リーダーがビジョンを語る
東北のリーダーが語る、「右腕の役割」とは
事業者支援を軸とした就労マッチング、農業の六次産業化や雇用創出、地元の方を雇用しての仮設住宅支援等、現地でさまざまな活動に取り組んでいる3名のリーダーを招き、ダイアログを実施。右腕が担っている役割や、右腕が現地に入る意味について、お話しをお伺いしました。【岩手県釜石エリア雇用マッチング支援プロジェクト・鹿野順一/東北ROKUプロジェクト:島田昌幸/大船渡・大槌町仮設住宅支援員配置支援プロジェクト:菊池広人】
―まずは簡単にどのようなフィールドで何をしていらっしゃるのか、自己紹介をお願いします。
鹿野:以前からやっていたまちづくりNPOのつながりから、震災後も本気で町づくりをやらなければと思って、岩手県釜石エリアで雇用マッチング支援プロジェクトに取り組んでいます。地元に残りたい人が残れるような仕組みを作るためにも、収入を得る仕事が必要です。ただ、「雇用」と言うと就業者に限った話になってしまうので、雇用する側の事業再開も含めて支援しないといけません。なので、事業者支援を軸に、就労のマッチングと事業再開のお手伝い、失業者の就労支援を行なっています。
島田:株式会社ファミリアはもともと一次生産者の所得の向上を目的に立ち上げています。なので、今回の震災は仲間が被災してしまったということで、被災地に仕事を創ることを目的に、ダブルローンを抱えて自ら立ち上がることが難しい方々や、障がい者の方々を雇用しています。うちはもともと生産・加工・販売の立ち上げのコンサルタントを実施しており、パン屋などの商材を持っていたので、これを活かして宮城県名取市に新しい施設を作っています。自分たちだけでは限界があるので、業種・業態を超えて様々な方面で連携し、農業の六次産業化とレジャー化をテーマに、畑・野菜加工工場・蕎麦屋・パン屋などを並行して立ち上げていく予定です。
菊池:岩手県大船渡市や大槌町で仮設住宅に地域支援員を配置するコミュニティ支援の事業に取り組んでいます。地域支援員には地元の方を雇用しています。自分の地域を自分でよくすること、そしてそれが仕事になる点が良いなと思っています。団地などコミュニティのなるべく小さな単位で、自分の地域が良くなるために働ける環境があるのはとても大切なことだと思うので。
―現場では、右腕はどのような役割を担っているのですか。
菊池:今、3名の右腕に来ていただいています。地域支援員として大船渡に89名、大槌町に92名の地元雇用がある中で、その方々が主役となって地域のために働けるよう黒子の役割を担っているのが右腕です。仮設住宅支援員のモデルも根本的には各地域の住民が主役で、そのつなぎ役とお手伝いをするのが支援員なのですが、さらにその支援員のつなぎ役とお手伝いをするのが右腕です。具体的には、北上市、大槌町、大船渡市や関係団体との連絡・調整、研修の企画・関係整備、業務フローのチェック・改善などを担当してもらっています。自分は同年代と一緒に仕事をしたことがなかったのですが、今の右腕は同年代なので、何でも相談できる非常にいいパートナーです。チームで仕事できるのもすごく面白くて。
―右腕と、どういう役割分担をしているんですか。
菊池:今の右腕の3名はみんなばらばらの性格ですが、それぞれのキャラクターを上手に活かして活動してもらっています。例えば、前からいる右腕は総合的なプロマネタイプでいけいけがんがんな性格なんですね。新しくきた2名の内1名は会社で人材育成をやっていて、人事的な研修に強いんです。非常に性格が細かいのが良い方向に働いていて、こちらが気づかない課題を洗い出してくれます。もう1名は岩手出身で、Uターンして来たんですね。その右腕はSEで、コミュニケーション能力がどんどんのびてくれれば、地域の役に立つ存在になってくれそうで期待しています。右腕達のノウハウを発揮しながら地域の方々があくまで主役で事業が進んでいる現状なので、非常にありがたいなと思います。
島田:今来てもらっている右腕にはまず現場のパン屋の研修から始めて、今は会計・金融機関との調整もやってもらっています。ただ、うちは商業施設を立ち上げるので、気温・天気・来客数・会員数・DM・メルマガの反応などの数字からどうやって消費動向を見破るか、という部分まで担ってほしいと思っています。うちのような中小規模の会社で、こうした事業企画の専任担当者を置けるのはありがたいことですね。また、新しく入った右腕はパティシエをやっていたので、僕が作った企画を実際に商品にしてくれます。これをもとに新しい施設で商品を提供しようと思っています。将来的には、こちらが2言ったら10わかるくらいまでに右腕が育っていくといいですね。
