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特集記事 便利になると困る?被災地の入り組んだ現実

リーダーがビジョンを語る5765viewsshares2011.08.05

便利になると困る?被災地の入り組んだ現実

被災地の生活の足をつくろう!――仮設住宅やボランティアセンター、病院などをバスでぐるぐるまわって被災地を応援しようとしている、「ぐるぐる応援団」というコミュニティバス運行プロジェクトがあります。アセスメントを通して新たな課題に気づき、プロジェクトの方向転換を考えているという、代表の鹿島美織さんにお話を伺いました。【コミュニティバス運行プロジェクト・鹿島美織(2)】

 

 

前のインタビューから1ヶ月ほどたって、プロジェクトはどういうふうに進んでいますか。

テスト運行を何度かしてみた結果、高齢者の方たちの行動パターンが随分想定と違うなと思いました。あとは、それぞれの避難所でフェーズによって足の状況ってずいぶん変わる。お店との位置関係や距離とか、行政がどのくらいしっかりしているかとか、いろんな変動要因があるんですね。女川や雄勝は、かなり壊滅的な地域です。町ごと流されていて、買い物も近いところで歩いて40分のセブンイレブンとか、バスで30分乗ってどこかへ行かないといけない。そんなふうに被害が大きい地域を知っていたんですけど、現実はそういう地域のほうが行政も含めて市民の足についてケアをしていた。

―不便な人は、そこまで多くなかった?

仮設に住んでいる人たちは、自ら足を確保できないと住めないのを知った上で住んでいるので、ある程度足を確保している人たちが現実では多くて。そうじゃない人たちはそこには住めなかったんですね。で、女川とか雄勝って、子どもたちのスクールバスが結構しっかり出ているエリアなんですよ。で、「なんだ、行けるじゃん」と正直思ったの。高齢者の人たちで案外寝たきりの方たちも少なくて。だから、家に閉じこもりっきりで杖ついて買い物なんていけません、という人が、思った以上に雄勝とか女川の方では見つからなかったんです。「そうかあ、ちょっとここは考え方を変えなきゃいけないのかな」と思いました。

―想定と、ずいぶん違ったんですね。

違いました。ここ数日間は石巻の市街地でアセスメントをしています。すると石巻では中心部から近いのに、むしろ足に困っている人たちがより多いことに気づくんです。たとえば、7月に2回しか学校に行ってない子どもたちがいます。歩くと徒歩で2時間かかるし、スクールバスも出てなくて。親が流されちゃっているので車は使えなくて、タクシーで行くしかない。だから、経済状況的に通えませんということで、義務教育が受けられない。雄勝なんかより距離はずっと近いんですけど…。リアルな現実を実感して、驚いている状況です。いろいろなことが入り組んでいます。

―いろいろ入り組んでいる。

実際バスのおじいさんおばあさんを見ていたら、結構元気なんだけど、やることがなさそうにしていたり、別の課題にも気づいたんです。避難所で、実際会って話を聞くと、買い物に困っていないわけじゃないんですよ。ただ、助けられるのをいやがる人たちがいて、たとえば「実は本当に困ってはいるんだけど、買い物バスに乗りたくない」とか…。「なんでやねん!困ってるって言ったやん!」と思うじゃないですか?

―うんうん。

よくよく仲良くなって話を聞いていくと、子供さんたちが石巻とか仙台とかに住んでいて、足がないのを知っているから週に1回とか見に来てくれるんですって。それが便利になっちゃうと見に来てくれないんですよ。そうはっきりは言わないんですけど、「娘が来るから、それを待ちたい」みたいなね。買い物に行けちゃう状況になると、かえって彼らのメリットが下がるという状況になっている。

―なるほど…。それは難しい問題ですね。

買い物とかの活動や通院って、本当にできなくて困っている人もいる。ただ、そこそこ活動できる人にとっては日常の生活を楽しむための手段でもあるということを実感しました。ただ単に「移動しなきゃ」っていうよりは、生活行動をするための移動で。特に、高齢者の方たちってやることがそんなにいっぱいあるわけじゃないんですよ。平淡な毎日の中で、移動するってことが大事なイベントで。要は楽しむために買い物って行っている。特に買うものがないときもふらっとスーパーに行くみたいなことを今までしていたけど、それができなくなっちゃって困っている。そういう人たちが多いんですよね。

