リーダーがビジョンを語る
自分が一番使ってもらえる環境ってなんだろう(2)
国際開発援助の豊富な経験を活かし、福島で精力的に活動されている伴場さん。前編に続き、テレビでは伝わらない現地のにおいやそこに暮らす人の思いなど、現地にいるからこそ感じられる福島の現状とその中で感じるやりがい、右腕に期待される役割まで幅広く話を伺いました。【一般社団法人Bridge for Fukushima・伴場賢一(2)】
―福島の目線も持ち合わせつつも、外からの客観的目線も持っているというのが理想的なんですね。今後、どういう人に右腕として来てもらいたいでしょうか。ご自身のプロジェクトもそうですが、福島全体としてもこういう右腕に来て欲しいというイメージはありますか。
やっぱり今までの既成概念の中でやっていく仕事ではもうなくなってきてると思います。たとえば復興予算の使い方一つ考えても今までのハードばかりでは絶対なくって、やっぱりソフトのケアってしないといけないし、原発の被災というのは日本で初めてのケースなので、そこに対してチャレンジしながら同時に楽しんでいける人というのがまずあります。あとは、開発援助の仕事でも同じなんですけど結果ってすぐ出ないんですよ。
―結果はすぐ出ない。
はい。先なんですよすごく。すごく先。緊急フェーズの仕事だと水を10トン持ってきて人に配ったらその場で結果が出る。でも復興フェーズって、コミュニティづくりでも、つくっただけじゃだめで、それが続いてちゃんとアウトプットが出るまでが結果なんですね。たとえばコミュニティつくっておばあちゃんたちが楽しそうにやっているというのは、それはそれですごく嬉しいんだけども、そこってまだ点だけで面にはなってないですよね。本当に結果が出るというのは10年後だったりします。そこまでちゃんと結果が出るのを我慢できる人です。
―せっかちな人じゃだめなんですね。
すぐ結果を出そうとするとだめなのかもしれないですね。やることはいっぱいあるんですよ。だから役割はすごく感じれる。すごくいろんな場面でやることはあるし、細かなところの結果というものはもしかしたらすぐ出てくるかもしれないけど、最終的にやろうとしている復興ということに関しては、開発援助の仕事とすごく似ていてその国をつくっているので。それが5年後10年後にちゃんとつながってるかというのが本当の意味で評価されるところだと思っています。
―なるほど。そういう姿勢でじっくりできるような人が来てくれるといいんでしょうね。そういう意味でいうと、右腕のプログラム自体は一年くらいじゃないですか。入り方としてはいいかもしれないですけど、やっぱりそれだけじゃ足りないのでしょうか。
いや、でも充分だと思うんです。ETICさんのことだからちゃんとフォローアップするんだろうと思うんですけど、右腕で関わった人がその後どうなったかというのを見ると、たぶんこれからも何らかの形で関わると思いますよ。もう卒業生も出ていますけど、ほとんどやっぱり何らかの形で震災には関わる人をつくってくれてると思うので、右腕はむしろエントリーポイントとしてあって、これから5年10年震災に関わってくれる人をつくってくださってるのかなって僕は安心して見ているんです。
―やってみないとわからないでしょうし。もしかしたら合わない人もいるかもしれないし、そもそも合うんだけどやってみないと気づけない人もいるんだと思うんですよね。右腕にはどれくらいの覚悟を持って来るべきなのでしょうか。
僕はNGOにいた時に採用面接官をやらせていただいた経験があって、人生をかけてNGOに入りますっていう人がいたんですけども、そこまで重い荷物を背負ってだと苦しくなると思います。長期戦だと思っているので。思いは絶対持っていてもらわないと困るけれども、それが妙に肩肘張りすぎちゃうと…。自分の復興の思いって自分の思いだけじゃないですよね。むしろ他人の思いを共有することとか、他人の生活に責任を持つということだと思うから。
―そうですよね。
楽しめないとやっぱり長くは続けられない。でも楽しいだけでも続かないです。
―なるほど。楽しいことっていうのは具体的にどういうことなんですか。
楽しいっていうことは、たとえば最初は僕を真ん中にブリッジフォー福島というのをつくったのが、ETICさんがこの右腕のプロジェクトをやっていることでぽんぽんと仲間が増えていく。それだけでもすごく面白いし刺激があると思うんですよね。やっぱり僕は一人じゃない。今日になって自分のやっていることに少なくともこれだけ仲間がいるなと強く思えることが一つ。それから、普通だったらまったくつながらない人同士が、震災のネットワークの中でつながって面白いことをやってくれる面白さって今すごく感じているところです。先日は高校生向けにゲストを呼んでイベントをやったんですけど、すごく濃厚な2時間を過ごすことができたんですよね。こういうときだからこそ周りには多様な人がいて、そういう化学反応ができてくると楽しいですね。元々それがブリッジという名前に込めた思いでもありますし。
―実際に出会ってつながってそれで何かが起きる。それはすごく楽しくてうれしいことですよね。
