私にとっての右腕体験
「お金の大切さ」を、1つずつ伝えていく
「コミュニティー財団」として復興と地域発展に取り組んでいる、一般財団法人地域創造基金みやぎ。右腕として参画後に正式雇用され、現在も活動を続けている江川沙織さんに、参画した経緯や現地で感じる問題意識についてお伺いしました。【地域創造基金みやぎ・江川沙織】
-まずは、今の役割について教えてください。
アシスタントプログラムオフィサーをやっています。助成金を出す財団なので、助成金をお渡しするにあたっての申請書の受付であったり、事務局として事務作業をやったり、団体さんを訪問してヒアリングをしたりという部分もやります。今は、漁業支援のプロジェクトを立ち上げるにあたって、南三陸町を行ったり来たりしながら、現地の方のお話を聞いてリサーチしたりもしています。
-このお仕事をしていらっしゃる経緯は、どのようなものなんですか。
大学生の時から、NPO等の社会的な活動に非常に興味があったんです。そこに、ちょうど学内NGOでモンゴルでの植林ツアーの企画を知って、参加しました。現地に行くと、日本のいろいろな団体の方たちが、自分達で航空券を買って苗を持ってバラバラに植林に来ているんです。で、キャンプツア―でモンゴルを回っているときに、モンゴル人のドライバーさんが、植林された枯れかけている苗を見て「ここに植えても育たないよ」と言ったんですね。そのときに「なんて無駄なんだろう。お金も時間も、もっと効率的に使えないのかなあ」って思ったんです。
-植林活動を見て、いろいろな問題点が見えてきたんですね。
もやもやしているときに、「A SEED JAPAN」のエコ貯金という活動を知ったんです。兵器や環境破壊に繋がる事業に融資をする金融機関ではなく、社会や地域にやさしい事業に融資をする金融機関を選んで、預け替えをしましょうというもので。お金を預ける先を選ぶことで社会が変わるって、目からウロコだったんです。誰でもできるアクションで、社会が変わるきっかけを作れるかもしれないってところに、すごく魅力を感じて。お金の力ってすごいなってそのとき思ったんですね。どんな団体や活動でも資金って必ず必要だし、その知識やスキルがあれば広く力を貸せるんじゃないかと、お金まわりのことに興味を持ち始めました。その経緯でNPOへの融資をCSRの一環で取組んでいた中央労働金庫という金融機関に就職をしまして。預けてもらったお金をもとに、人が生きていくために必要な資金をお貸しして、お金をまわしていくっていうことにすごく意義も感じていたし、こういう仕組みを人々が意識していくのはすごく大切だなというのを仕事しているときもずっと感じていました。一昨年の年末に仙台に戻ろうと決め、昨年の3月末に退職するまで、4年間仕事をしていました。
―地震がおきたときは何をしていたのですか。
職場の後輩と一緒に神奈川の逗子あたりを車で走っていた最中に、地震が起きて「これは大変だ」と思い、支店に戻ってテレビを見たら、仙台空港にちょうど津波が来ている映像が流れていました。仙台空港って海の間際にあるイメージじゃなかったんですが、車も波でどんどん流されている。実家は仙台の山側なので津波は来ないだろうとは思ったのですが、大変なことになってしまったなとすごくびっくりしました。そのあと、関東も計画停電がありばたばたしていたし、東北への交通機関もないし、退職する3月末まで出勤をしていました。最初に仙台に戻ったのは、4月2日でしたね。
―仙台に戻ってきてからは、何をされていましたか。
もともと、仙台に帰ろうと決めたきっかけが、祖父の介護なんです。祖父が父親がわりに育ててくれたような家だったので、最期は看取らないとなって。それで、4月末くらいに完全に仙台に引越しをして、5月から7月は祖父の介護の手伝いを主にしていました。ちょうどその時に、学生時代から購読していたETIC.のメーリングリストで、右腕マッチングフェアを知りました。
-「右腕派遣」って、初めて知ったときどういう印象でしたか。
「東北に若い人を派遣する企画ってすごく嬉しいな」って思いましたね。私は、ここで働いてここでお金を生んでここに落とすっていうことがしたいなと思って、地元の企業を探すために仙台で転職エージェントに1回相談に行ったことがあるんですよ。そしたら、「今、元気な企業はそんなにない」と言われて。もともと東北は経済的にも行き詰りはじめていたし、若い人は関東に出て行ってしまう人も多くて、なかなか良くはならないんじゃないかっていう感じがあって。もし良くなれるとしたら、今回震災があったことをチャンスにする以外はないって思っていました。それで、東北を立て直すのに若い人たちが参加できる右腕派遣に共感して、実際に東京でのマッチングフェアに参加したんです。
―実際に参加して、派遣先のプロジェクトの話を聞いて、どうでしたか。
リーダーの方がみなさんそれぞれ非常に魅力的で。エネルギーに満ち溢れていて「やるぞ!」という感じがあって。いわゆる被災地に、頭も切れてアイデアもあって、仕事変えてでも来てしまうような行動力がある人たちが日本全国から集まってるんだ、って感じましたね。東北をなんとかしようっていうところから、この先の日本をなんとかしようっていうところまで、熱意を持っていて。右腕の枠組みがあれば、自分に経験が少なくてもそこに入っていくことが出来るチャンスだなあと感じました
―プロジェクトがいくつかあった中で、地域創造基金みやぎに決めた理由はどんなものでしたか。
