リーダーがビジョンを語る
インフラがなくなった場所で、アーティストが描く未来
「環境未来都市」構想を進める、岩手県気仙地域(陸前高田市、大船渡市、住田町)。現地に入り、コーディネーターを務める山村さんは、地元住民に環境未来都市のコンセプトを感じてもらえるようにとアートイベントを企画しました(前編はこちら)。その際、山村さんが相談したのが、まちづクリエイティブの寺井元一さんでした。どのような経緯でアートイベントが実現したのか。寺井さんも同席してのインタビューをお届けします。 【気仙広域環境未来都市コーディネーター・山村友幸(2)】
-山村さんと寺井さんは中学・高校と同級生なんですね。
山村:そうです。2人とも東京に出てきたので、卒業後もずっと交流がありました。けせんふぇすの話もそうですが、被災地に来た以上、街づくりというものに関わらざるをえないですから、そこで、街づくりの仕事にずっと取り組んでいる寺井君に話を聞きに行きました。
-山村さんから話を聞いたときはいかがでしたか。
寺井:言うとおり、ふつうにパネル展示をしても別に楽しくないだろうなと思いました。もっと何か面白いことができないかと相談されたときに、僕にできることといえばアーティストを紹介することかなと。松戸には、松戸を拠点にしたり、松戸アートラインプロジェクトに参加してくれたりするアーティストがいるので、津波で流されて街がなくなってしまった場所で作品を作るというようなことができるんじゃないかと思いました。(※)
※寺井さんが代表を務める株式会社まちづクリエイティブは、千葉県松戸市を舞台に街づくり事業を展開している。
-それが最終的には、今回のアートイベントの企画になっていったのですね。このイメージスケッチを見るだけでも、すごく面白いんですけれども、具体的にはどのようなアートイベントになるんでしょうか。
山村:プロジェクトの名前は、Kesen Transplantと言いまして、ものすごく簡単に説明すると、発電をテーマに作品を作っているアーティストの池田剛介さんと、家を作って参加者と交流することをテーマにしている村上慧さんに来てもらって、サン・アンドレス公園という津波に流されて何もなくなってしまった場所に仮設の建物を置き、そこで電気を作りながら、参加者みんなで鍋をやって交流をはかるというプロジェクトです。そこでは瓦礫や住田町の木材など地元の材料が使われる予定です。
-その場で発電をするんですね。
山村:太陽光ハウスという発電所を作ります。あとは水力発電なども行います。
寺井:環境未来都市がどんなビジョンを持っているのか、僕はその詳細まで理解しているわけではないですが、環境未来都市の趣旨と今回のアートはすごくマッチしているのではないかと思っています。太陽光パネルを中心にして街全体で電気が作れるようになったら、キャッシュフローが生まれたりお金が流れたりするわけではないけれども、むしろ暮らしのクオリティはどんどん上がっていって安定したモデルになるのではないかというのが、環境未来都市の考えていることですね。一方、アーティストが何を考えているのかというと、すべての生活とか、すべての生き様というものが、アートも含めて、いろいろなインフラの上に乗っからざるを得ないわけで、そうすると作品を作る上で彼らは様々な制約を受けるわけです。では、ノーインフラだったら何ができるだろうか、と考えたときにノーインフラでもできることがあるはずで、それが今回の彼らのテーマになりました。
-確かに水道も電気もガスも来ていない場所ですよね。
寺井:ええ。何も来ていなくてもできることがあるだろうし、逆に、何も来ていないからこそ、できることがあるかもしれないという話ですね。ノーインフラの何もない場所に発電所を作って、コミュニティスペースを作るぞと。ノーインフラで人は定住・定着できるのか。彼らなりにアートの視点からいろいろと取り組んでみようということですね。
-電気は分かります。水はどうするんですか。
山村:水はこの会場周辺にはないですから、どこかから持ってくることになると思います。
寺井:露店とか屋台とかと一緒で、水のタンクを置いてそこから引くことになるでしょうね。一時的に他のところとの取引交換によって最適解をまかないながらやっていくと。それより一番大きなのはやっぱりエネルギーで、発電機をどうするんだとかそういう話が一番大きい。だから電気というものを中心に据えて彼らも考えたのだと思います。ある種、インフラを補完するものを自分たちだけで作ろうと思ったときに、電気から始めたというわけです。
山村:あのデザインは本当に奇跡的だと思います。環境未来都市の宮田先生も自然エネルギーと電池によって社会システムにイノベーションが起きるというのをテーマにしていらっしゃるので、まさに今回のアーティストの持っている芸風というかコンセプトと絶妙にマッチしているんですよ。
寺井:もう一人、アーティストとしては山川冬樹さんという人も参加します。
山村:また、その人がめちゃくちゃ面白いんです。
寺井:根本的には、心臓で演奏をするアーティストというか。心音で演奏する、心臓の音をアンプで増幅して聞かせるんです。
-それがリズムになって聞こえるんですか。
山村:そうです。リズムを変えることもできます。どうやるのかは分からないけれど、たぶん息を止めたり過呼吸したりして。ドンドンドドドドドみたいな音を出しながら、歌って踊ったりします。