 

 

―そういう方たちは、今どうされているんですか。

仮設のまわりを朝の6時とか7時からうろうろ散歩しているんですけど、1日やることがなくて、ぼーっとしているような形になっています。もとからその人たちがそうだったかって言うと、そうではない。近くに知り合いのおじいちゃんおばあちゃんがいて、それなりに時間を過ごしていたりしていたんですよね。買い物で気晴らしをしていたりとか。あとは水産業の人たちが多いので、70歳ってまだ現役だったりするんですよ。遠洋漁業はできないけど、ちょこちょこと手元の船のまわりで漁業をやって、午前中だけ働いてそのあとお昼寝をするみたいなライフスタイルを送っていたのが崩れて。やることをなくして呆然としている人とか。連れ合いをなくしてご飯を作る気力がないおばあちゃんとか。そういう人たちに、話をするなかで出会っていったんですね。

―あたりまえだった生活がくずれてしまったんですね。

そうですね。私の結論としては、もちろん移動手段は大事だと。ただ、移動って物理的なコストっていうよりは、生活をいかに平淡じゃなく楽しむか、というものでもあるんです。高齢者にとっては、若い人達とはまた違う価値がある点に注目しています。7月はEdgeの社会起業家支援の合宿に参加したのですが、そういった現状や課題について、メンターについてくださった田村太郎さんとディスカッションして。「どうしようか、どうしようか」と話していく中で、違うことをしようと。

―違うこと、とは。

バス1回出すとだいたい1日5万とかかかるんですよ。何回かバスを出すと、せっかく集めた支援金もあっというまに使っちゃう。移動のコストをまかなうためにも、移動だけしたら終わりというのではないことをしたいと。移動って、要は人生の活動のやりがいとか、人に会いに行くとか、そういうコミュニケーション行動だと理解すると、やるべきことが変わってくる。例えば通院にしても、通院がリアルに必要な人ももちろんいるけれど、話を聞くとそこまで病気じゃない人も多いんですよ、正直。なんか誰かに会いに病院にいくみたいな感じで。いわゆるよく笑い話である、1日診療所に来ないと「あー、あのおばあちゃんどうしたんだろう、病気かねえ」みたいな(笑)。

―コミュニケーションスペースになっているんですね。

そういうのが笑い話っていうか、結構いっぱい日本では起こっていて、「本当に痛くてどうしようもない」ってことで通院というよりは、人に会いに行くという生活行動の中の一種なんですね。病院をあまりそういうのに使われても、国の医療費もかさんで問題になるし、診療所の先生も困るところもある。だから、移動の中で人生楽しむようなやりがいも含めてやっていこうと。で、なぜ移動の手段がないかっていうと、移動するときのコストがあわないから困っているんですよね。バスは不便で本数がないし、好きなところに行けない。タクシーは高い。コミュニケーションの問題とコストの問題っていう2つがあって、それに対してどうアプローチしていこうかなと。

―具体的には、たとえばどんなことを考えていますか?

たとえば、朝おじいちゃんおばあちゃんをバスとかでピックアップして、畑でちょっと作業してもらって、収穫して、お弁当つくって、そのお弁当を他の仮設住宅に配ったり。そういう活動をしてもらって、あとはオンデマンド型で自由にバス使ってもらうとか、そういう形式を考えています。要は働くことになるんですけど、まるまる1日働くんじゃなくて、週1回1時間半とか人と顔をあわせて作業するみたいなことを希望者だけやってもらって、それによって移動のコストが出るような形にしていくとまわるのではないかなあと。仕事をちょっと渡して、やりがいを渡して、移動のコストもでて。そんな形でぐるっと一周する仕組みにできないかなって。今はその方向に動いていこうと、大きな方向転換をしています。

(続く)

 

■前編はこちら:通院・通学…被災地の生活の足をつくりたい【コミュニティバス運行プロジェクト・鹿島美織(1)】

■右腕求人情報:コミュニティバス運行プロジェクト

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