HOME

特集記事 それぞれが、もう一度、立ちあがるための商店街

私にとっての右腕体験4952viewsshares2012.09.17

それぞれが、もう一度、立ちあがるための商店街

自宅やお店を失った店主たちとともに商店街を作り直し、地域のコミュニティを再生したい。そんな強い思いのもと活動を続ける陸前高田未来商店街プロジェクト。前編中編に続き、後編では、種坂さんがプロジェクトに参加してみて感じたこと、そしてプロジェクトのこれからについてお話をしていただきました。【陸前高田未来商店街プロジェクト・種坂奈保子(3)】

 

—実際にこちらに来てみて、事前に思っていたことや想像していたことと比べて違った点などはありましたか。

橋詰社長と面接をしたのは10月だったんですけれど、そのとき聞いたのは、これからコンテナが20個ほど来る予定で、店舗も20店舗あります、補助金もおりるのでお金のメドもつきそうです、という話でした。だから、あとはもう自由にやっていいよと。種坂さんはデザインができるし、木も植えられるんでしょう、だから、好きにやっていいよと。本当にそんな感じで言われたので、もうすごいワクワクしながら11月にこちらにやって来ました。ところが、来てみたら話が全部流れていたんです。

—え、全部ですか。

はい、全部です。補助金はおりない、コンテナは来ない、やっと集めたのが今ここにある10個ほどのコンテナなんですけれど、20個、30個は来るという話も全部なくなっていました。それに、出店予定だった店舗の数も減っていたんです。そういう話をここへ来るまで一切聞いていなかったので、本当に驚きました。でも、ここの人たちはみんな、「12月に商店街をオープンするぞ」って意気込んでいるんですよ。え、何もないですよね、水道は通ってないし、電気も通ってないし、どうするの?って私は思ったんですけれども。だから、全部ですよね、予想と違っていたことと言ったら、もうすべてが思い描いていた状況とまったく違っていました。

だから、ここへ来て最初の2ヶ月くらいは本当につらくて。石巻のときとちがって、まわりに同年代の仲間もいなくて、特に最初は一人ぼっちでしたから。ドライビングスクールの寮を借りていて、毎晩一人でテレビを見て、消して寝るっていう生活でした。最初の2ヶ月は、一人でどうしたらいいんだろう、って思っていました。

—右腕として、はじめはどんなことをされていたのですか。

とりあえず出店者会議に出たり、社長のやっている橋勝商店という小売店を手伝ったりするところから始めました。お店を手伝っていると地元の人たちと触れあえるんですよね。ボランティアとしてではなくて、お店の人間みたいな感じで接してもらえるんで、みなさんの本音が聞けるというか、愚痴なんかも話してもらえる立場でした。

だから最初はお店を手伝いながら地元の人たちの話を聞いたり、こちらで活動しているボランティア団体に会いに行って話を聞いたり、情報収集をしていました。ほかには、お店のチラシに絵を描いて配ったりとか。それから出店者の一人一人にできるだけ会いに行って現状把握に努めました。それに2ヶ月ぐらいかかっちゃいました。皆さんなかなか本音のところを教えてくれないんです。奥ゆかしいというか、話を引き出すのにだいぶ時間がかかりました。

—種坂さんご自身には何か変化していった点はありましたか。

そうですね。最初は出店者会議に出ていても、「私の存在ってなんだろう」って思うくらい蚊帳の外だったんです。みんなが会議をしている横でメモを取るだけで、何の発言もできないし。でも、だんだんとみんなの困りごとを手伝うようになったんですね。お金がないという話を聞けば、お金を集めるように動いたり、名刺がないといえば名刺を作ったり。区画整理がなかなかできない、ずっと進んでいないといえば、これでどうですかって図面を作って見せたり。会議でも、いつもレジュメも議事録も用意しないでやっていたので、私が議事録を作るようにしたり。

—そうなんですね。

レジュメ作りとか、名簿作りとか、そういう細々としたことをやっていくうちに、だんだん信頼されてポジションがあがっていったんです。「ねえこれ、種坂さん知ってる?」とか、「これどう思う?」とか、次第にそういう感じになっていきました。私は私で、自分の友達を連れてきてお店の壁に絵を描いてもらったりとか、知り合いを頼って必要なものを集めたりとかしていたので、これは自分もへたには終わらせられないぞという気持ちになってきて、途中からはけっこう強気になったんです。

—強気、というのは。

たまにですけれど、ぶつかるときがあって、「よそから来た人間にとやかく言われたくない」と言われることがあったんですね。でも、私が黙っていたら、全然進まないことがあるわけです。12月にお店を開きたいと言っているけれど、それは現実的じゃないと私は分かっている。前職の経験からいっても、どう考えてもムリだろうと。そんな、水道は一週間で出ませんよ、っていうのがみんなは分からないわけです。だから、現実を見ましょう、この調子だとオープンは2月になりますよ、って言ったりして。結局、本当に2月オープンになったんですけどね。「ごめん、種坂さんに言われたとおりになっちゃったよ」っていう感じで。

でも、そのときは私もそんなに強気で言っているわけではないんです。「今の感じだと2月になっちゃいますよ。私も一生懸命がんばりますから、あなたもがんばってくださいね」っていう状態で一緒にやっていく。「店主さんこれやって!」って私も言うし、逆に「種坂さんこれ!」ってお願いされたりだとか、本当に今はそういう感じになりました。チームに入れてもらえたというか。最初はずっと隅っこで話を聞いていただけでしたけれど、今はもう自分がお金を集める役割ですし、自分でもいろいろやっているので、状況をつねに把握していないと嫌ですね。

