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特集記事 情報発信で、若い人にも「金のさんま」が広がって

リーダーがビジョンを語る7402viewsshares2012.07.19

情報発信で、若い人にも「金のさんま」が広がって

気仙沼で水産業を営む老舗、斉吉商店。主力製品の「金のさんま」などを仮設工場で製造再開し、現在は自社工場を再建されています。工場再建にまつわる話や、製造再開後の変化について、専務取締役の斉藤和枝さんにお話を伺いました。【株式会社斉吉商店・斉藤和枝(専務)/斉藤純夫(社長) 】

 

 

中村: よろしくお願いします。みちのく仕事編集長の中村です。斉吉さんのwebサイトでは、復興商品と銘打って少しずつ販売を再開されていますね。商品製造のほうはいかがですか。

和枝さん: 工場を借りて製造しています。いま建てている工場ができたら、自社の工場なので、環境もある程度整えられると思います。

中村: 仮の工場では満足したものができないのですか。

和枝さん: はい。賃貸であっても、普通は設備に手を加えて自分たちが使いやすいように変更するのですが、私たちの場合は、元の工場が復旧するまでの3ヶ月をつなぐため、と割り切っていたのです。だから元の設備は変えず、移設できる設備を追加しただけでした。しかし、それでは今まで通りのものを作るには不十分なので、早く移りたいと思っています。新工場はもともと9月に完成する計画だったのですが、ずるずる半年も遅れてしまいました。今は、3月に移転するという話になっています。

中村: 3ヶ月くらい借りようという話だったのに、「まさか」ですね。

和枝さん: いいえ、まさかでもないです。想定内です。震災前は、事業計画を立ててそれに対してスケジュールを決めてやればできました。しかし今は、ひとつも考えた通りにはいきません。

中村: 予想外だらけなんですね。

和枝さん: この工事の話もそうですが、まったく予定通り進まない、というシナリオを想定して仕事を進めないと話になりません。今までと違い、こうなるのではないかと予測を立てることもままなりません。様々な条件が整わなかったり、行政との壁があったり。努力ではどうにもならないことがたくさんあります。

中村: どうにもならないことですか。たとえば「営業許可」のようなものもあるのでしょうか。

和枝さん: はい。たとえば、いま借りている工場についても、下水道の問題がありましたし、敷地面積の問題もありました。あとは工場にトラックが入ってくるための道路の問題もありました。登記が古かったので、隣の土地が農地のままになっており、土地の用途を変えるのには時間もかかりました。仕事を進めようとしても、思いもかけないことがたくさん出てきます。

中村: 確かに土地の用途変更は大変ですね。

和枝さん: 新しい工場を建てる場所について市役所に問い合わせると、都市計画の範囲に入っていないから建てられるということでした。ところが後になって、下水道が通っていなかったのでそもそも工場が建てられないということがわかりました。工場を建てるだけでも二転三転する。工場の建設が9ヶ月遅れたとなっても、しょうがないと思っています。これまでの仕事のやり方にとらわれていては疲れてしまいますし。

中村: 柔軟にやろうということでしょうか。

和枝さん: うーん、いい加減な感じ、適当な感じです。震災後すぐの頃は、うまくいかないことがあるたびに頭をかかえていました。しかし、4月の始めの頃に、松下政経塾の最初の塾頭さんだった方にお会いする機会があり、「斉吉さん、復興計画はゆるゆるしてないといけないですよ」と言われました。そこではじめて、「ああ、予定通りにはいかないものなんだな」と納得しました。

中村: それで、今は流れに身を任せるようにやってらっしゃる。

和枝さん: いや、身を任せる、でもいけません。条件がなかなか揃わないだけで、自分たちが向かう方向も自分たちのあるべき姿も決まっていて、悩みに悩んでいるなかでも徐々に動いているんです。例えば、ある業者さんは、自前で工場用地をかさ上げして新しい工場を建てています。本当は地盤が整備されてから工場を建てるのが一番いいのですが、行政のかさ上げ工事は当初は2年後の完成としていたものが、今は5年くらいかかりそうな状況です。もしかしたら計画道路と工場が重なるかもしれない。地盤沈下した地区では本設設備はまだ建ててはいけないことになっていますしね。どこの企業も、何が正解かはわからないなかで模索しながらも前に進んでいます。

中村: 「やること」も変化することはありますか?やることというのは、前回のインタビューでお話しされていた、自ら値段を決めて売っていく、ということですね。情報発信して商品を直接お客さまに売りたい、というお話でした。

和枝さん: 変わっていないです。期間が長くなったり短くなったりはしても、やることは基本的には変わりません。気仙沼ともづなプロジェクトに集まっている6事業者さんは、ほとんどが商品を自分で売りたい人ですからね。アンカーコーヒーさんも、男山本店さんも。横田屋さんは卸売の割合が高いけれど、自分でも売りたいと言っています。でも、気仙沼には直販をしていない会社ばかりですので、私たちには直販する感覚がまったくないような気がします。

中村: 僕から見たら、まったくないとは思わないのですよね。

和枝さん: ただ、どうしたらいいのか自分ではまったくわからないんですよね・・・

 

 

