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特集記事 街の一部になって、一緒に楽しむ

リーダーがビジョンを語る5137viewsshares2013.01.28

街の一部になって、一緒に楽しむ

石巻の中心地に文化芸術の拠点「日和アートセンター」がオープンしています。毎回さまざまなアーティストが石巻に住みこんで作品を制作し、地域の人たちと交流する展覧会やワークショップを行っています。たまたま縁があって訪れたのですが、アートセンターの運営をしている立石沙織さんと、美術家の安部泰輔さんに快くお話しいただきました。(【日和アートセンター・立石沙織・安部泰輔(1)】

 

 

-立石さんはもともとこのようなお仕事をされていたのですか。

立石さん)はい、ここに来る前も横浜で同じような、アートに携わる仕事をしていました。もともとは自分で作品をつくりたいと思っていたんですが、大学で入学したのは、芸術文化学科というアートマネジメントを学ぶ学科でした。入ってみると「作品をつくる人だけじゃなくて作品と人をつなげる人が必要なんだ」ということに気づいて、しかも面白い作品をつくる人がたくさんいることを知って。だったら私がつくらなくてもいいなと、そのときに思ったんです。むしろ面白いと思った作品たちを、自分の家族や友達など身近な人に伝えたいなと思うようになりました。

-身近な人に。

立石さん)大学を卒業するときに、それまでずっと地元の静岡にいたので静岡で何かアートシーンをつくりたいと考えたんですけど、あまり静岡の外のことを知らなかったので、まずは東京とか、一番アートが集まるところで広いつながりをつくらないといけないと思ったんです。だから大学卒業後、横浜に引っ越しをして、そこを拠点に都内の文化施設で仕事をしたりしていました。そのとき横浜の黄金町エリアに、知り合いがアトリエを持っていたこともあって、結構出入りするようになりました。

-なるほど。

立石さん)大学時代から街にも興味ありましたし、街の中で何かをすることにも興味がありました。ギャラリーや美術館でも働きましたが、街の中で、受け手がすごく近い状態で作品と人をどうつなげるかということに一番興味があったんです。それで黄金町の「アートによるまちづくり」を行なっているNPO法人黄金町エリアマネジメントセンターで仕事をしたいなと思っていました。2010年の冬に一度、黄金町の一つの施設で自分が企画した展覧会を開催したことがありまして、その展示を今のNPO事務局長の山野が見てくれて、このエリアで毎年一回秋に行っている「黄金町バザール」という現代アートの展覧会のスタッフをやらないかと誘ってくれたんです。

-そうなんですね。

立石さん)私はその「黄金町バザール2011」の専属スタッフとして雇われたので、展覧会が終わったときにこれからどうしようかといろいろ考えたんですけど、そのときに石巻でのプロジェクトに声をかけてもらったんです。

-そのときには、すでに「日和アートセンター」というプロジェクトは動いていたんですね。

立石さん)はい。この組織は、2011年7月に立ち上がっています。私が所属していたNPO法人黄金町エリアマネジメントセンターと横浜市文化観光局、横浜の大学関係者の三者で実行委員会を組んでいて、石巻市役所の方などにもご協力いただいています。

実は私自身、個人的な事情もあって震災以降5月に一度石巻には来ていました。今まで東北にそれほどゆかりはなかったんですけど、震災というものに自分がどう関わっていったらいいのかというのを考えていて。そのときに山野がこういうプロジェクトを始めるというのを聞きまして、自分も何かできることがあれば関わりたいということははじめの段階で伝えていたんです。

ただそのときは石巻の人を雇用したいということでした。それなら私の出る幕ではないなと思ってそのままになっていたんです。それが今年の2月に改めてスタッフをやらないかと声をかけてもらって、ちょっと考えたんですけど、やっぱり来るしかないかなと思って、住民票を移して引っ越したというわけなんです。

-オープンしたのはいつ頃ですか。

立石さん)2012年3月23日です。2011年の12月の終わりくらいから、増田拓史さんというアーティストがここの建物改修をほとんど一人で行ないました。ここで出会った人たちにお手伝いをしてもらいながら、ここをどういうふうに使うかみたいなところを考えながら改修したんです。

