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特集記事 「環境未来都市」構想を、気仙地域で描く

リーダーがビジョンを語る7868viewsshares2012.06.07

「環境未来都市」構想を、気仙地域で描く

津波による甚大な被害を受けた陸前高田市、大船渡市。内陸の住田町を含めて「気仙地域」と呼ばれる二市一町は、2011年末、政府が推進する「環境未来都市」構想のモデル都市に選ばれ、復興への途を歩み始めました。気仙地域が描く環境未来都市とはどのようなものなのか。コーディネーターを務める山村友幸さんにお話を伺いました。【気仙広域環境未来都市コーディネーター・山村友幸(1)】

-山村さんが現在取り組んでいらっしゃる活動について教えていただけますか。

岩手県の気仙地域、これは大船渡市、陸前高田市、住田町をあわせた二市一町と呼ばれるエリアですが、この二市一町から依頼を受けて、環境未来都市というものを考えるプロジェクトに取り組んでいます。環境未来都市というのは、2年ほど前に国が策定した新成長戦略の中で提言されたもので、環境に対応した新しいモデル都市を作ろうという動きです。

-震災の前にあったものですか。

環境未来都市という制度そのものは、国の新成長戦略の1つとして、震災前からありました。この制度の予算を使って、モデル都市として震災復興も進めようということで、気仙地域では昨年6月頃から話が始まって、11月に申請を出し、12月に選定されました。全国から11都市が選ばれ、被災地からは6都市が選ばれています。気仙地域の二市一町もその中の一つです。

-山村さんはその未来都市への取り組みを実際に進めていく役割を担っていらっしゃるのですね。

各市役所が主体になりつつ、私はそれをシンクタンク的な立場でサポートする役割ですね。といいつつ、私は大船渡市役所の中にデスクをお借りしていたりするので、もう一体に近い形でやっているような感覚ではあります。

-具体的には、日々、どのようなことをされているのでしょうか。

1ヶ月のうち、約半分はこちらにいて、残り半分は東京にいます。気仙広域環境未来都市には5つのプロジェクトがあり、私はその中の医療福祉介護分野を担当しています。東京での仕事は、医療福祉介護の専門家や、先端的な医療や福祉を行っている企業や地域などを訪問してヒアリングを行ったり案を作ったりしています。こちらでは、市役所の方とか医師会の方など現地の関係者と一緒に、「どういうふうにやっていきましょうか」という話をしながら調整していく、コーディネーションというか、そういった仕事をしています。ただ、プロジェクトが少しずつ進んできて、現地で行うべき仕事が増えてきたので、もうそろそろこの地域に引越してこようかなと思っています。(※インタビュー後、山村さんは大船渡市に住民票も移し大船渡市民になりました。)

-山村さんが、このプロジェクトに関わられたきっかけや経緯はどういったものだったのですか。

気仙広域環境未来都市を申請しようということがある程度見えてきて、国に実際に申請を行う段になって、私に声がかかりました。私がいま所属している東日本未来都市研究会の理事長が、東京大学の宮田秀明教授という方です。申請が本格的に進むにあたって手が必要だということで、先生から話をいただいたのです。私はもともと復興に関わっていたわけではないし、この地域に関わっていたわけでもありません。たまたまご縁があって、ここにいるという感じですね。

-それまではどういうお仕事をされていたのですか。

大学を出た後、最初の4年間でコンサルティング会社2社を経験しました。その後、企業再生の仕事をしました。30歳で東証二部上場企業の社長になって、赤字続きだった経営を黒字化したこともあります。その後は自分の会社を作ったり、コーチングの仕事をしていたりしていました。そんなときに311の震災があって、自分も何かしら社会貢献みたいなことをできないだろうかと考えるようになり、ちょうど宮田先生から話をもらったこともあって、このプロジェクトに参加することになりました。それが昨年の8月頃です。

-それから今の役割へと近づいていったのですね。

近づくというか、突然入り込んだ形ですね。最初は、国に申請書を書くという仕事をひたすらやっていました。

 

 

-初めてこちらに来られたときは、どんな印象を持ちましたか。

食べ物がおいしいと思いました。お寿司屋さんで「僕、初めてこの街に来たんです」って伝えたら、何も注文していないのに、どんどんご飯が出てくるんです。イカの腑焼きに、刺身に、さんまの焼き魚…もう、どんどん出てきて。それがまたおいしいんですよ、しかも安い。だから最初に思ったのは、ご飯がおいしいということと、人があったかいという、この2つですね。

