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特集記事 新たな価値観が問われる社会とは(1)

リーダーがビジョンを語る5240viewsshares2013.04.08

新たな価値観が問われる社会とは(1)

ふくしま連携復興センターの事務局として福島の復興に取り組む鎌田千瑛美さん。新たな価値観が生まれる中で人の繋がりを大切にする鎌田さんに、福島にある鎌田さんお気に入りのカフェで話を伺いました。【ふくしま連携復興センター事務局長・鎌田千瑛美(1)】

―福島出身とのことですが、東京から福島に戻ってこられたのはいつ頃だったんですか?

2011年の9月頃から、当時は東京のETIC.で福島の右腕派遣のプロジェクトを事業化しようと考えていたんですが、本格的にこちらへ移住したのは2012年の1月ですね。

 

―地震の前は会社に勤めてらっしゃったんでしたよね。どのようにしてETIC.に関わるようになったんですか?

震災の1年ほど前にETIC.に関わるようになったんですが、前の会社がETIC.の起業家支援のサポート企業だったんですね。でもその割に社会貢献に対する意識が弱くて、営業部だった私も、社会貢献と言われてもボランティア的なイメージだったんです。当時の私は、「何のために仕事をして、私はこれから何をしていきたいんだろう?」と悩んでいました。

たまたまそこにETIC.の出向の話がきたんです。このモヤモヤな状況から抜け出したい!と直感でピンときて、いの一番に手を挙げてETIC.の門を叩きました。それがご縁でETIC.で約4ヵ月間常駐して仕事をしたのですが、ETIC.で働いている人の仕事ぶりや目の輝きを見て、会社組織との違いに驚いたんです。今まで自分が悶々と考えてきたことを、社会起業の名のもとに、ビジネスとして解決している人たちがこんなにもたくさんいるんだって、180度意識が変えられましたね。「誰のため、何のため」がきちんと分かって仕事をしている同世代がいたことに単純に驚きました。

やっぱり顔の見える相手に対して「あの人のために何かしたい」っていう思いで仕事ができることが私にとってはすごく良かったんです。

 

―なるほど。ETIC.での勤務を経て、福島に移り住んでからはどうでしたか?

 

東京にいたころから福島に右腕を派遣するプロジェクトの立ち上げに携わっていたんですが、本格的に動きだそうとした2011年秋の出張の夜の飲み会で個人的に衝撃を受けた出来事があったんです。

東日本大震災復興支援財団さんによる初期の芋煮会という飲み会の場だったんですが、そこで放射能の危険性についてかなり厳しく見ている団体さんから、この時期に福島に人を派遣することについて、すごく怒られたんですね。震災から半年くらいだったのでまだまだ福島における放射能の危険性についてかなり混沌としている時期で、若者を派遣することへの責任について指摘されて。福島のこれからをどうにかこうにか支えたいと思っていた矢先に、真っ向から否定されたことでカルチャーショックを受けたと同時に、放射能の問題に蓋をしていた自分の考えを自覚したというか。実家が津波で被災したのでどちらかというと「福島のこれから」に関心が向いていたんですが、福島のことを何もわかっていなかった自分が事実上見て見ぬふりをしていたことに、ハッと気づかされました。

 

―そうだったんですね。それで変わったのですね。

 

どこかで線引きをしてたと思うんですよ。東京から福島でやれること、東京から福島を支援できることというか、それまでは前線ではなく後ろの人だったんですよね。実家が被災していたのに当時東京で今まで通り電気を使って生活していた自分と、こんなに苦しい思いをして放射能の問題に真正面から向き合っていた人との立ち位置の違いを突きつけられて、このままではいけないと感じて、やっぱり一生かけて向き合わなきゃいけないと感じたんです。むしろ向き合わないことの方がストレスに感じ始めたときに、ちょうどふくしま復興センターでの職員募集を耳にして直感的にここなんだろうなあと。しかも、福島全体を見て、それぞれの問題を解決するために、繋ぎ、支える立場ということで、今の私には一番しっくりする立場でもあります。

 

―やっぱり来てみないと分からなかったことですか?