-それ、すごいですね。
寺井:極限的なアーティストですね。
山村:それはそれで生命とエネルギーを感じるアートだし、それがどういうふうにこの地域の人に響くのかは正直、分かりません。でも、それもいいのではないかと思っています。
-そういうアーティストがいれば、よりたくさんの人が遊びに来てくれるでしょうね。
寺井:ぜひ遊びに来てほしいですね。一般の人から見ても、エンターテインメントとして、十分、成立していると思いますから。
山村:このプロジェクトが環境未来都市とどのようにつながっているかという話をすると、環境未来都市というものを表現するにあたって、それと近い考えを持っているアーティストにお願いをして表現しているということになると思います。
寺井:プロトタイプを見せているわけですよね。
-環境未来都市のコンセプトを象徴的に見せるためのアートでもあるということですね。これはそのまま観光地としても成立しそうですね。
寺井:常設ができればいいんですけれどね。
山村:常設になればいいですね。というか一回きりのアート展示はほとんど意味がないと思っていますし、継続的な取組みにしたいと思っています。といいつつ今のところ常設の目処は立っていません。建築制限があったりして、なかなか難しいんですよね。
-そうなんですね。
寺井:「これは仮設だから」と言ってその場所に置き続けることはできるかもしれないけれど、そうすると今度はアートメンテナンスをどうするかという問題が出てきます。だからやっぱり常設は難しいですね。
山村:それに村上さんは自分がそこで鍋奉行をすることが作品として重要なわけで。
寺井:他人が鍋奉行をやっていたら、作品のコンセプトからずれてしまう。彼の作品ではなくなってしまいます。それでは意味がないですから。
-なるほど。すごくよく分かります。
山村:未来永劫は無理でしょうけれど、でも、移設して回るというのはあるんじゃないかと思うんですけどね。
寺井:チーム化していって、村上さんの下でアシスタント的に動く人を育てればそれも成り立つかもしれないけれども、彼もまだ若手だし、全部自分でやりたいというふうに思っていると思います。
山村:そもそも彼のアートは、自分の人見知りを解消するために作られたアートなんですよね。
寺井:もともと村上さん自体が人見知りなところがあって、それに向き合うために、結果としてコミュニティスペースを建築することが作品になったという。確かもともとは、彼の設計する作品には2カ所以上から入れること、外から見えること、っていうような取り決めがあるんです。
山村:でも、今回の家はもう壁がないですからね。カーテンになってる。それにドアも一応あるけれど、どこからでも入れるんじゃないかという(笑)。
寺井:彼の中で「これはいいね」ってなったんでしょうね。建築ハウスメーカーが家を建てるときには全部作り込んでいくわけですよね、ここも補強しようとか、断熱材を入れようとか。どんどん足していくわけです。でも、こっちはアートと建築のあいだをやっているわけで、むしろ、いらないものを減らしていくことで建築の本質が見えるだろうということなんだと思います。で、ドアの話で言うと、ここから入れますよという記号としてやっぱり必要だから残すべきだと彼は考えたのだろうし、それをガタガタって開けることにすごく価値があると思っているわけで。
-そうですね。
寺井:コンセプトなんですよね。彼らがやっているのは、現代アートですから。でも、非常にクオリティは高いと思いますよ。やはり特殊な環境のなかで活動するということについて、アーティストから高いモチベーションを感じるので。
-最後になりますが、環境未来都市のホームページをあらためて拝見すると、「環境未来都市とは、環境超高齢化対応等に向けた人間中心の新たな価値を創造する都市を実現すること」なんですね。
山村:そういうことらしいです。私としては、大船渡の仮設の屋台村に「えんがわ」っていう飲み屋があるんですが、そのお店がソーラーパネルを貼って永遠に続いてくれたら、それも1つの環境未来都市と呼べるんじゃないかと思ってもいるんです。えんがわは80代の女将さんが切り盛りしている人気店です。そんな店が自然エネルギーを活用してサステナビリティを手に入れたら、それこそ超高齢化社会に対応して、かつ、エネルギー問題を解決した新しい街になるんじゃないかなと。
-つまり、自立したもの。
山村:自立して、おじいちゃんやおばあちゃんたちが楽しく暮らせる街であると。
-エネルギーも自分で供給できるし、必要があれば自分たちでトンカチやって増築したりするようなイメージでしょうか。確かにそういうフレキシブルな環境を作るほうが見た目も面白いし、外から人がやって来そうです。
山村:そうですね、そのほうがめちゃくちゃ面白いだろうなと私個人は思っています。
-ありがとうございました。
聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:鈴木賢彦(ボランティアライター)
■インタビュー前編:「環境未来都市」構想を、気仙地域で描く
■山村さんの手がけるKesen Transplantは5月4、5日に開催されました。
6月9日(土)15時~報告会が松戸で開催されます。関心のある方はこちら:ケセン・トランストーク
■参考リンク
けせんふぇす
Kesen Transplant
MAD City 不動産