地方創生のヒントin東北
「政府じゃなく、民間だからできる復興がある」右腕プログラム選考会より
2014年5月31日、この夏からの「右腕」を募集する地元リーダー(NPOリーダーや企業経営者)の選考会を宮城県仙台市で開催。選考会終了後に、各地で地域活性を担っている選考委員のみなさんの感想をうかがいました。今後の地域のあり方を考える上で貴重な視点が多く、その模様をダイジェストでお届けしたいと思います。
選考会の様子。右から鈴木さん、江良さん、ETIC.宮城
そもそも、「右腕」とは?
「右腕」とは、被災地で新たな価値創出や課題解決に取り組むプロジェクトで原則1年間活動する、主に20代・30代の若手ビジネスパーソンのことを指します。ETIC.では「右腕派遣プログラム」として、これまで100を超える現地プロジェクトへ189名を派遣しています。
被災地の復興も、緊急フェーズから復興フェーズへと変わり、これまで以上にソフト面の整備が重要となってくる中、今回から右腕派遣プログラムの目的に、地域内のエネルギー循環、高齢化に向けた地域医療・福祉の取り組み、豊かな素材を活かした六次産業化などの「スタートアップの芽を加速させていく」ことを打ち出し、その為に右腕派遣プログラムを活用したいというリーダーから、プロジェクトを募りました。
この日の選考会では、「持続可能性を見据えた事業であるか」「希望や新しい価値を創出しようとする事業であるか」などの視点で、各団体のリーダーからのプレゼンを受け、右腕派遣先プロジェクトを決定しました。
選考委員:
・末村祐子氏(復興庁 岩手復興局復興推進官。大阪経済大学客員教授。企業勤務後に留学し、NGOへ転身。阪神淡路大震災で開発援助の手法を応用して復興支援に携わり、その後、公共政策の研究者として自治体を中心に行政改革に尽力。東日本大震災後、4月には現地入りし、行革の経験を活かし岩手県上閉伊郡大槌町復興局特別顧問・参与を務め現職。)
・鈴木祐司氏(一般財団法人地域創造基金みやぎ 常務理事/事務局長。1977年生まれ。米国公益財団 国際青少年育成財団 日本事務局における助成業務の企画統括、大妻女子大学での非常勤講師、商社勤務などをへて2011年4月より仙台入り。つなプロ(被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト)のマネージャーを経て、復興と復興にとどまらないまちづくりのための資金循環をつくるべく、財団設立に参画、現職。)
・牧大介氏(株式会社西粟倉・森の学校 代表取締役。1974年京都府生まれ。京都大大学院農学研究科修了。農山漁村専門のコンサルタントとして各地で新規事業の企画・プロデュースを手掛けてきた。09年10月に株式会社西粟倉・森の学校を設立し、現職。)
・江良慶介氏(一般社団法人APバンク 復興支援担当。1976年生まれ。外資系IT企業に5 年間勤務の後、バックパッカーやフリーターなどを経て、2005年にクルックへ入社。3.11以降、「東北コットンプロジェクト」を立ち上げ、事務局代表を務める。2012年3月より、ap bankの復興支援担当を兼務中。)
・宮城治男(NPO法人ETIC.代表理事。1972年徳島県生まれ。93年、早稲田大学在学中に、学生起業家の全国ネットワーク「ETIC.学生アントレプレナー連絡会議」を創設。2000年にNPO法人化、代表理事に就任。)
司会:
・山内幸治(NPO法人ETIC.理事・事業統括ディレクター。1976年生まれ。1997年にETIC.に参画し、長期実践型インターンシップを事業化。早稲田大学やNEC、経済産業省などさまざまな機関と連携を務める。震災後に「震災復興リーダー支援プロジェク ト」を発足し、統括を担う。)
地域には、核になる経営者がいる
山内:全国の様々な事例を見てこられた立場で、今回の選考会でご覧になった東北のプロジェクトにどのような感想を持たれましたか?