中村: 製造を再開したなかで手ごたえのようなものはありませんか。

和枝さん: お客さんの層が変わりました。それまで気仙沼に旅行に来るのは、大体60歳をこえて定年になって時間がある人たちが多く、逆に若い人は少なかったです。バスや個人で来た人たちが、斉吉商店の本店や海の家にいらして、家に帰られてからも、また食べたいということでリピーターになってくれる場合がほとんどでした。

ところが、震災後は意外と若い人がうちの商品を食べてくださります。最初は被災地支援ファンドの出資者の方々でした。まだテレビに出る前でしたね。私たちがどういう仕事をして、ちゃんとやっているかどうかを冷静な目できちっと見ている人がたくさんいます。交流が続いている方の中には、お手紙を下さる人もいれば、お母さんの名前で買って下さる人もいます。

中村: なるほど。お母さんに斉吉さんの商品をプレゼントされる方もいらっしゃる。

和枝さん: あと、ほぼ日刊イトイ新聞さんのところで情報発信してもらったおかげで、凄く若い方もいらっしゃいます。金の秋刀魚はしょうゆ味ですし、若い人が食べてくださるとは思っていませんでした。今までお客さんではなかった人たちにまで、お客さんの幅が広がったと思います。

中村: 何か接点があれば幅は広がると思います。まず知ってもらえれば、ある一定の人たちが買ってくれるようになる実感はあるんじゃないですか?

和枝さん: そのようになりたいですね。

中村: 情報発信といえば、facebookの「いいね!」やtwitterのリツイートは共感なので、テクニックを使ってもバレてしまうように思います。でも本音だったらボロがでることはない。情報発信の「手段」をどんどん吸収しつつ、あるがままを伝えるしかない。もしかしたらネガティブなことも、本当に思ったことであればそのまま伝えればいいかもしれません。勝手な想像ですけど、たとえば、今年の秋刀魚はあまりよくないということも事実ならば言えばいいし、そのかわりにこっちの魚が今年はいいと正直に言えば共感してもらえるように思います。口調もいつもどおりのほうがいいと思いますし、方言が入ってもいいでしょうし。

純夫さん: いい例があります。うちの専務(和枝さん)がtwitterをはじめたんですけど、最近はフォロワーの人数も増えてきています。そうするとフォロワーさんからの反応を期待しますよね。ところが、期待してツイートするにもあれこれ考え過ぎてしまうと反応がこなかったり、逆にちょっと風景のことを呟いただけのツイートにリプライがきたりします。受け手の反応をもう少し勉強したり考えたりしなきゃいけないですね。

中村: そうですね。ただ相手を意識しすぎてもよくないのかもしれません。東京によく僕がいくバーがあるのですが、昨日東京は雪がいっぱい降っていてお客さんが全然いませんでした。そのとき、お店のマスターは「さびしいから雪だるま作った」と、雪だるまの写真とともにつぶやきました。僕はもう別の店で飲んですっかり酔っていたし、明日から出張だったのですが、一杯だけ飲みに行こうと思ってしまいましたね。その人はそこまで計算してやったわけではないとは思いますけどね。

純夫さん: 確かに、「雪が降っていてお客がいない」とつぶやいても、「だからどうした」となるだけで反応しようがないですね。

和枝さん: 一にも二にも人柄ということですよね。必ずしも全員が好きになってくれるわけではないけれど、発信する情報の中に斉吉の人柄が表れるから、好きになってくれる人もいる。

中村: そうですね。八方美人だと、結局だれの心にも届かない。

和枝さん: お話していて思い出したのですが、震災関係の報道でテレビに出してもらう際に、自分たちが伝えたい以上に話を盛られることがあります。出す情報を選択して盛らないようにお願いしたり、こんなふうに伝えるならいいよと言ったり、こちらから工夫はするのですが、なかなかその通りにやってもらえないです。でも、みちのく仕事やほぼ日刊イトイ新聞は、喋った通りのことを文章にしてくれる安心感があります。

中村: これは僕がよく使う例えなのですが、テレビは大皿料理で、多くの人にひとつの味を届けられるけど、ひとつの味しか楽しめません。だから万人の心を引きつける、インパクトのある味をめざしている。一方でインターネットにはたくさん小皿料理があって選べるけれど、時にはおなかを壊してしまうような料理も紛れている。マスメディアは味付けが濃くておなかがいっぱいという人も多い。だから多くの人に届けることはできないかもしれないけれど、見聞きしたあるがままを、直接伝え続ければいい、と思います。そうすると少しずつかもしれませんが、確実に必要とする人に届いて、その人のまわりにコミュニティのようなものがじんわりできてくる。

和枝さん: そうだといいのですけど、ちゃんと書こうとしても力んでしまって、結局ヘンテコな文章になってしまうことが多いです。それでも、間違ってしまってもいいからと思い切ってしまうんですけどね。あとで右腕の小林君に教えてもらうことにしましょうか。

中村: そうですね。右腕の小林君に相談しながら、自分の思いを共有し続けることが大切な気がします。お話、ありがとうございました。

 


※インタビューは2012年2月時点でのものです。当時は新工場がまだ建設中でした。現在斉吉商店さんは新工場に移転されています。

(聞き手:みちのく仕事編集長 中村健太/文:ボランティアライター 藤田展彰)

 

■前回のインタビュー:今こそはじめる新しい水産屋のカタチ

 

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