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特集記事 新たな価値観が問われる社会とは(2)

リーダーがビジョンを語る4271viewsshares2013.04.08

新たな価値観が問われる社会とは(2)

ふくしま連携復興センターの事務局として福島の復興に取り組む鎌田千瑛美さん。県内と県外の温度差や意識差を埋めるため、震災後、出身地である福島に戻ることを決意しました。前編に続き、今までになかった価値観で繋がる新しい仲間との関わりについて、伺いました。【ふくしま連携復興センター事務局長・鎌田千瑛美(2)】

―なるほど。話は変わりますが、右腕の募集もされているんですよね。現在の鎌田さんの活動の中で、右腕としてはどんなことが求められるんですか?

今は情報のコーディネートのためのネットワークを作っていて、右腕の方々には、現段階では細かいところまでフォローできていないこのネットワークを、丁寧に繋ぎ合わせていく役割を期待しています。ここに住む人々に残るような仕組みを作りたいので、出来れば福島出身の方で、長期的に二人三脚でやっていけるような方がいいですね。最終的に地元に還元されていくのであれば、うちの組織に所属しなくても、自由にステップアップの場として活用してもらいたいです。
そういうネットワークをつくるためには、忍耐力をもって「何がいま本当に必要なのか」耳を傾け続ける姿勢が必要です。現場の声を聞いて受け止めるということがすごく大変なんですよ。

―現段階で、具体的にやってもらいたい仕事とかありますか?

今全域で行っている定例的な会議を、もう少し深堀りした形でワーキングチームとか分科会的なものを組み立てていきたいと思っています。個々の組織で生まれる様々な課題に必要なポジションの人たちを集めて、状況を見極めながら課題解決に向かっていくような事務局機能を担っていただくイメージですね。日々の打ち合わせの調整だったり、コーディネートだったりの運営機能として。

―なるほど。右腕ってどうですか、良い制度だと思いますか?

良い制度だと思いますよ。現状はETICさんに頼りきりですけれど、本来は地元主体で運営するべきだと思っているので、将来的にはその仕組みを担える体制を構築出来たらいいですね。これから数多く出るであろう起業家の人たちのサポートをする必要もあるんですが、内閣府が出している起業支援も、実は立ち上げ段階の支援のお金がほとんどで、登記されてからの支援はとても少ない。ふくしまの未来を担っていくリーダーたちの想いを、きちんとサポートしてあげれるような体制や繋がりづくりも大切ですよね。

―長い目で継続して関われるような。

やっぱりどんな関わり方でもいいと思うんですが、継続的に関わる必要のある話ですよね。

―いろいろなことが動いているのですね。ところで、この半年で印象的だったことって何かありますか?

日々が流れすぎていてなかなか振り返る暇もないので、なんだろう…

今までの話とはあまり関係がないんですが、田村市にある蓮笑庵という場所に衝撃を受けましたね。そこは自分自身の生き方とか暮らし方を問われるような環境で、福島の新しい価値観はここから生まれるんだろうなって直感的に感じました。「復興、復興」と言われていますけれど、結局福島は新しく生まれ変わる必要があると思うんですよ。賛否両論あると思うんですけれど、今まで通りにはいかないから。

その中で、高齢者問題しかり、子育て問題しかり、震災前からあった課題が震災を機に浮き彫りになりつつある今、日々の生き方や暮らし方を見つめなおして、新しい価値観をもつことが求められていると思うんです。この蓮笑庵って場所は、これからも大変なことはたくさんあったけれど、今も緑はきれいだし、四季折々の風を感じることはできるから、日本人が忘れかけていた生き方… 自然と共に暮らし、命をきちんと感じるような生き方を取り戻す、良い機会なんだということを思い出させてくれた場所でしたね。

―どうしてそう感じたんですか?

蓮笑庵ではすごく丁寧な暮らしがなされているんですよね。春になったら野花を飾り、夏は当たり前の暑さに対して風鈴を飾るとか。そういう暮らし方ってすごく面倒くさいんですけれど、そこに立ち返って学ぶ必要があって。震災をきっかけに心の分断が出来た状況で、同じ土地に住む人たちが大好きな福島で幸せな暮らしを営むために「自分達らしい幸せの価値観」を問われている時だと思うんです。

―今まで通りではないからこそ、本来はどうだったのかということを立ち返って考える機会のような。

そういうことが問われている日々の中で問題が生まれること自体は悪いことではないから。震災以降変わってしまった価値観に対して、それをどうやって幸せの方向に向けられるのか考える機会になりますよね。お互い理解するための第一歩にもなると思うし。
私はやっぱりもっと人と繋がりたいと思うし、言葉を交わし合いたいから、そのための場がもっと必要だと思ってる。仕事の枠を超えて、立場や役職上の関係ではなく、「あなた」と「わたし」という対個人の輪をどれくらい広げられるか。私の場合、その延長線上にたまたま仕事が成り立っているだけなんですよね。もちろん蓮笑庵だけじゃなくて、他にも自分たちの価値観を問い直す必要性を感じて動き出している人の輪が、各地で広がっているんです。

