私にとっての右腕体験
引きこもりがちの被災者に、「外に出る目的」を。
「被災地の生きがい仕事と生活の足をつくろう!」と、仮設住宅や買い物施設、病院などをバスでぐるぐるまわって被災地を応援するプロジェクト「ぐるぐる応援団」。右腕として8月から参画した渡邉恭成さんに、活動しての気づきや、冬に起こりうる問題などについてお話を伺いました。【コミュニティバス運行プロジェクト・渡邉恭成】
―今回、右腕に参加しようと思ったきっかけは。
母の実家が宮城県なので、いとこが宮城県に多いんです。なにかできることがあるだろう、というか何かしなくては!と思って、4月に東北に赴きました。泥かきのボランティア活動に従事する中で、ひとつ強く思ったことがありました。「とにかく復興に時間がかかる、長期的に支援活動に携わる人々が必要だ」ということです。会社を退職しワーキングホリデーのための準備をしていた自分には拘束されるものもなく、できることを探しはじめました。そんな時、ETIC. の右腕募集をTwitterで知って。
―いろいろな右腕募集の中から、なぜ鹿島さんの「ぐるぐる応援団」を選んだのですか。
高齢者に興味があったからです。直接色んな高齢者の方と関わりたかったし、話をしたかった。独居老人だったり、高齢者と無縁社会に興味があったので、いずれはこの問題を解決できるような仕組みを作りたいと思っていて。その前にNPOなどの仕組みや、繋がりを知って学ばせて頂ける良い機会でもあるなと。
―右腕として参画される前のお仕事は?
ヘッドホンや体重計など電子機器類のエンジニアでした。新商品開発を企画から、工場の選定、設計から価格の交渉、スケジュール管理、リーガルチェックなど、一つの製品完成までのプロセスを一人で担当できたんです。今の仕事との共通は「ゼロから全てを作ること」。僕は中学の頃からロボコンが好きで、みんなで一つの物をゼロから作ることが好きですね。
―右腕として活動を始めたのはいつごろですか。
7月に鹿島さんとお会いして、やろうと決めて。8月から宮城に入りました。
―右腕に入ってから2ヶ月ほど経ちますが、今はどんなことに取り組んでいますか。
はじめは地域の方たちのコミュニティづくりのためのイベントを開催していたのですが、もう一人の右腕、佐々木さんも加わってくれたので、そちらは彼女に任せて、交通の部分を動かしていくことに注力し始めています。今は交通に関するニーズアセスメントを石巻地区、気仙沼地区で進めて行こうと思っています。また、情報を可視化するために、マップに落としていきたいと思っているので、そういうツールを検討したり、いろんな会社に相談しています。ただ、個人情報などのセキュリティ問題があるので、それを考慮しながら。現在、地震情報の集約サイト「sinsai.info」 を立ち上げられた方々と具体的な話が進み始めています。
―渡邉さんにとって、リーダーの鹿島さんはどんな方?
ブレーキ無しのエンジンみたい(笑)。すごくパワフルでどんどん、ぐいぐい色んなとこに進んでいきます!だから、僕らがたまにブレーキを踏まなければいけないこともあります。ただ、それが鹿島さんの素晴らしいところで、昨日知り合った人と、すぐ何か繋げていくとか、人との繋がりを作る力・巻き込む力が凄いです。そして出会った人たちの問題に対して本当に親身になって心配し、そして真摯に対応していく。そういったところがすごいなと。本当に尊敬しています。一方、自分はタイプが違うので、お互いの足りない部分を補完している感じで、すごく勉強になっています。
―右腕として活動していて、嬉しかったことは。
やっぱり仮設住宅って、色々な地域から人々が集まるから全く会ったことのない人たちの集まりなんですよね。お料理のイベントを開催した時に、お母さんたちにチームを作ってもらったんです。一つの目的に向かって一緒に作業をすることで、今まで一度も会ったことのなかった人たちでしたが「会ってから1週間しか経っていないのに、10年来の友達みたい」と大声でげらげら笑っていたり。僕らが何も働きかけなくても、今では定期的に集まってお茶会をしていたり、コミュニティが生まれてきていて。そんな動きを見ると、「あー良かった」とすごく思いますね。
―それは嬉しいですね。逆に、苦労していることはありますか。
ボランティア活動のあり方の変化でしょうか。ボランティアと一口に言っても、地域の人の反応は2パターンあります。「ありがとう」と喜んでくれる人と、困ってしまう人。自立してやっている人にとっては、「依存してしまう」恐れを感じるそうです。緊急フェーズの時は無料炊き出しがとても大切でした。しかし今は、復旧・復興フェーズに移行しています。この段階での無料炊き出しはかえって地域の飲食店の妨げ になり、また、自立ではなく依存を促進してしまいます。いまは新しいお店が続々オープンしています。この段階で無償のことをやると、現地の人の仕事を奪ってしまう。経済が回らなくなってしまいます。今はそういう微妙な時期。その一方で、「ボランティアは無償であるべきだ」という方もいらっしゃるので。自立支援のあり方、それは今、すごく考えさせられるところですね。
―右腕として活動していて、何か気がついたことはありますか。
