(笑)。俺は自分の身を削ってまではしないけど、持てるものを全部施したって全然平気なタイプなのね。喜んでもらえさえすればいいんだな。料理も好きなんだけど、食べてもらって「おいしい」って言われるのが好きっていうか。だから、人に「やってあげた」っていう感覚もないし。みんな「おいしいおいしい」って言って食うからさ。(シカ肉の味には)みんな飽きてるんだろうとは思うけど(笑)。だから、シカ以外のものも食わせるようにしてるんだけどさ。

 

 

―シカって、あまり食べる機会はありませんよね。最近、目の前で捌いたものを頂きましたけど、美味しかったです。

シカの肉はさ、難しいんだよ。ただ山から取ったんでは、臭くて硬くて食べられない。血抜きが悪いんだな。肉が硬いのは、処理が悪い証拠。

―シカを撃つときは、どこを狙うんですか。

首の方を狙うんだけど、シカは走っているから、それに合わせて撃つのよ。獲ったらまず、すぐに血抜きをして内臓を抜く。横隔膜の上に循環器があるから、血がたまるのね。そこに、縦にナイフを入れる。草食動物は、酸素がいかないと臓器がすぐに発酵してしちゃう。だから、内臓を抜かないで2時間置いたらそのシカは食えなくなる。ガスがまわって、肉に臭いがついてしまうんだな。いっぺん肉についた臭いは、どんなことをしたって抜けない。

そのあとは、池とか沢とかがあれば、水につけてもらう。動物はケガをしたら、熱を発して細菌を殺すという習性があるんだよな。鉄砲で撃つと、濡れているやつなら蒸気が出るくらい温度が上がるから、それを放っておくと肉が蒸れちゃうんだ。そういうのは、商売に使えない。

―そういう正しい処理を知らないで獲ったシカを食べてしまった人は「シカ肉はこういうもんなんだ」って思って、離れてしまうんでしょうね。

今日なんか、サシの入ったやつが入ってるから、焼いて食ってみな。サシが入ってるのは、なかなか栄養のいいやつだから。

 

 

―たくさんお話聞かせて頂いて、ありがとうございます。また是非、仕事内容についてお伺いさせてください。

いいけど、俺の場合は仕事っていうか、趣味だからな。じっとしているのが嫌だから。誰かがここへ来たいって言えば、俺は1回も断ったことないもんな。

―今回は色々な”想い”についても伺えたので、良かったです。

はいよ。ま、肉でも食べな。

―はい!

・・・このあとたくさんの鹿肉をいただきました。ごちそうさまでした。

 

聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:佐山寿里(ボランティアライター)
■関連インタビュー:地域の未利用資源活用とコミュニティ再生プロジェクト(つむぎや)・友廣裕一(1)
地域の 未利用資源活用とコミュニティ再生プロジェク ト(つむぎや)・右腕・鈴木悠平
【地域の未利用 資源活用とコミュニティ再生プロジェクト (つむぎや)・短期プロジェクトスタッ フ・齋藤睦美

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