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特集記事 地元雇用での復興を目指した仮設住宅サポート

リーダーがビジョンを語る7711viewsshares2011.10.04

地元雇用での復興を目指した仮設住宅サポート

岩手県北上市に、30代前半のコミュニティプロデューサーがいると評判を聞いた。大船渡市と北上市が連携し、国の緊急雇用の枠組みをうまく活用し、70名の仮設支援員と、7名の地区マネージャー、4名のコールセンター部門を組織し、37の仮設住宅のサポートを担う。こだわりは、外部のリソースに依存し過ぎない、地元雇用での復興。全体のコーディネート役である菊池広人さんに、大船渡でのコミュニティ再生の取り組みと、その先に見据えるビジョンについて伺った。【大船渡仮設住宅支援員配置支援プロジェクト・菊地 広人(1)】

 

 

-今のお仕事にいたった経緯を聞かせて下さい。

岩手県盛岡市出身で高校まで岩手で過ごしたあと、早稲田大学の人間科学部に入学しました。在学中に、大学と所沢市が協働で地域のスポーツクラブをつくることになり、その立ち上げにうまく関わる機会があって、そこからこの業界に入りました。

卒業後は、東京でスポーツ関係のNPOに就職し、スポーツ選手が引退した後のキャリア支援、地域再生マネージャー、スポーツ施設等の指定管理スキーム作りなどにも携わりました。もともと岩手で仕事をしたいという気持ちもあり、5年前に岩手に戻ってきて、今は父の実家がある北上市に住んでいます。

 

-大学時代からコミュニティに関わってきたのですね。

今の僕の仕事を簡単にまとめると、いわてNPO-NETサポートというNPOでの仕事を通じた北上市のまちづくりのお手伝い、仮設住宅のアセスメントなど復興関係のコーディネート、介護予防教室での運動指導など「体操のお兄さん」の3本柱です。

北上市では、2006年から16地区の自治協議会が地域の公民館の指定管理を市から受託し、「交流センター」として地元雇用により運営をしています。北上市では、市全体の総合計画の他、、この16の地域が5カ年の「地域計画」を立て、それぞれのコミュニティが計画的に地域づくりを行っています。予算に関しても、市の補助金に依存せず、県・国、民間団体からも資金を獲得しながら、それぞれの地域が目指すべき姿に向け、自立した活動を行っています。私は、各地域における計画づくりや、課題共有、資金獲得にむけた企画支援など、地域における自治の実現に向けたお手伝いをしています。

その他、総合計画や土地利用、公共交通、商店街振興、観光推進、協働推進など、少子高齢化の中で、地域が持続可能な社会構造を獲得するため、分野を横断してさまざまな北上市の仕組みづくりのお手伝いを行っています。また、震災のあとは、北上の避難所運営で特に帰宅困難者の支援をやっていました。

去年、40歳以下のNPO職員のメンバーの交流やスキルアップを目的とし、いわてNPO職員ネットワークをつくったんです。NPO職員も経営者としての感覚を持ちながら活動しようと。そういう優秀な職員によってマーケットが広がれば、いずれ他の仕事へのキャリアップにも繋がる。そのネットワークの中心は岩手県南で同様に中間支援組織で活動している年代も近い4人で、岩手の若者が働きたいと思う仕事の一つとしてNPOが挙げられることを目指そうと活動を行っていました。

その時に、今回の震災があり、これまでの岩手県内の市町村単位の中間支援NPOのつながりとメンバー4名のつながりを活かして「いわて連携復興センター(IFC)」の立ち上げも当初からのメンバーとして行いました。IFCは、毎週、復興局や雇用対策室等、県庁内の部署を超えた横断的な定例ミーティングをおこない、生活環境や、雇用環境、健康面など多面的な情報共有をおこなっています。その中では、緊急雇用創出事業の企画案をつくり、岩手県と一緒に市町村に提案などをしています。今回の復興では、岩手県・市町村・NPO・企業が本当の意味で「協働」し、緊急雇用の予算をうまく活用しながら、地元雇用での復興を目指したいと思っているんです。

岩手県民が、岩手の手足によって復興していかないと、つまり外の人たちのリソースに依存してしまうと、どっかで復興が止まってしまう。「つながりとなりわいの再生」をテーマに、取り組みを進めています。

 

-大船渡での仮設住宅での取り組みについて、そもそもの成り立ちはどういう流れだったのですか?