—だいぶ変わりましたね。

何か無駄なことが起きたら、お金をいただいた人に申し訳ないと思うんですよ。だからもう、会議とかでも抜けがあったり、なーなーで終わりそうなときがあったら、必ず確認を入れるようにしています。これまではなんとなくで済ませていても物事が進んできたんでしょうけれど、結局、トラブルにつながることもあったので。言った言わないとか、あのとき、うんうんって言ったじゃないか、みたいな。なんか怒り出す人とかも現れて、これではダメだと思ったことがあって。だから、そうならないように、今はチームの一員として中に入れてもらって、私もやれることをやっているので、言いたいことも言わせてもらいます、という立場で仕事をさせてもらっています。

 

—今後、未来商店街はどのようになっていくのでしょうか。希望も含めて、何か描いていることがあれば教えていただけますか。

そうですね。ビジョンとかではなくて、今いるこのカフェとこの2軒どなりのお店を早急に進めてオープンできたらいいなという状況ですね。

—テナントはもう決まっているのですか。

はい。あちらのお店は陸前高田出身の女性が、今は東京で働いていらっしゃるんですけれど、その方が戻ってこられてお店を開く予定です。雑貨屋さんを開きたいと。石鹸とかアロマキャンドルとか、帽子とかストールとか。ちょっと女子的な、大人の女性をターゲットにしたお店ですね。それから、ここでは朝市も開催していますけれど、ちゃんとした建物を建てようという計画があります。

—今のようなテナントというか、仮設ではなく、建物を建てるのですね。

はい。ここは風がすごいんですよ。向こうに川があって、山で挟まれているので、風がびゅーっと吹いて、並べている商品がふっ飛んでしまうくらい風が強かったんです。今はコンテナで遮っていますけれども、あれがなかったら、もう全部飛んでいってしまうんですよ。それで、建物を建てようという話になっています。必要な資金も半分ぐらいは集まったのですが、さあ残り半分はどうする?という状況です。このままだと屋根と柱だけになるぞっていう感じですね。

だから、建物を建てて、そこで朝市をやる、というのが今の目標です。建物ができたら、せっかくなので朝市だけじゃなく、いろんなイベントができるようにしたいと思っています。土日の午前中は朝市、それ以外の時間はたとえば展示会だったり。たとえば、その雑貨屋さんをオープンする女性の方も、石鹸作りのワークショップがやりたいとおっしゃっていますし、私は映画会をやりたいなと思っています。夏にはビアガーデンもやるのもいいでしょうし。

—素朴な疑問なのですが、このコンテナを使ったお店では賃料は発生するんですか?

発生します。でも、当然、賃料だけではこのプロジェクトをまわせない状況です。ただ、プロジェクトをまわすことというか、それぞれのお店が自立できることが何よりも大切だと思っています。ここでお店を出して、商売がちゃんと成り立つようにする。それぞれが立ち上がるための商店街ですので。だから、家賃は払っていただきますけれども、それだけでこのプロジェクトが運営できているわけではなく、補助金や寄付金を集める活動もしています。

—まずは事業が立ち上がらないと店主さんも生活の動きがないでしょうし、プロジェクトとしては店主さんをゼロの状態からイチにするところを支援しないといけないわけですよね。

そうですね。店主のみなさんは二重ローンを抱えたり、すごい借金をしています。家は残ったけれど、店は津波で流されてしまったというと本当に何の補助金ももらえないので。厳しい現実があるんですけれど、みなさん、店を開くしか借金を返す方法はない、っておっしゃるんですよね。あとは「高田が好きだ!」っていう気持ちでがんばっていらっしゃいます。「高田で商売がしたい、高田で生きるには自分でやるしかない」という強い思いでやっていらっしゃいます。

—店主さんを含め住民の皆さんが力強く立ち上がるための未来商店街なんですね。またお話を伺いに来ます。ありがとうございました。

聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:鈴木賢彦(ボランティアライター)

 

■関連インタビュー: 見て見ぬふりをしたままでは、きっと次に進めない【陸前高田未来商店街プロジェクト・種坂奈保子(1)】

■関連インタビュー: 経験した点と点がつながり、ここへ来るしかないと思った【陸前高田未来商店街プロジェクト・種坂奈保子(2)】

■右腕募集情報: 陸前高田未来商店街プロジェクト

 

未来商店街では現在、婦人服ショップ、携帯電話ショップ、カフェレストラン、雑貨小物ショップの4店舗が出店し、さらに家具店やお寿司屋さんなど5店舗がオープンに向けて準備を進めています。他にも、土日に開催される朝市や最近ではビアガーデンなど、様々なイベントも実施中です。詳しくは、ホームページをご覧ください。

■未来商店街ホームページ http://mirai-shotengai.jp/

■未来商店街Fcebookページ http://www.facebook.com/mirai.shotengai

■陸前高田未来商店街ブログ: http://ameblo.jp/mirai-shotengai/

この記事をシェアする

その他の記事を見る

アートから生まれる商店街のつながり

リーダーがビジョンを語る6559viewsshares

「変化をうむお金の仕組みづくり」をみやぎで。

5447viewsshares

「日本に寄付したい」想いをつなぐ、カタリバの外交官。

私にとっての右腕体験6164viewsshares

東北のリーダー・右腕が語る「地域の資源を生かして、新しい商品・サービスを生み出す…

私にとっての右腕体験5393viewsshares

THINK TOHOKU 2011-2021 これまでの5年を振り返り、これからの5年をともに考えていきます。

THINK TOHOKU 2011-2021 これまでの5年を振り返り、これからの5年をともに考えていきます。

右腕希望の方々向け個別相談会開催中 申し込みはこちら

右腕希望の方々向け個別相談会開催中 申し込みはこちら

SITE MENUサイトメニュー