リーダーがビジョンを語る
まちづくりの暖簾分け
震災以降、「ヒトの誘致」をテーマに様々なプロジェクトを実施する石巻2.0。東日本大震災からの復興のみならず、疲弊する地方都市の再生にも活用可能な新たなまちづくりのスタイルを全国へ送り出そうとしている。その代表の一人である松村豪太さんにこれまでと、その想いを伺った。【一般社団法人石巻2.0 代表理事 松村豪太(1)】
-まず、現在の活動を教えていただけますか?
石巻2.0という団体の代表理事をしていて、プロジェクトの一つの復興バーではマスターを、地域FMで放送している2.0のラジオ番組ではパーソナリティーをしています。
―幅が広そうな活動ですね。
スタート時点からコアな部分は変わっていないんですけどね。元々、石巻はコミュニティの希薄化、経済の空洞化、それに高齢化など多くの問題を抱えていた所で、その状態が今回多くの犠牲を払ってリセットされてしまったような状態なんです。だから、ポジティブにその状況を活かして、街を新しく作っていこうという想いでやってきました。
―具体的には?
2011年7月のSTAND UP WEEKというお祭りからスタートして、継続的にいろんなプロジェクトや、イベントをしてきました。その中で得たことを手掛かりに“ヒトの誘致”というキーワードで色々進めています。もちろん自分達でもアイデアを発信するのですが、それ以上に地元の方をはじめ、東京を中心とした日本中、世界中の知見と職能にあふれた多くの方が主体的に関わってくれるからこそ、これだけ面白い事がスピードを持ってやれていると思うんですね。だから、外から来る方のハードルを出来るだけ低くすることが大事だなと感じています。
―ハードルを低くする。
更にいえば、単にハードルが低いだけじゃなくて街を歩いて楽しくなるような仕掛けをどんどんやっていけばおもしろい方がどんどん訪れて、アイデアの種を落としてくれるだろうというのが我々の想いです。その装置としてこのIRORI(誰もが利用できるビジネスカフェであり、併設される石巻工房および石巻2.0のインフォメーションセンター)というスペースもあります。国籍、職業、年齢も異なる多くの方々の手で、去年の年末にかけて整備されました。
-本当にいろんな人の手で出来ているんですね。
そうですね。ここはオープンシェアオフィスであり、いろんなイベントやセミナーを発信するスペースなんです。1日平均20~30名くらいの方が訪れて下さっています。インターネットも、携帯電話の充電も自由にしていただけるんです。
―すごい!
ノートパソコンを広げて、自由に自分の仕事をしてくださいと座ってもらう。そこで我々は、テーブルに座った方たちが出来るだけ繋がってもらえるような運営を心掛けるんです。そうすると、「じゃあ今度一緒にこういうプロジェクトしましょう」という化学反応が実際に起きるんです。
―輪が広がりますね。
はい。そういうこともヒトの誘致ですし、あとは復興民泊もそうですね。石巻の古い旅館は大体川沿いに並んでいたので、半分以上が被災して廃業を決めた方もいらっしゃいます。残っている宿泊施設は、工事業者がまとめて長期でおさえているので、関心を持って石巻にボランティアとか見学に来たいというニーズは多くあるのに、受け入れられないんですよね。
―確かに、いつも宿探しは苦労します。
それって、とても勿体ないことだと思うんですね。一方で、震災前から商店街はシャッター通りで、空室を抱えていた。なので、コストをかけずにそれを運用したいという地元のニーズもきっとあるだろうなと思ったんです。そういうニーズと泊まりたいというニーズをマッチングさせればハッピーなんじゃないかな?という所から動き出したのが復興民泊というプロジェクトなんです。
更に言えば、夜のコミュニティスペースとして復興バーというのが開かれた形で、繋がれる場所なんです。そんな感じで、基本的に“ヒトの誘致”というところでアイデアを出し続けていますね。
―ヒトの誘致ですか。
はい。それをより進めていこうと、今朝もグーグルハングアウトで東京と石巻をつないでミーティングをしていました。2.0のメンバーは東京と石巻にいるので、顔を見ながら話せるツールや、SNSといったITツールを活かしつつ、多様な能力を巻き込んで前に進んでいる感じですね。もちろん結構な頻度で行き来もしていますけどね。
-それぞれの拠点からオンラインで関わるといったように、新しい方法もスムーズに導入されているのですね。
少なくとも石巻2.0にはそういうリテラシーに富んだ人が元々多いのかもしれません。でも、それだけではなく、朝方5時くらいには呉服屋の奥さんがtwitterでつぶやいていますし、この周辺には年齢を問わずSNSを使っている方がちょこちょこいるんですよ。こういう震災後に起きたITの活用といった新しい動きも、積極的に活かしたいなと思います。
―なんだか、新しい未来の商店街になりそうですね。
あとは、新しいライフスタイルも確実に芽生えていると思うんです。隣にはアーティストインレジデンスがあるし、復興バーの上ではボランティア団体のリーダーの方が部屋を手づくりで改修して仲間とシェアしながら住んでみえます。
だから、被災地のこの町で起きている事象を、他の疲弊した地方都市や地方の商店に紹介したいんですよね。だから、2.0的アプローチの暖簾分けといってあちこちで提案しているんです。日本では高度経済成長が終わり、バブル崩壊してやる事やりつくした感じがあって、大学を出て就職しても結局数年で仕事を辞めてしまったりする若者とか。その中で、あまりポジティブじゃないキャリアを転々として、キャリアダウンしていくようなことが起きていたり、ニートという存在が生まれたりしていますよね。それって、やる事が無いからだと思うんです。
その一方で、石巻はやる事だらけで、それぞれのスキルを生かしてやれることがたくさんあるんですよね。自分の力を発揮できる場、尚且つ単に外から訪れて支援するんじゃなくて、余計なコストをかけずに、楽しく住みながら一緒にやっていくっていうスタイルが可能なんです。
後篇はこちらから!
●石巻2.0 http://ishinomaki2.com/
聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:加納実久(ボランティアライター)