 

そうですね。私がやりたかったことは、県外と県内の意識差や温度差を埋めることなんですが、それぞれの立場に立ちつつも、やっぱり主は福島であり続けるべきだと思うんです。それを考えると、東京での暮らしも知りつつ、今こうやって福島の思いも感じられる立場にあることは幸せですね。こうして役割を与えられたことは、東京で悶々と過ごしていた私にとって一筋の光のように感じられました。本当にご縁ですね。

 

―悶々としてたけれど、人と繋がることで縁が出来て、役割が与えられた。

 

一歩踏み出したという感覚ですね。

 

―震災直後の緊急的なフェーズを経て、復興フェーズに入っている今、どういう役割が必要だと思いますか?

 

個々の課題はすごく複雑化していて勢いだけでは解決できないので、問題のその先にある、本来もっと大事にしなきゃいけないことを見極める力が求められているかもしれません。多分耳を傾けているだけでは聞き取れないことかもしれないけど。

 

―つまり、普通にやっていても分からない?

 

私もこのことは絶えず問われているなと思っていて。口で聞いて話してくれることではなくて、本人すらも気づいてないような本質的なものにこそ大事なことが隠れていることが多い。福島って複雑だからこそ、本質的な部分が見えづらくなっているんですよね。でも、答えがない中でももがき続ける耐久性、忍耐がないといけない。忍耐力が求められてるかな。正解がないことを認めるってことは、右腕派遣期間の一年で見つけられるか補償のできないような話ですね。

 

―そうですよね。右腕って何かしら成果を残して帰る物語があるように思われるけれど、現実問題としてそれが出来ない可能性も大いにありますよね。

 

初期のころ課題だったのは、すぐに成果を求めたがることでしたね。歩みは亀みたいなものだから、そこにどれだけ我慢できるかが大事だと思うんです。我慢という言い方も変ですし、時には行動力も必要なんですけれど、そのバランスとコミュニケーション力は大事ですよね。

 

―その場所で暮らす人たちの仕事のサポートですから、成果を早く求めてしまうと現実とのギャップを感じることになるかもしれませんが、一方で、成果を求めずにただ居るだけになるのもよくない。正解がないから難しいんですね。

 

そうですね。現地の方から求められることは決して悪いことではないと思うんですけれど、最終的には本人たちに力が残るような二人三脚の方法をとらないといけない。こちらがやるのは簡単なんですけれど、また同じ壁にぶつかったときにそこに住んでいる人たちのチカラで乗り越えられるようになるためには、彼らの取り組みのサポートをすることになります。こちらがやった方がよっぽど簡単なんですけどね。

あとは、復興の状況も変わっていく中で、支援の方法を変えていかなきゃいけないと思うんですけれど、自分たちのやりたいことをやる時期は既に終わっていて、今本当に求められていることに気付かせてあげるのも外部の人の役割だと思っています。「今何が求められていて、その中で自分たちが出来る役割は何なのか」ということを問える組織しか残れないと思うんですよね。今はそれが振り分けられていて、自分たちの存在を残すための活動になってしまっている組織なんかもありますね。やっぱり継続できる支援を考えるってことが大事なので。

 

―そのためには、もっと現場に近い人とのコミュニケーションが必要なんでしょうね。

 

今までは、たとえば魚であっても、商品をそのまま卸せばそれなりのお金を得ることはできていたんです。でも、福島の農産物が全部だめになってしまった今、見せ方を工夫するとか商品を加工するとか、何かしらの努力をしないといけなくなってしまって。今までは素材のままですべてが豊かだったんですよ。それはそれで幸せだったんでしょうね。

でも、これからは全住民が当事者として見て見ぬふりの状況から脱却する必要がある。放射能のこともありますし、選択は自分でしなきゃいけない環境だから、そこに生きる限りは他人のふりはできない。それは外から来てここに住む人も一緒ですね。

 

―自分で決めなきゃいけないわけですね。

 

そうですね。「これが1キロ10ベクレル出たものです」って言われたときにそれを「食べる」か「食べないか」というような選択。そういうことをすべてにおいて問われる中で、そこに生きる以上無知ではいられない。でも県民の中にも意識差はあって、放射能を無かったこととして、復興から目を背けられるような雰囲気もあるんですね。時々震災のことを意識できるのは放射線量が掲示された線量計くらいで、それ以外は今まで通りかのような生活があります。その中で調和をとりながら新しい街を作る必要があるんですよね。

 

続き:新たな価値観が問われる社会とは(2)

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