リーダーがビジョンを語る
復旧とか復興とかじゃなくて創造。もう元には戻んない。
つなプロで支援をしている稲葉さん。最大の余震を登米市にある香林寺で体験したことで、目の前にあることが自分ごとになったという。その上で、自分たちが新しく何をしたらいいか見えてきたようです。前回のつづき、最終回です。【つなプロ・稲葉隆久(3)】
-ほかに何か変わりましたか。
稲葉:単純に物届けるとか、元に戻すとかそういう話じゃないなって身をもって感じて。復旧とか復興とかじゃなくて創造。もう元には戻んないことがわかりますし。元の状態を目指したところで悲しくなるだけ。日本中から注目とお金とエネルギーと人間が集まっている。力をあわせて新しいものをつくっていくしかないんだなあって。
-具体的に何かつくっていきたいことはありましたか。
稲葉:僕はやっぱり「教育」。カタリバで教育っていうジャンルをやっていたので。避難所に学校が多かったっていうのもあるんですけど。学校の機能だったり、先生の様子だったり、もちろん子供の様子だったり、親御さんだったり、近所の人たちとか、子供に対するみなさんの意識だったり。すごく気になったので、やっぱり注目していて。それで教育機能自体をもう一回作り直さなければならないんだなってのは感じました。そもそも日本が抱えている教育的な課題は、たくさんあったんです。もともとあった課題はあったし、それが震災でより明らかになっただけなんです。
-根っこは変わらない。
稲葉:そうですね、状況が変わったっていうだけで。
-教育に対して、展望とか課題とか悩みとかありますか。
稲葉:今もまわっていて感じるのは、みなさん問題意識としていかに自立していくのかってところを考えていらっしゃって。もちろん全員そういう方たちばっかりじゃないですけど、自立に向かいはじめていている。仮設住宅もできて、抽選して当たった人は入りはじめていますし。スーパーも開いているし、生活しようと思えば生活できる。まあ許されない人たちもまだたくさんいますけど。
-許されない人たち。
稲葉:状況がひどかったりお金がなかったり。
-ああ、かなえられない。
稲葉:そうですね。でも生活できる状態にはもちろん近づいてきていて。逆に言うと、依存してきている人たち。物資の提供とか炊き出しとか避難所とか、お金かからないですから。
-そうですね。いろいろある。
稲葉:僕たちもただやみくもに与えるとかじゃなくて。みなさんと一緒に新しい町をつくっていく上で必要なこととか、判断していかなきゃいけないなって思ってる。ほかのボランティアたちの中には、与えるだけの支援をする人たちも、まだまだ沢山いるので。
-なるほど、支援するほうにも問題がある。
稲葉:そうです。そこはちょっとミスマッチにならないようにしていかなきゃいけないんじゃないかなって思いますけどね。支援が逆に支援じゃなくなっていく。
-これから支援したい、という人たちにメッセージはありますか。
稲葉:「何かやりたいけど、どうしたらいいかわからない」って人たちいるんですけど。「行ってはいけないと思って」みたいな声も沢山聞くんですよね。でもまあ、とりあえず来てよって思っちゃうんですよね。ジャマになるかもしれないですけど。
-まず来てみる。
稲葉:なんとなく自粛して知らないでいるよりは、こっち来て何もできなかったとしても、肌で感じて帰って伝えてもらうほうが、数千倍ましだって思います。
-数千倍も。みんな同じこというね。なんていうかな、「行動しろ」とか。1泊2日で訪れてお金を使うだけでも全然いいとか。
稲葉:全然いいですね。来たらいーじゃんって感じですね。来れるんだったらもう来てくれって。
-そうですよね。現場を知らないと何もはじめることができない。でもまあ、何かあるわけですよ。「何もできないのに、観光気分みたいな感じじゃよくないのでは」みたいな。
稲葉:最初の一ヶ月くらいメディアでずっと言われていた話ですよね。ひやかしになるとか、観光になるとか、邪魔なだけだとかいろいろ言われていて。本当に1ヶ月くらいはそうだったんですよ。渋滞が起きてしまったり。あとは感情的にも、「外から入ってきてただ見て帰るだけかよ、見世物じゃないんだ」って意識もたぶんみなさんも強かったと思うし。それくらい生きることにすごい必死だったんです。