うれしいですね。あとは元々自分は福島の他に相馬でやっている活動があるのですが、その活動というのはどちらかというと水を配ったりネットワークをつくったりとかものすごく初期的な活動なので、現地の人がやることが理想だとずっと言っていたんです。すると、その活動をここ一年くらいずっとボランティアとしてやってくれていたおばちゃんが、「私もNPOやりたいんだよね」と言い始めてくれたんです。僕はその方がやってくださるならこんな嬉しいことはなくて、そのためにやってきたような活動というか。そうやって少しずつ蒔いた種が芽を出してきているという感覚があって、そこが今の楽しさであり、わくわくなのかもしれないですね。
―震災に関係なく、もしかしたら過疎などが原因で地域としてのつながりが希薄になった部分があったのかもしれないでしょうし。今回の震災で、さらにそれが加速しているので、それをちゃんとつなぎなおす役割は必要なんでしょうね。
質問ばかりしてすいませんでした。最後にみちのく仕事を見ている人にメッセージをお願いします。なんでもいいのですが、言いたいことがあれば教えて欲しいです。
はい。これは極めて個人的な話になるんですけど、この活動のゴールということを最近意識し始めています。それが何かといえば、「震災があったから福島ってこういう風によくなったよね」っていうことをつくるのが僕の活動の最大のミッションだということです。それしかないと思うんです。
―それしかない。
というのは元々福島って問題があった地域だったと思うんです。過疎というのもそうだし、農業依存度が雇用人口の10%くらいで、それを高齢者が担っている。過疎じゃない市内の農家さんでもだいたい70過ぎのおじいちゃんおばあちゃんがやっているという状況があります。かつ、いわゆる浜通りなんていうのは完全にモノカルチャーで原発というか電気産業に頼ってしまっていた。その問題が震災という出来事で一気に表面化した。でも、ある意味でいうと考える機会が与えられたという風に思うしかないくらいひどい震災だったんですよね。これを機会にじゃあ我々が何を考えなくてはいけないのか。どういう行動をすべきなのか。どういう町づくりをするのか。そこで暮らす人の幸せって本当は何なのか。こういうことを考える機会になったという風に今は思っていて、それを考えることによって5年後なのか10年後なのか20年後なのかわからないですけど、震災があったけど僕らはこういう風にいい方に変われたよねっていう風になりたいです。
そうなってくると、やはり自分たちの力だけではちょっとできないくらいものすごく深刻だし、ナイーブだし、むしろ日本全体が考えるに値する問題だと思うんですよ。なのでやっぱりたくさんの人に関わって現場の問題を見てもらいたいと思うし、繰り返しになりますが、においをかいで欲しいんです。たとえばここから相馬に行こうとすると、稲が植わっていない田んぼがあるんですよ。それは減反じゃなくて原発で田んぼをやめている人達がいるということなんですね。それはこれからたぶんもっと増えてく。
―増えるんですね。
もっと増えると思います。そこでたぶんもう農業を止めてしまうという選択肢をしてしまう人たちが多い。果樹に関してもそう。やっぱりそういうことは見ないとわからない問題なんじゃないのかなと思う。においをかいでみないとわからない。
―テレビとかじゃだめですよね。
だめだと思うんですよ。やっぱり日本人にとって、田んぼってすごく頭に残っている景色なんだなと思ったんですよね。やっぱり6月に稲がない田んぼってさみしいですよ。すごくさみしいです。
―今どんな感じなんですか。稲がない状態って。
雑草がぼわーっとなっちゃって。そこも体感です。だから見て欲しいし考えて欲しい。そこで何かできることというのは本当はいろいろあると思うんです。僕は現地の団体としてそこをつなぐことをしていきたいと思っているし、右腕の加藤君にもずっとそういう仕事をお願いしてきたので、そういうことを一緒にやってくれる人がもっと増えたら嬉しいなと思います。そういう意味でみちのく仕事というのは一つのいい機会だと思っているし、このプログラムの中で使えるものはすごくいっぱいあると思います。
―そうですね。まずはイベントなど来れるような機会もあるでしょうし、見てもらいたいし、においを感じてもらいたいですね。ありがとうございました。
「BFFでは、ETICの右腕として派遣された加藤裕介君が企画したふくしま復興かけはしツアーを月に1度、金曜日夜東京発の1泊2日で行っています。
ご興味のある方は、bridgeforfukushima@gmail.comまでお問い合わせください。」
インタビュー前編はこちら: 自分が一番使ってもらえる環境ってなんだろうということ
■Bridge for Fukushima HP: http://bridgeforfukushima.org
聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:坂口雄人(ボランティアライター)