リーダーがビジョンを語る
ドラミングで、仮設住宅に笑顔が生まれる
一緒に太鼓をたたく事で“元気が出る”“隣の人と仲良くなれる”。そんなワクワクするドラミングプログラムを、宮城県を中心に毎月20回以上行うのがドラムカフェジャパン。南アフリカ共和国発祥のドラムカフェを仙台を中心にコミュニティビルディングやメンタルケアに活用しようとしている。仮設住宅でのセッション後に代表の星山さんにお話を伺った。【ドラミングを通じたコミュニティビルディングプロジェクト・星山真理子】
―ドラムカフェをはじめたきっかけを教えていただけますか。
ドラムストラックという、観客参加型のドラムのパフォーマンスがあるんです。それは南アフリカのドラムカフェ本社が持っている興業で、日本でも全国ツアーがあるんですよ。以前、仙台公演の通訳をした時にオーナーに会って、ドラムカフェをやらないか?と言われたんですよ。何も分からずに翌月に南アフリカに行って皆で太鼓を叩いたら、今の日本に必要なものだ!と思って契約書にサインをしてしまいました。
―なぜ必要だと思ったんですか。
今の日本は社会生活において、人々の繋がりが稀薄になっているのではないかと思い、ドラミンングのツールを通じて地域社会や教育現場に絆を取り戻す事が出来ればとおもったんですよね。また、子供からお年寄りの方達が、これをやったらもっと楽しくなり、ストレスを軽減する事が出来るのではと。例えば、日本はこんなに恵まれている国なのに自殺者数が多かったりするけど、これを皆でやったらいじめとか色々改善されるんじゃないかと思ったんですよね。
―なるほど。
ちょうど一昨年、南アフリカ共和国で、サッカーのW杯が開催されました。それで、日本でもワールドカップ関係の仕事が頂けるのではないかなっと思い、アーティストをヨハネスブルクから2人呼びました。ワールドカップ関係の仕事も幾つかやらせて頂きましたが、継続的に仕事がなく、スタッフもいない中でしばらくはぼちぼちやっていたんですけど、暫く赤字で大変でした。誰も聞いた事無かったですし。元々南アフリカ共和国ってアパルトヘイトで白人と黒人の差別が酷かったんですよね。でも、ドラムが皆を一つにしたっていう話を聞いて、すごい!って思ったんです。ドラムカフェもアパルトヘイト撤廃後に設立されて、南アフリカ共和国の殆どの企業のコーポレートプログラムで導入されたっていう実績があるんですよ。
―やってらっしゃるのは、「カフェ」なんですか。
よく、実際にカフェをやっていると間違われるのですが、そうではなくて、カフェに集うように年齢や性別や人種関係なく気軽にドラミングを楽しんでもらいたい、という想いで、こういう名前にしたと聞いています。
―プロジェクトをはじめた当時はどんな感じだったんですか。
震災直後は音楽なんてやっている余裕はなくて、生きるのに精一杯だったんですよね。アーティストたちも情報が把握できずに、不安な気持ちから「すぐに帰りたい」と言っていました。色々な情報が錯綜していましたし、そこで彼らを一旦帰しました。「暫くこれはできなくなってしまうのかなぁ」なんて思いながら。
―なるほど。
その後は、スタッフと瓦礫撤去や炊き出しのボランティアをしていました。その時に、被災をしている皆様が避難所で精神的に苦しい状況である事を聞き、ドラムを叩く事で、ストレスを発散し、少しでも多くの時間を笑顔で過ごしてもらいたいと想い、5月頃に“ニコニコスマイルプロジェクト”を立ち上げました。アーティストを再び呼び、3カ月で60か所以上まわりました。そして、私たちのことを聞きつけて声を掛けてくれたのが、NGOのPlan Japanでした。私たちの活動もちょうど一区切りついた、昨年9月から今年の3月まで一緒にやらせて頂いていました。
―今はどれくらいの頻度で活動しているんですか。
1カ月20か所以上まわっています。通常はファシリテーター、バックアップ演奏者の3人でドラムセッションをやっていますが、人数が多い学校では、アーティストを4人に増やし活動しています。仮設住宅の集会所では3人でやっています。
―社員さんは仙台にいらっしゃるんですか。
今は日本人が私含め3人で、アーティストが必要な時にヨハネスブルクの本社から2人呼んでいます。大体3カ月毎にアーティストは変わっています。もう少し長いビザを取得しようと思えばできるんですけど、ホームシックになったりするので、航空券代がちょっと負担にはなるんですけど、長くいることでモチベーションが下がるよりは、1週間でも帰ってもらって、また元気に戻ってくれた方がいいんですよ。
―具体的な今の活動を教えてもらえますか。
昨年の9~12月は各地の小中学校・幼稚園や児童館、あとはショッピングセンター等で活動をしていました。今年の1~3月は、仮設住宅や被災地の小中高生をターゲットを絞って活動しています。だんだん分かってきたのは、被災地の中高生に対しての支援が少ないんですよね。。中高のカリキュラムを考慮して、音楽や英語での授業での活用を提案したら、今は予約が入るようになりました。
―授業にも活用できるんですね。