-山村さんご自身はご出身はどちらですか。

大阪府の吹田市というところです。関西出身ですね。

-東北とはまったく縁がなかった。

全然ないです。今回のお仕事があって岩手県というところに初めて来ました。

-初めての土地ということですが、こちらの地域の方から住まいを提供されて住んでいらっしゃったり、もうずいぶんと深くこの土地に入り込んでいるようにも見えます。

そうですね。街をよくしたいというときには、私がその街の魅力を知っていないと話にならないと思うんですね。国に提出する書類を書くだけにしても、その地域を知らないと書けないですよね。結局、街を作るキーになるのは、その街の人たちであり、彼らが街を愛する心ですから。
その愛がどこからどこへ向かっているのかとか、何に集中しているのかとか、それを知らないと書けないと思ったんです。ただ、私がやっていることは街に深く入っているように見えるかもしれないけれど、たとえば住民説明会のようなものにじっくり入るというようなことはまだあまりやっていません。だから、私が勝手にこの街で生活して色んな人に会って、街のことを吸い込んで知っていっているという感じですね。

-なるほど。

だから、入り込んでいるといっても、それほど入り込んでいないような気もするんです。でも、復興と言って、現地のことをそんなに知らずにとりあえず絵だけを描いている人もいるみたいですから、そういう方々に比べたら地域に入り込んでいるほうかもしれません。

-アクションを起こしていますからね。今後の具体的な動きについてはどのようにお考えでしょうか。

医療と福祉を担当していますので、地域の医療福祉関係の方々を集めた協議会を作ることになると思います。そして、その協議会はおそらくNPOなど法人化すると思いますが、そういった形で組織化して、地域の医療について話し合い、決定し、実行していくというのがメインの仕事になります。

-この地域の医療について課題はありますか。

地域の医療福祉介護関係者は非常に尽力されていますが、せっかくの機会ですので国内でも先進的な街にしたいと思っています。まず高齢化が進む一方で人口は減っている、という状況の中では、高齢者のために大きいハコモノを作る意味自体が問われています。ほとんどの高齢者の方は、できる限り自宅で過ごしたいとおっしゃいますし、自宅や地域の拠点を活用しながらどのように高齢者の暮らしを支えるインフラを構築できるかということだと思います。

-いまあるストックを有効かつ最適に使って、どうしていくか。

はい。大きな老人ホームを作って、そこで看ましょうというのは、なかなかこの地域には合わないのではないかと思っています。まだ高齢化が進んでいない都会でなら、何十年かは成り立つかもしれませんが。だから、課題というのは一つには、長い目で見たときの高齢化と人口減少にどう対応していくかということですね。それと、目先の課題ということで言うと、心のケアが問題です。最大で住民の30%ぐらいにPTSDのリスクがあるのではないかと私は考えています。たしか、水戸で震災後に調査した結果があって、20%の方々がPTSDの可能性があるということでした。水戸でそれくらいですから、こちらではもっと高いだろうなと。仮設住宅での生活もストレスです。PTSDというのは基本的に治りにくいものですから、今後10年くらいは対応を考えておいたほうがいいかなと思います。

-治らないんですか。

10年、20年経ってもフラッシュバックがあることがあるそうです。そういう心のケアを行う地域の方々が、もともとたくさんいる、というわけではないので、他の地域からサポートに入ってきてくれている様々な方々の力も活用しつつ、地域の心のケア体制を作っていくということが重要です。

-ほかに何か取り組んでいらっしゃることはありますか。

これは直接的には環境未来都市の仕事とは関係ないのですが、5月4、5日に開催される「けせんふぇす」というイベントでアートプロジェクトを企画しています。

-山村さんの個人的な取り組みということでしょうか。

はい。まず、けせんふぇすというイベントが5月に開催されるという話があって、その担当者から「環境未来都市プロジェクトについて展示ブースを作るので、何かやってもらえませんか」というお話をもらったのです。せっかくの話なので、パネルでも貼って展示をしようかなと思ったんです、最初は。

-「けせんふぇす」というのはお祭りみたいなものですか。

ミュージシャンを呼んでコンサートをしたり、お祭りみたいなものですね。で、よくよく考えたのですが、「環境未来都市とはこれこれこういうものです」というパネルを貼ることには、あまり意味がないのではないかなと思ったんですね。

-ただパネルを展示するだけでは…。

せっかくの機会だし、どうせだったら、何かもっと面白いことをやりたいなと。それで、寺井君のところに相談に行ったわけです。
(後編に続く:インフラがなくなった場所で、アーティストが描く未来)

聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:鈴木賢彦(ボランティアライター)

 

■6月9日(土)15時~、山村さんが携わるアートプロジェクト「Kesen Transplant 」の報告会が松戸で開催されます。関心のある方はこちら:ケセン・トランストーク

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