-どういう「使い方」を考えていたのでしょうか。

立石さん)ここはアーティスト・イン・レジデンスという取り組みを行なっています。アーティスト・イン・レジデンスとは、アーティストを呼んでその街に滞在してもらいながら、作品を制作してもらおうというものです。ここも2階に、宿泊設備や洗濯機、お風呂、キッチンがあって、住むことができます。なぜアーティスト・イン・レジデンスにしたかというと、アーティストというちょっと変わった人たちが、街のみなさんと同じように生活することで、街の一部になっていくようにしたかったからなんです。街のみなさんにとって新しいものを見るきっかけや、自分たちの新しい生活についてちょっと別の角度から考えられるきっかけをつくれないかなと考えて。

 

 

-石巻に移り住んだことで何か印象の変化はありましたか。

立石さん)そうですね、やっぱり来る前は身構えてしまって、自分に何が出来るんだろうみたいなことを考えながら来たんですけども、来てみて感じたのは、今は被災地という特別な場所になってしまっているけど、やっぱり自分が今まで暮らしてきた場所となんら変わりはないっていうことなんです。なんだろう、同じ世界の出来事というか。

-同じ世界の出来事。

立石さん)はい。ここを遠く感じる必要もないし、特別なものでもないというか。

安部さん)自分が住み始めたからですよね。ここにいて仕事を始めたというのはそういうことで、ある意味住むことで少しずつ日常に溶け込んでいくわけだから。それはだいぶ変わるんじゃないかな。

-ああ…。溶けていってますか?

立石さん)…溶けていっていると、思いますね(笑)

安部さん)溶けた分実感することも多いと思うよね。だけど見えるものはもっとぼんやりしてきたり。だから余計言葉にしにくいと言えばしにくいんだけど。

-まだまだそういう時期かもしれないですね。

安部さん)まあでも石巻に来て住民票も移し、地元の人ともある意味密に話して、まだ短い期間だけれどもその分急激に情報量もがーっと入ってきているから。それをこれからどう咀嚼していくかでやっぱり全然変わってくると思います。この場所自体もだんだん変わってくるし、まわりもどんどん変わっていくだろうしね。

-変わってくる予感がありますか。

安部さん)今は外の人たちが意識的に来ているでしょう。だからなんというかな、ソフトな面がぐわーと入り込んでいて、ゆくゆくは「復興」というのではなく、たぶん違うものになっていくだろうから。大げさに言えば世界中の意識がここに集まっています。それから出来てくるものって今までの日本とはちょっとまた違うタイプのものになると思う。

安部さん)私もあっちこっちのミュージアムで展覧会するもこともあるし、ここと同じく商店街でやることもあるんだけど、何が違うかって言ったら、みんながかなり意識的に一つの場所に集中して何かをやろうとしているっていうところだと思う。だからクリエイティブっていう言葉が必要で。クリエイティブっていう言葉はある意味アート側の言葉じゃなくて、何かを整えたりとか、ちゃんと形を変えて出したりとか、生み出したりとか、そういうことだから。

立石さん)今はいろいろなものがなくなって更地になってしまったりする中で、街がスポンジのような状態になっていると思います。

-ああ、なるほど。

立石さん)石巻はこれからいろんなものを吸収して土台を固めていくところなのかなというのを考えていて、そのときにアートだけではだめだし、都市計画だけでもだめで。街の人達にとっていろんな選択肢があった方がいい気がしていて。その中の選択肢の一つとしてここという存在でいれたらいいと思う。ここをきっかけにいろんなことを知って、「じゃあ私たちの町だったらこういうふうな展開していきたい」というように自発的に思えたりしたら、やっぱりすごくいいなと。だから私自身もただ情報として提供するだけじゃなくて、ただ街の一部になって、一緒に楽しむみたいなことをしていきたいなって思っています。

-そうですね。みんなの意識が集まっているときに、いろいろな可能性を感じることで、こんなこともできるかもしれない!と考えるきっかけになったら面白いですよね。

 

続編はこちら:アートから生まれる商店街のつながり

 

聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/文:坂口雄人(ボランティアライター)

■日和アートセンターHP: http://hiyoriartcenter.com/


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