震災後に立ち上がったいわて連携復興センターは、津波被害のあった沿岸部支援のためにプロジェクトチームをつくった北上市と「沿岸被災地復興のための協働支援協定」を結んでいます。私は前述の会議基盤やこれまでの関係性もあり、6月は岩手県や北上市と沿岸自治体さんに伺い、緊急雇用事業の活用について意見交換を行っていました。緊急雇用事業の活用が、なりわいの創出と生活課題の双方の解決につながると考えたからです。

しかし、被災自治体は、未曾有の被害があり、とても国・県の支援事業を行えるだけの事務を執ることができない状況でした。そこで、北上市が大船渡市のかわりに事務を執り、その時に一番の課題であった仮設住宅団地のコミュニティ基盤、生活基盤づくりを行うという事業が会議の中で具体的に動き、現在のスキームまで発展しました。

大船渡市の他の自治体さんにもアプローチしたのですが、大船渡市が真っ先に手をあげられた。行政のプライドではなく、住民の皆さんのことを考えた判断で、それを頂いた北上市は本気になって、ありえない位のスケジュール感で事業を組み立てました。具体的には、話が持ち上がったのが6月後半で、7月20日に公募、8月上旬には採択され、雇用のための人材募集を開始、9月1日に事業をスタートさせるというものです。

この事業の実施にあたっては、北上市が民間人材派遣会社の㈱ジャパンクリエイトに仮設住宅支援業務を委託し、受託企業が、大船渡市の地元雇用により、事業の運営を行っています。この事業実施においても、いわてNPO-NETサポート、いわて連携復興センターが、北上市と協働で、大船渡市役所との橋渡しやコミュニティづくりや生活課題解決に向けた支援をおこなっています。

 

-すごいスピード感ですね。しかも、市が他の市の地元の住民のために緊急雇用事業を申請するというのは、とても画期的で他に聞いたことがありません。

北上市では、先にも少し述べたように10年以上、協働の推進に向け、体系的に取り組んできたこと、さらに市の予算が限られ知恵を出すしかない状況ということもあって、もともと地域住民によるコミュニティ活動が進んでいると思います。北上で培ったノウハウと、外部NPO、NGOとのつながりや県内での活動ノウハウのあるIFCが、仮設住宅団地を運営の広報支援を行いながら、人材の募集のプロであるジャパンクリエイトと、住民自治のノウハウのある北上市が、大船渡市の各部署や大船渡市社会福祉協議会と横断的に協力しながら進めているのが事業です。

 

 

-大船渡市の仮設住宅の現状は?

大船渡市には、1805戸の仮設住宅が建っています。そのうち、今の入居が1760戸くらい。一世帯平均2.5人くらいなので、約4000名が仮設に住んでいらっしゃいます。そのほとんどが大船渡市内にもともと住んでいた方です。今週に入って、ばたばたと30戸くらい埋まってきたりしているので、内陸の他の市に避難していた人たちが、市内に戻ってきたという流れはあるようです。

大船渡の仮設は、6地区に分かれています。そこで、新規雇用した11人のマネージャーのうち、7人を地区マネージャー、4人をコールセンターマネージャーとしてお任せし、70名の支援員さんたちのマネジメントをお願いしています。支援員さんはその地区の仮設住宅の規模にあわせて1~3名配置しました。おおよそ30戸に対して一人の支援員が常駐する計算で、各仮設住宅に併設されている集会所や談話室に常駐し、運営しています。

また、事業を進める上でのステークホルダーを集めて連絡会を開催しています。ジャパンクリエイト、いわてNPO-NETサポート、市の保険福祉課、国保年金課、保健介護センター、雇用対策の商工観光課と総務課、社会福祉協議会、警察などの皆さんと隔週で連絡調整会議を開き、情報と課題の共有をしている。それまで大船渡市役所内の横断型の会議はなかったと伺っておりますので、単なるこの事業の情報集約の場というよりは、広い意味での復興に向けた情報共有の場ということを意識して、進行を行っています。

 

-支援員さんたちの活動はどういうものですか?