国際文化交流として捉えて頂けたり、中学高校共に大変喜んで頂き、毎年来てほしいという声が上がるくらいです。あとは仮設住宅を中心にやっていますね。元々、Plan Japanは発展途上国の子供の支援が中心の団体なんですけど、今回は仮設住宅に出向いて、コミュニティ再生のお手伝いをしようということで一緒に活動しているんです。
―対象が幅広いんですね。
叩く行為を真似するだけなので、3歳以上なら大丈夫です。皆でやるのが楽しいんですよ。参加することがこれからすごく大事になると思うんです。お年寄りの方ってどちらかというと、見てるだけなんですが、セッション終了の時は、楽しそうにジェンベを叩いています。おかげさまで3月末まではスケジュールが埋まっていますよ。
—そこまでは決まっているんですよね。
はい。1月10日から3月31日までで、64箇所の予約が入っております。4月以降も活動を継続出来る様、具体的に検討しているところです。これからが本当の支援が必要になると思うので、目標を決めて、活動資金を集めたり、もっとフォローをしながらできないかなと思っているんです。
―もっと、とは。
例えば今まで行ったところにもう1回行くとか。また、医療機関の方とも連携をして活動を出来ればと考えています。
―そういう新しいことのサポートに右腕が必要なのですね。
今後どういう形でやっていけるかを一緒に企画をしながらやってくれる方を募集しています。毎日のように色んな所にいって、結構な距離を朝から晩まで動いているので、その間に色んな打ち合わせをしたり、結構いっぱいいっぱいなんですよ。まぁ忙しいのを理由にしては良くないんですけど。
あとはずっとやっていきたいと思うんですね。これだけ皆さんに喜んでもらえるので、必要とされているプログラムだと思っています。
―長く続けるのは大変ですよね。
ゴールが見えないと、私達も走り続けられないなって思うんです。そしてまた、長く活動をするには経費もかかりますので、ファンドレイジングもしなければいけないですし、そういう事も含めて計画をしないといけないと思っています。
―何かしたいっていう方はいると思うんですけど、短い期間だけ入るのでもいいのですか。
ある程度、長期間ベースになるプランを一緒につくって頂ける方に来て頂きたいなと思っています。
―なるほど。
東北の人の気質もあって、みなさん「自分より他の人が大変だから、大丈夫」って言うんです。だから本音を引き出すのは難しいんですよね。でも、ドラムの後は気持ちもリラックスしているので、ワークショップのアイスブレークとして使って頂くとか、色んな使い方があると思うんです。
―そうですよね。
今後の2~3年で復興も進み、支援の形も変わってくると思うんですよね。今でも、色んなところ行くと「来てくれるだけで嬉しい」って言われる時もあれば、支援があまり行き届いていないところもあります。発信力のある地域には全世界からたくさんの応援が来ているんですけどね。
―ニーズをちゃんと調べて伝えなきゃいけない。
そうですね。あとは、効果をもっとうまく説明できるようにしたいんです。「何でドラムやるの?」って皆分からないじゃないですか。ただ単にエンターテイメントの一つだと、ほとんどの方が思っているかもしれない。その良さをもっと説明したいですね。英語ではドラムの効果に関する色んな本が出されているんですけど、日本語ではあまりなくて。
―ちなみに、毎回お茶会をしているんですよね。
そうですね。それもセッションの一部で、アーティストも終わったら、参加者の皆さんの中に入ってお茶を頂いています。学校だと子ども達がアーティストも周りに寄ってきて、中々離れないんですよ。
―良いですね。
これからは復興関連の活動をメインにしながら、ドラムカフェの仕事も頑張っていかなければと思っております。両立出来る様、頑張ります。
―1回いくらくらいかかるんですか。
通常、私達が企業でチームビルディングとしてやらせて頂いてるものは、参加人数によっても変わりますが、20万円〜になります。学校とか非営利団体からの依頼は半額という設定にはなっておりますが、日程が合えば予算内でやらせて頂く事もよくあります。
—ドラムカフェの将来の目標は?
将来は、色んな方が集う事が出来るドラムカフェを作りたいなって。毎日演奏しなくても、皆が集まるスペースとして使ってもらったり、定期的にドラムカフェのセッションを行ったり。これからは、若い人を中心に街を作っていかなければならないですよね。支援も大事ですけど、そこに住む人が中心になってやっていかなければならない。そういう時にこそ、皆が助け合って生きていくことが大事だと思うので、それを手助けできるようにしていかなきゃいけないなって思うんです。
―そうですね。ありがとうございました。また伺わせてください。
聞き手:玉川努(ETIC.スタッフ)/文:加納実久(ボランティアライター)
※本インタビューは2012年1月末に行ったものです
■右腕募集情報:ドラミングを通じたコミュニティビルディングプロジェクト(募集は終了しています)