移動に困っているという声は多いのに、バスを出しても乗らない人も多いんです。なぜだろう?と掘り下げていくと、バスはあくまで「手段」であって、出る「目的」が必要なんだな、ということに気がついたんです。仕事も無くしている人も多いし、家族を亡くした人もいる。一度に色んな役割を失くしてしまっている人も多くて、やる気や生きがいを失うことによる「引きこもり傾向」があります。だから、外に出るための動機、わくわくすることが必要だなと、実感したんです。交通に困っている人と、引きこもり傾向の人に対して、何かできないかと探っています。
―どういうふうに取り組んでいこうと考えていますか。
結局、ただ交通を出すだけでは意味が無いんです。「目的」とセットで提案すること。たとえば自分たちが仮設住宅を回って人々に話を聞く中で、ご飯をもてなしてくれる人が多いんです。「おいしい」と褒めるとめちゃめちゃ喜ぶし、お母さんたちにとってひとつのやりがいになっているのかな、と感じます。お母さんたちの多くは「料理」のスキルがありますし、それと「やりがい」を組み合わせて、何かできないかなと考えています。朝、お母さんたちをピックアップして、店舗で料理を作ってもらって、独居やボランティアの人に配るとか。「生きがい」=「料理」というのと交通をどう絡めていくか色々とトライアルをしながら試行錯誤していくしかないかなと。
―進める中で、何かネックになっている問題はありますか。
交通事業の収入モデルをどうするのか?というところです。継続的にサービスを運行するために大事なところです。現地の運送業者さんである株式会社気仙沼観光タクシーさん、南三陸観光バス株式会社さんの二社にご協力頂いているのですが、岐阜の株式会社コミュニティタクシーさんにもノウハウ移転でご協力頂けることになり、今、車の手配を気仙沼観光タクシーの方にご協力頂いていて、やっとリソースが揃ってきたところ。南三陸観光バスの方にもバスの空き時間を使ってトライアルをして頂くなど、トライアンドエラーでやっていきます。
―これから冬に向けて、寒さや雪などいろいろ大変そうですね。
交通面も問題ですね。ただ、だいぶ車を買われた人々が多いです。なぜなら、車がないと何もできない地域だから、多くの人が義援金で車を入手しているんです。今、本当に動けない人はだんだん少なくなってきていますね。動ける人は仕事か何かでだいたい車ででかけている。ただ…。
―ただ?
そうした一方で移動弱者が取り残されているという実情があります。タクシーで病院まで往復7000円くらい掛けて通院してる人も多く、通院の回数を減らしている人もいます。バスは路線が決まってるし本数も限られていて…。バスとタクシーのあいのこの乗合型のコミュニティタクシーのような自由度のあるものが求められているかなと思います。冬になるともっと移動弱者が増えます。積雪などで自転車などは使えなくなるので、交通の部分を今こそやっていかなければならない。雪なんてあと1ヶ月すれば積もってしまうでしょうから、焦っています。
―深刻ですね。
車が運転できない子供やお年寄りは家にいるから、特にそういったお年寄りはこもりがちな傾向にあります。そうすると自然と自分と向き合う時間が多くなってしまい、気持ちが塞ぎこんでしまうことが多い。1人だけでは「役割」が無いので。やはり外にでることが大事ですね。つまり、コミュニティの中では自分一人ではないから、役割を見つけることができると思うんです。これを発見したとき、やりがい、生きがいが生まれるのではないか。他人と触れることが重要だと僕は思うんですよね。
―右腕としては、期間は一年間と決めているのですか。
はい。でも、僕は右腕が終わっても、二年くらいは居るつもりです。絶対、一年では終わらないから。収入など問題は無いわけではないですが…。やるべきことをやるのみだと思っています。
―今後右腕として何がしたいか、ビジョンなどはありますか。
そうですね。とにかく交通事業を早く完成させたい。結構今はまだ曖昧なプランが多いから、リメイクしながら作業を進めていかなければならない。正直、「これだ」と思えるようなプランをださなきゃと少し焦っています。
―最後に、右腕派遣やボランティアを考えている方に向けて、なにか伝えたいことはありますか。
もし少しでも力になりたいと思ったら、やってみてほしいと思います。スキルがなくても、そばにいて話を聞いてあげるだけで、救われる人がいます。本当に、長期的にいられる人が必要とされています。前後を知らないと、その人の変化が分からないこともあるから。報道は少なくても、東北の復興はまだまだ何十年も月日がかかります。3県またがっていてエリアも広いです。さらに、過疎化とか高齢化の問題が一気に加速してしまった印象があります。ここにくれば、今しかできないことがあります。二年後に行っても違うじゃないですか。毎日景色が変わっていく。是非、一歩踏み出して欲しいな。
―どうもありがとうございました。
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・(1):通院・通学…被災地の生活の足をつくりたい
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