支援員さんたちの目指すところは、「仮設住宅に住んでいる人全てが健康で前向きな生活を送れる環境をつくる」こと。そのために、支援員さんの成果指標は、自ら談話室へ訪れる仮設住民の人数に設定しています。支援員の役割は、住民のみなさんのお手伝いと、行政と住民、住民の皆さん同士、住民の皆さんと支援団体などの繋ぎ役、という二つがある。「お仕事テキスト」を作成し、それをもとに事前に研修をしています。具体的なお仕事は、集会場や談話室の鍵の管理、仮設の見守り、朝の声かけ、住民からの相談受付です。相談は受付表を作って管理しています。相談のほとんどが、話聞いてあげるだけで解決してしまうんです。他には、ここに連絡してみてください、と連絡先を教えてあげることが多い。

現在、仮設における自治会は、37団地のうち半分は立ち上がっているので、そういうところでは、自治会のお手伝いをしています。あとは、社協さんのお手伝い。社協さんの生活相談員もがいますが、11人と少人数で、しかも仮設住宅以外にも一般アパートや自宅避難者さんも担当になっています。そのため巡回相談をおこなっていますが、それぞれの団地に行くのは週1回、多くて2回が限界です。毎朝お薬飲んだかの確認など毎日必要なお手伝いは、私たちの支援員でやっています。住民から寄せられる相談は、支援員で解決するわけではなく、まずはコールセンターに集約する。あくまで、困りごとをつないでいく役割です。メイン、リーダーではない、事業を先導する人ではなくて、あくまで後ろにいるような人ですよ、ということで支援員さんたちにはやってもらっている。各エリアのマネージャーは、支援員の働きやすい場をつくり、渉外の窓口や内部からあがってきた課題を外と調整する役割です。

 

-役割や成果も明確に定義されていて素晴らしいですね。ちなみに、応募はどれくらいあったのですか?

採用は、ジャパンクリエイトにお願いしたので直接関わっていませんが、81人の募集に対して150人の応募がありました。月給は支援員15万円、マネージャー19万円ですが、市内の仕事の基本給では高い方です。その分、求められるものも高い。雇用充足率が50%きっている状況の中で、よくこれだけ募集がきたなという感じがします。本人も仮設住宅に住んでいて、そこで働いている人たちが3割くらいいる。

月給の求人が少ないこと、あとは女性や高齢者の方が働ける仕事であるということが応募が多かった理由なのかなとは思っています。あとは仕事の内容。仮設住宅に住んでいる自分でも復興のお手伝いができると思って、と応募してくれたマネージャーもいます。

 

-コールセンターで、すべての住民からの相談情報の集約をしているのですね。

岩手県との定例会議の中で、岩手県復興局が中心となり被災者支援一覧と相談対応マニュアルをつくりました。そして、マニュアルのためのマトリックスをつくった。つまり、「子ども」の「資金」について困っている人がマニュアルのどこを見ればいいか、それぞれのテーマの交わるページを見ればわかるマトリックスです。

 

-これは、すごい。こういう工夫によって、マニュアルの活用度がぐっとあがりますね。

県の生活再建課は、かなり本気でやっています。県の成果物を、どんどんコールセンターで活用している。マニュアルがあれば、コールセンターの相談対応能力は自然にあがってくるものです。また、対応できるかわからないものに関しては、週一回まとめてその後の対応を市と相談しています。

 

-支援したいという団体からの連絡もコールセンターが受ける?

はい。支援したいという依頼があったら、その情報をもとに支援員がそのサポートを行います。戸別訪問はセキュリティの面で問題あるし、支援のむらもあるので、仮設住宅団地ごとに受付簿をつくり、外部のボランティアなどは訪問内容を書いてもらっている。これをもとに、こういう地区でこういう人がきた、あるいはきてほしい、というデータとして、後でも使えるようにしています。また、週報として団地ごとに1週間でどういうニーズがあったかを集計、仮設ごとの傾向がわかります。それによって、次の支援や課題解決がしやすくなるかなと思って。このへんのマネジメントがだいぶんまわってきたので、次は課題を抽出して、支援団体のデータベースとつないでいくことができないかなと思っています。

 

■右腕求人情報:大船渡仮設住宅支援員配置支援プロジェクト(9/30募集開始!)

■記事の続編はこちら:住民自治による持続可能な地域づくり

 

 

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