もともと携わっていたお金まわりのことをやりたいな、お金の力をうまく使いたいなっていうのがありましたね。あと、現地で活動している人たちは思いと勢いはあるんだけれども、それを継続するための資金とかっていうところに意識をさく余裕がない部分もありそうだなと。なら、そういうところをサポートしていきたいと考えました。実際参画してみてからも、きっといい活動をしているのだろうけれど、普段の事業や実現したいことと助成金の申請書の書いてある内容がうまくつながっていない団体がたくさんあるということは感じますし、今の問題意識の1つでもあります。
―問題意識について、もう少し詳しく聞かせていただけますか。
震災後に立ち上がった団体とか、今まで地元でずっと細々と自腹で活動していた団体とか、「そもそも今まで助成金なんか申請をしたことがない」というところが多くて。助成する側が知りたい復興のために地域で新しい活動をしていく必要性や思いを、うまく文書に書ききれていない事もあるんです。我々だけではなく、資金の仲介をしている所では、企業の方たちが一生懸命経営努力をして生み出した利益の一部であったり、個人が出してくれたお金を寄付金としてお預かりしていて、ただ落ちてきた、もしくは湧いてきたお金ではないので、それをどこに渡すかっていうのはすごく重要ですし、やっぱりお金を活かしてくれるところに渡さなきゃいけないっていう責任もあると思います。いわゆる事業計画等の他に、想いや必要性がちゃんと伝わってくるかどうかが支援の判断基準にも入ってくるわけですが、「もうちょっと丁寧に、うまく書けていたら評価が高くなるかもしれない」っていうものもいくつかあるんですよ。すごくもったいないなあって。
―なるほど。
助成金の申請書を書く担当の人がいたり、人的リソースやお金もある比較的規模の大きい団体や外から来ている専門性の高い団体の方が、様々な助成金を活用して活動していく事に慣れていると思うんですね。だけど、地元の人たちの中には「助成金ってなんですか」という人もいますし、助成金や寄付金が頂けても寄付者に対しての報告の義務をあまり意識していない人もいます。そういう人たちが活動を継続していけるように、お金の大切さや報告の大切さを1つずつ伝えていかなければいけないなと思っています。現場で活動していると、そういうことがわずらわしいとは思うんですけど、考えるような機会を作っていきたいです。
―具体的には、どういうふうに動かれていくんですか。
お金を出す側として、「書類でこういうところが見られていますよ」とか、話せる事ってたくさんあると思うんですね。いろんな地域でいくつかの団体さんを集めて、そういうことを考える機会をつくるのもいいかなと思っています。地域毎に右腕の人に声をかけてやることもできますよね。気仙地域とか仙台周辺とか、地域ごとに2~3団体でも集まって。私は、教えるというよりも、みんなで考えるきっかけになるようなワークショップ的なことをやりたいなと考えています。そういうことをこれからやっていかないと、震災から1年たって次の3月11日を過ぎたら、寄付で活動資金を集めるのは更に難しくなってくることが予想されるし、資金繰りってどんどん厳しくなると思うんですね。そのときにどうやって活動資金を得ていくのか、生み出して行くのかということを、考えていかないといけない。1年すぎた以降に、都市部や海外から、地域に落とせるお金を引っ張ってくることは、うちの財団としても必ずやらなきゃいけない事だと思っています。
-みちのく仕事の読者に伝えたいことがあれば教えてください。
もし、迷ってるんだったら、1000年に1回のチャンスなので、足を運んだ方がいいと思います。それは右腕として参加するという形でもいいだろうし、週末にボランティアに来ることでもいいだろうし、観光に来ることでもいいと思う。「なんかおいしいもの食べに行ってみようかな」でもいい。宮城沿岸部でも漁を再開しているところもあるので、海産物を食べにきてもいいんじゃないかなと思います。あと、仕事を離れられないし東北に行くこと自体が難しいって人ももちろんいると思うんですが、だったら1000円でも10000円でも、いろんな活動をしているところに気持ちを寄付するっていうだけでもいいと思うんです。「お金だけ渡して自分は何もしない」ってなんとなく悪い事だと日本人は思いがちですけど、絶対そうじゃない。寄付だけでも地元の助けにはなりますし、そういう関わり方もあると思います。財団でも今、直接寄付の仕組みを構築中で、もうすぐ日本財団の仕組みを利用してfacebookやホームページで公開する予定です。
-それは便利そうですね。いろんな関わり方ができるって、大切なことですよね。
あと、東京や海外などの企業の方で、会社のCSRで資金が少し出せるなということがあれば、財団は地域に活動している団体に対してちゃんとお渡しできる存在であるかなと思います。たとえば、環境に関して活動している団体に助成をしてほしいとか、オーダーをいただければ、それに基づいた形で助成金のプログラムを考えることもできます。「企業としてここに問題意識を持っている」ということを、助成金のプログラムを通してアピールするきっかけになると思うんですよね。そういうことももっと知ってほしいし、もっとうまく仕組みを使っていただけたらと思っています。
―ぜひ、いろんな方や企業が、できる形で支援を続けていってほしいですね。どうもありがとうございました。
聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:田村真菜(みちのく仕事編集部)
■右腕募集情報:一般財団法人 地域創造基金みやぎ(現在募集中)
■関連インタビュー:「変化をうむお金の仕組みづくり」をみやぎで。(リーダーの鈴木さんへのインタビューです)