牧:海が近い地域なので、地元の経営者の方々などは、ある程度のまとまった資本があって、事業を仕掛けられる人も多いなという印象を持ちました。私が関わる林業でも、栄えている地域には海側の資本が入っていることが多い。そうした力のある経営者たちが、震災のあと、持っているすべてを地域の未来のために投入している姿に触れることができました。そこまでのリスクを負う必要がなさそうな人が、すべてを投げ出して勝負に出ている。「たくさんのものを失った。でも自分にはまだ命が残っている。その命をしっかり使い切る。」そういう覚悟をもった人たちが東北にはたくさんいるんだと改めて感じました。核になる経営者が各地にいて、それぞれ立ち上がっていくように見えて魅力的です。どのプロジェクトも化ける可能性を秘めていますし、自分が20代なら関わってみたい事業が多かったです。自分で何か切り開いていく気持ちのある人たちが右腕として入って、伸びていってほしいなと思います。
宮城:本日のプレゼンの中で「東北発の新しいビジネス」が立ち上がっていく期待感のようなものが持てましたか?ローカルベンチャーを創ってきた実績のある方としてのご意見を聞かせてください。
牧:語弊があるかもしれないが、3.11がポジティブに影響しており、停滞するばかりだった地域で新たな人材が発掘されているということに可能性を感じます。どの地域にも地域ならではの魅力や人材はいるのかもしれないが、こういう形で多数出てくることはそんなにない。だからこそ、ETIC.やAPバンクが苦労しながらそういう人材を見つけ支援しているんだなと感じました。
末村:自然災害は、ものも人の命も容赦なく奪ってしまう。大事な何かを失う、というような深い悲しみの時間を経て、それでも、明日に向かって頑張る人を見ると、官や民の垣根を越え、それぞれの役割を果たし切って力になろう、と思うものです。今回プレゼンされたリーダーの皆様には、従来の枠を超え工夫を凝らした取り組みをされ、人を引き付ける魅力のある方が多くおられる、という印象を受けました。既存領域で既に高い実績を挙げた方が新たな領域に挑戦されるような取り組みにも、進化を止めない、というメッセージを頂き、勇気づけられます。
「民」だからこその復興への期待
宮城:右腕派遣プログラムに期待する部分、加速してほしい部分は?
末村:あくまで個人の感想としてですが、地域に根差しつつ日本全体に解決策や問題提起・情報を発信していただけるような、未来に向けた意志ある「人や事業」を掘り起こして頂けているのが右腕の強みのように思います。
ハードの整備が整い、それを基盤に、復興の中でもまさに「民」の領域ともいえる人々の生活やなりわいの再生がこれから本格的になっていく。今日ここに集まられたリーダーは、これからソフトの牽引役を果たす方々ですね。どんな大規模な自然災害からの復興も一人一人の「人」が原点だと思うと、地域の立役者と右腕との出会いで取り組みが進み、被災地と都市の相互理解が深まることや取り組みのイノベーションが生まれることも期待しています。
選考会の様子。右から牧さん、末村さん
未来への橋を創っていること
山内:鈴木さんは、東北を拠点とするコミュニティ財団として、たくさんの復興支援のプロジェクトに助成をされてきましたが、今日のプレゼンテーションについて、どのような感想をお持ちでしょうか。
鈴木:いまの被災地の直面している課題がいろんな形で出てきていますね。人の問題、エネルギーの問題、ビジネスも大規模に仕掛けていくのか、相対的に小規模、あるいは地域ごとに開発するのか、地域で伝統を今の時代や状況に合うように捉えなおしていくのか。時代に逆行する部分もありつつ、価値の再定義という部分もあります。
いくつかのプロジェクトで取り組んでいる「手仕事」は、これまでの長い歴史の中で機械化、グローバル化する中で国内生産は衰退していった経緯があります。今回提案のあった、「あえて技術のレベルを下げる」ことで現代のニーズに合致した商品を作る、価値を定義するという案件は非常に象徴的だが、そこに可能性を見出して参加する仕組みを作るなど、まだまだ人の力って信じられるし可能性がある。
ETIC.やAPバンクの皆さんで取り組んでいる「右腕派遣プログラム」は、橋を創っていることだと思う。橋がなければ、お金のある人、自分で資源を持っている人だけしか急流を渡ることができません。しかし橋があることで、自己資源の多少に関わらず、モノやアイデア等の行き来が容易になり、より広範な人が現在から未来をつくる過程に参画できる。
右腕やリーダーが取り組んでいるのは、復興という文脈だけではない。まさに日本の直面している課題そのもの。僕らの世代だと、いま東北に目を向けるのは復興の推進としてという部分が第一だが、若者が自分たちの未来を自分たちの手で作ることだと思うと別な意味も出てくる。そういう意味で、それぞれの事業に発展してほしい。新たな扉が開かれることは、本当にいいなと思いますし、これだけ未来を作っていくための材料があって、必要とされている場も少ないと思います。
山内:最後に、右腕派遣プログラムを協働で実施いただいているAPバンク江良さんからも、今回の選考会を通じて感じられたことをお聞かせ下さい。
江良:今回の選考は、面白くもあり大変でもありました。それだけ、魅力的なプロジェクトが増えてきているのだと思います。時間の経過とともに、「復興」という文脈だけでは、色々なサポートを受けにくくなってきています。しかし、今回応募いただいたような魅力あるプロジェクトが立ち上がってくると、鈴木さんがおっしゃるように、未来への「希望」を作り出していくことができると感じます。APバンクとしても、みなさんやETIC.と一緒に、そうした未来につながる事業づくりを応援していきたいと思います。