―なんとなくそういうスタンスの人って増えているように感じます。福島は特にそうなのかもしれませんね。

福島ってコミュニティが狭いからこそ、同じ価値観を持てる人たちが繋がりやすいのかもしれない。手を取り合って共に進むべき仲間が、意外と多く存在しているんです。でも、まだまだ個人と個人が繋がれる機会や思いを共有しあう場や、それらを結びつけるコーディネートの力が足りていないので、これからもっときれいに整理できたら、一本の軸のもとで前を目指す仲間と、より繋がれるようになると思うんです。

「福島ってまとまらないよね」ってよく言われるんですよ。沿岸部と内陸と、会津の方とでは、それぞれ状況や文化が全く違うけれど、違いを乗り越えてみんなで福島全体のことを考えていかないといけないですよね。「あなたのところは私も支える」というような顔の見える繋がりがすごく必要かなとは思うんです。

―それぞれ状況が違うと考え方も違うんですね。

そうです。「福島市は何も被害受けてないし」って言う人の隣で「浪江の人がまだ避難している」って話される光景が飲み屋なんかでも見られるんです。みんなある意味で被災者だけれども、共に前へ進む者同士だと思うから、同じ目線で語る必要がある。

私、ある日突然オセロの色が変わっちゃうんじゃないかなって思うんです。今は真っ黒だけれど、ある日突然白に変わっていくような感覚ですね。新たな価値観で繋がれる人たちのコミュニティが世の中を変えていくような不思議な感覚なんですけれど。

―僕自身もそうですけれど、今までは非常にマイナーな分類にいた人たちの声が、段々と世に届くようになり、実際何かが変化しているように思うんです。鎌田さんの周りでも何か兆しはありますか?

私の友人が「考えないことの方がダサい」って言ってたんです。福島の子供たちのために「こども・被災者支援法」っていう法律が設立されたんですけれど、法の中身を作るのは本来外部の人ではなく、福島の人たちが主であるべきなんですね。私の友達はそれに一生懸命取り組んでいたんですが、ある日別の友人から「なんでそんなことやっちゃってんの?」って言われたそうなんですね。震災前まではすごく仲良くしていたのに、震災を機に価値観が変わった彼女にとって、今まで通りの暮らし方をしていた子たちとのギャップがすごく大きく感じられたみたいで。彼女からしたら「福島のこれからについて考えるのが当たり前だし、福島にいる限りむしろ考えない方がダサい」って考え方だったんだけれども、どうしても理解されなかった。

―前はなぜ無かったんですかね。照れくさい話だったんですかね。

真面目なことを言うのはダサい、とかね。

―なるほど。今までは周りにそういうことを話せる人がいなかったけれど、震災がきっかけになって自分が変わってしまったのかもしれない。

やっぱり地震をきっかけに、変わらないと思ってた感情がオセロのように真逆に変わっちゃったんですよね。今まで通りの「楽しけりゃいいじゃん」みたいな世の中はもう終わっていて、現実を見据えて自分にできることをきちんと考える人の方が私もかっこいいなと思いますね。

―例えば「水俣」も同じかもしれませんよね。かつては大変だったけれど、今ではすごい環境都市になっている。福島も少しずつ変化が現れてきたし、右腕に来る人にとっても良い経験になるんじゃないかなって思いますね。今まで作り上げられてきた土台があるから、これからの福島に行くことはいいかもしれない。

何もないからこそ本当になんでもできるっていう幸せがありますよね。それは他の地域でも、たとえば南相馬の人たちなんかも「いまここには何もないけれど、でもむしろそれがいいんだ」って言いながらボランティアでずっと居続けてくれているみたいですし。価値観や生き方を見つめなおす場になりますよね。今まで田舎には他人の目や地域の縛りがあって、東京のような「自分次第」の選択肢がほとんど無かったんですけれど、段々と価値観が多様化していっている感覚がありますね。

―新しいスタンスなんでしょうね。

「オシャレ大好き」みたいな女の子がこういうことに関わり始めていることにはびっくりしましたね。真面目にこれからを考えるようなことが、オセロがひっくり返るみたいに、普通に受け入れられる世の中になってきていますよね。震災前だったら絶対繋がらなかったであろうタイプの人と、新たな価値観で繋がれるようになりましたね。

聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:安井美貴子(ボランティアライター)

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