リーダーがビジョンを語る
福島発、地域プライマリケアのモデルづくり
福島県福島市南部地域で、「健康」を軸にしたまちづくりに取り組む、NPOほうらい。ワンコイン(500円)フィットネスを拠点とした、「運動」や健康にいい「食」の提供、「自己健康チェック」などの地域の仕組みづくりは、昨年度、経済産業省のモデル研究事業も受託しました。有限会社タカアラ産業 代表取締役であり、NPOほうらい副理事長である、高荒弘志さんにお話を伺いました。【NPOほうらい・高荒弘志さん】
―もともと、どういったきっかけでこの取り組みをやりたいと思ったんですか。
本業の建築でリフォーム案件が増えてきて、バリアフリーとかを研究しているうちに、「段差がねえ社会なんてありえねえな」と福祉に関心を持ち始めたのが最初かな。あと、かなり前から社会福祉法人にも関わっていてね、結局高齢化社会という問題にぶちあたった。年寄りはどんどん多くなっていくし、介護が必要な人も増えていく。高齢化は日本だけじゃなくて、いろんな国で進んでいるしね。年をとるのはさけらんねえから、プライマリケアが注目されていくなと10年前くらいから思っていた。
―NPOほうらいは5年前から活動されていたとのことですが、震災前は何をされていたんですか。
1番最初にやっていたのは、平成21年度内閣府の地方の元気再生事業の採択を受け、コミュニティバスを走らせること。現在は、NPOまちづくりコミュニティーぜぇねがショッピングセンターからの広告料とカンパを財源にして、税金一銭もかけずに、町の中にバスを走らせてね。今も収支は大変なようだけどなんとか頑張ってはしらせている。ショッピングセンターや畑に太陽光発電パネルを置いて、その代替エネルギーで走らせたりもやっている。バス以外だと、葛尾村との地域間交流事業もやったり、イベントしたりもしたね。あとはNPOとは別に、政治にも深く関わってて、政党を立ち上げたりもしていた時もあった。そういう中からまちづくりに興味を持ったんだよね。
―会社の仕事と、NPOや地域での活動を幅広く行っていた。そんな中で、震災が起きたんですね。
建築工事が本業だからな。震災直後はあちこちの修理依頼が多くて、工事で目がまわるほど忙しかったんだ。4月からは、使われていなかった「あぶくま茶屋」(福島駅から車で20分ほどの場所にある趣のある茶屋)をNPOほうらいで借り上げて倉庫として使って、救援物資の分配と配送をやってね。Bridge for Fukushimaの伴場さんも「水いりませんか」ってやってきてくれて。各地区に水だの物資だの、みんなで運んだわけ、のべ稼働人員1000名くらいかなあ。毎日、軽トラ等10台くらい出動。そういったことをやっていく中で、昔から思ってた地域のプライマリケアを原点に戻ってやってみようかなと。
―それでフィットネスクラブを始めた。
なんでフィットネスを考えたかっていうと、肺炎とか病気になった高齢者に調査したことがあって、「病気になりたくないし体を動かしたい」っていうニーズが昔からあったの。あとは仮設住宅はやっぱり運動不足になるしね(運動不足による生活不活発症は、震災以降大きな問題になっている)。フィットネスクラブは、マシーンもいいやつを入れていて、1500万円出資してるんだ。トレーニングマシーンを30分ずつやって、いろんな部位を強くしていくようなプログラムとかを作ってて、スタッフも2人雇っている。
健康にいい食事も大切で、それは飯館村から避難してきた「かあちゃんの力プロジェクト」と連携して、飯館のお母ちゃんたちが作った健康弁当を提供していきたい。去年の経済産業省のモデル研究事業で、福島医大・福島県栄養士協会ともレシピ開発ができたし、実証実験でも効果は出てきているんだ。かあちゃんたちのパワーも凄いからね。あぶくま茶屋は、もう全部占拠されちゃったよ。新しい加工設備も大学のおかげで入ったし、色々仕掛けていけるね。