稲葉:あと1ヶ月たったくらいからの話ですけど、避難所とか学校で子供たちと接していて、「自分はできない」とか「やったって無駄だ」とか自己肯定感が低かったりとか。そこに震災が加わって、さらにまわりの大人たちに気をつかって、「私なんかがやりたいことなんか言っちゃいけない」とか。あきらめている人たちが、ものすごく増えているなあって。そういう人がちょっとでも「やれるかも」とか「やっていいんだ!」とか、主体的に取り組めるような機会を、いっぱいつくりたいなって思ったんですよね。子供というか若い世代、まあ全員そうなんですけど、ぱんぱんに気をつかってるって感じなので。
-ぱんぱんに気をつかってる。
稲葉:ぱんぱんに気をつかってます。特にそれが自立してないっていうと変ですけど、そういう人たちにはいっそう重くのしかかってるというか。自分で生活してきた人とかは、まあ自分がどうするかっていう話だったりとか。
-そういう人たちは自分次第ですものね。
稲葉:そうですね。けれど若い人たちとか、まだ自分で生きる術がない人たちはさらに気をつかっているんじゃないかなって思うんです。小学生以下だと甘えたりとか感情の起伏激しくなったり、表にあらわれますけど、特に思春期や大学生たちは、ある程度自制できる。なおさらためこんでるもの多いんじゃないかなって思いますけどね。ためこんでいるものを外に出せる状態をつくりたい。
-どうやったら出せるんですかね。
稲葉:つなプロとかもそうですけど、一生懸命取り組めるものがあればいいのかなって思うんです。部活でもなんでもいいんですけど。こっちきてひとつ印象的だったのは、ちょうど大きな余震の後くらいだったんですけど、中学校の先生と話す機会があって。
-どんな話をされたんですか。
「いやもう明後日から部活をやるんだよ」って言ってました。「この状況で部活?」って思って。「子供たちも学校再開するのがのびてのびて、ストレスもすごく感じていて、少しでも一生懸命になれるものあったほうがいいんだよね」って話をされていて。「狭いところしか使えないけどやろうと思うんだよ。来れない子もいっぱいいるんだけどね」っておっしゃってて。先生たちはたぶん直感的に「ためこんだものを出すこと」をされていたと思うんです。やることがないから子供たちが荒れはじめてるとか、いっぱい聞いています。小学生たちが暴力的になってきたりとか。
-暴力的に。
稲葉:結構殴る蹴るが強かったりするんですよ。甘えてくるじゃないですか、「えーい!」って蹴られたりすることもあると思うんですけど。それがもう本当に強かったり。逆にすっごいべったべたに甘えたりとか。そういうことが避難所まわっててたくさんあったので。逆に中高生なんかは親友が亡くなっていたりとか、親が見つかってなかったりとか、死体をいっぱいかきわけながら避難したりとかしているにも関わらず、結構淡々とその状況を話したりするんですよね。感情と一緒に喋らない。やっぱりそういう子たちが、主役になって自分から何かをしていくとか、何かをしていい状況っていうのが、日本にそもそも必要ではあったと思うんですけど、さらに今、求められてるなと思います。
-うん。
稲葉:なんかもう、よくわからないって感じですね。こっちではめし食って笑っている人もいて。一方で遺体運んでどん底になっている人たちもいて。避難所ももちろん環境いいところもあれば悪いところもあって。でも、悪いからといって皆さんがしょげているかというと、活き活きされているところもあったりとか。状況がある程度いいのにギスギスしているところもあったり。ばらばらな状況でしたね。
-まずは来てみないと何が起きているか分からないし、何かできることがあるとすれば頭で考えていてもうまくいかないのかもしれません。お話ありがとうございました。またお伺いさせてください。
稲葉 隆久(つなプロ・県北エリアマネージャー/NPO I.P.P.O代表)
大学時代より、カタリバの活動に参加。07年からは理事となり経営にも従事(~2010.7)。延べ4000人のボランティアをマネジメントしながら、関 東を中心に毎年約100校・2万人に及ぶ高校生達に「カタリ場」を展開。大学生同士&高校生と大学生のコミュニケーションの仕掛けづくりから、大学生や若 手社会人のボランティアリーダー教育、キャリア支援のワークショップなど幅広く手がけている。米国CCE,lnc 認定 GCDFキャリアカウンセラー。
■関連インタビュー:たくさんの避難所をまわって見えてきたもの【つなプロ・稲葉隆久(1)】
■関連インタビュー:大きな余震を経験してから【つなプロ・稲葉隆久(2)】