―どこか、参考にした事例や地域の仕組みってありますか。
部分的にはいろいろあるよ。福島県棚倉町にある「いきいきサロン事業」っていう保健師さんが隣近所のおじいちゃんとかおばあちゃんをケアする仕組みが介護予防にものすごく貢献していて、そういうのとかね。あと、プライマリケアには運動がいいんだっていうのは、理学療法の研究を参照している。結局、薬よりも運動と食事の方が効果が高いっていうことは学術的に証明されている。住民の健康に対する意識も、もう既に1000人ほどを対象にアンケート調査をやったんだ。市場調査は終わっていて、実行フェーズなんだよね。
―すでに事前調査も済んでいる。まちづくりの教科書のような事例ですねって、右腕派遣プログラムの選考会でも話が出ていました。
実は、福島大学で行政政策を教える非常勤講師として時々授業を持っているんですよ。大学が近くにあって、まわりに「一緒にやろうぜ」って言ってくれる人が多かったのはよかったな。フィールド調査なども、大学の先生たちと協力しながらすすめていてね。
―このプロジェクトを進めていく中で、1番重要だと思っているのは何ですか。
地域との関わりだね。将来的にどうなるかって、認知症や介護が必要な高齢者だらけの地域社会がまもなくやってくるのが想定できる。地域に住んでるから実感できるのかもしれねえけど、いま国が考えているよりも、もっと大変なことになる。在宅医療も増えるだろうし、病気になってからケアするのでなく地域でみんなで予防していくのが大事になってくるね。歩いていけるとこに拠点がないとだめなんだ。遠くて行けないから、関われないのはよくない。地域ごとに健康を守る拠点をつくるのを、社会の仕組みの中にいれたいっていうのが俺の考えなんだ。
―地域に横展開していく仕組みやモデルづくりを、ここから始めようと。
そう、うまく行ったらモデルになったら、まねしてやる人もいっぱい出るべ。基本的には国の税金をつかわねえで、ソーシャルビジネスとして仕組みを作りたいと思ってる。担い手をつくる。ポイントになってくるのは、儲ける仕組みをつくってあげて、パッケージ化すること。運動、健康チェック、体にいいスムージーやレトルト食品など、いろんなメニューをワンセットにして、それこそコンビニのように、フランチャイズみたいな形で展開していけたらいいよね。
―まず1年目は、どういったことを目標にされていますか。
地域との連携や繋がりはもう出来ているから、お客さんをいかに確保するか、いかにお金を生めるかどうかだね。すでに月に1回、福島医大の栄養士と一緒に勉強会や講習会は始めている。あとは2店舗目以降の店舗展開に備えて、認定NPO法人を立ち上げて、寄付受付や大学との連携などもやりやすくしていきたい。これまで地域でやってきたいろんな事も、なんかしら全部つながっているから、それらをトータルでコーディネートしていけるようになりたいね。
-右腕としては、どういう人が参画してくれると嬉しいでしょうか。
フィットネスとあちこちを連携したり、企画書つくったり、報告書つくったり、やることはいろいろある。先を見ながら、自分の可能性を導き出したり挑戦したりする人だったらいいね。来たことない地域に来てやるんだから、1年で結果でねえことも多いと思うし、土着の世界に驚くこともあるだろうけど。ビジネスを作っていくのはこれからだし、どこまで実績でるかはわかんねえけど経験はつめる。Bridge for Fukushimaの右腕だった加藤くんみたいに、地域で頑張って、仲間が出来て、将来の志が新たに出来ていくこともあると思う。プライマリケアに関する経験を持って、ここの志を引き継いで、国やみんなのためにがんばってもらえる人だったら嬉しいね。
―ありがとうございました。いい方とご縁ができるのが、楽しみですね。
聞き手:山内幸治(NPO法人ETIC.ディレクター)/文:田村真菜(NPO法人ETIC.)