鹿野:そこは、右腕に求めたい影響力ですね。言われたことをこなせる人はけっこういます。でも全体として何をやろうとしているのかという柱を捉えることができれば、それが自分の行動基準となって先を読んで行動できるのですが、これまではそういう人材が必要とされなかった。誰かがワンマンで引っ張っていくのについていけばよかったんですね。でも東北はそういう経験をしなかったからこそ、そこを補う人材がいれば助かります。そういう人たちの仕事のやり方・考え方が基準なんだ、という影響力を実は期待しています。仕事の基準に対する違いがあるので、右腕と地元の方々にとって相互刺激を求めたいですね。
―外から入っていくことの意味、ということになりますよね。そのあたりはどのように考えていますか。
菊池:プロジェクトをしっかりマネジメントしていくスキルを持っている人は地元に少ないので、そこを外のリソースを上手く使って解決していくのはいいなと思っています。右腕の仕事は、大局的に先を見ながら仕組化することだと思うんですね。右腕がいなかったら、現場の目先の仕事に追われてしまうので、こういう部分を担う人材に予算がつくのは大切なことだと思います。もちろん根本にあるのは、右腕がいかにプロジェクトを自分のものだと思って主体的に関われるかですが、その点は前向きになってくれているので、もっと右腕の能力を活かすための役割調整・インプットは受入側の役割だと思います。地元は右腕の力を求めているので、地域の状況・現場での体験など右腕が輝ける環境を作って、上手く回っていけばいいかな、と。
島田:外から右腕として入って必要とされるのは、仕事に対する慣れとスキル・仕事の型だと思います。例えば東京の大企業で仕事をすれば、仕事の型ができる。決められたことに対してPDCAが回る仕組みをきちんと作れる。これは地域の中小企業には少ないと思います。これをしたら次に何をする、という総務のスペシャリストのような、その道でのプロが被災地には必要かと思います。そういう意味では、「やりたくて来ました」だけでは右腕とは言えないと思うんですね。「できること」が仕事。「私は今までこれをやってきたから、こういうことができる、こういう貢献がしたい」「今までやってきた経験で、これは責任を持ってやれます」と言える方はとてもありがたいです。
―現在右腕の最終面接中の鹿野さんは、このあたりはどのようにお考えですか?
鹿野:僕はその点を、初対面の右腕候補者に対しても突っ込んで言っちゃいます。受け入れる経営側としては、今の自分たちに足りない役割を冷静に判断した上で、本当にその役割を担えるかという点も冷静に判断したい。なので、本気なのかという覚悟は問いたいですね。というのは、そういう厳しさが今まで地元には決定的に欠けていたんですよ。組織の中で仕事する厳しさの経験がなかった。自分たちがやれる範囲で、繋がりで融通が効くところでしか仕事してきていなかったんです。そういう状況に外から風を入れることが、「これが仕事のスタンダードではなくて本当はこうなんだよ」という基準に変えていく手段にしたいなと思います。自分たちだけで変えていくのは難しいので。ここが基準だというのが、地元の同世代に意識させられる存在を、右腕には期待しています。
菊池:せっかく右腕の方が来てくれているのだから、応募する人の視点で言えば、右腕を経てどんなスキルが身に付けられてどんな自己実現ができるのかという点をしっかり考えたいと思います。「あなたにはこういう背景やビジョンがあるのであれば、こういう仕事をしてほしい」というように。例えば、今右腕で来ているうちの1名はある程度個人事業主として食べていきたいとのことなので、プロジェクト全体のプロマネや、嫌なこと・苦手なことをどうプロセスデザインしていくかなどの仕事は彼にやってもらいたいと思っています。また、別の岩手出身でUターンしてきた右腕はその後も地元に帰ってきたいとのことなので、地域の中で必要なコミュニティの背景のインプットやコミュニケーション能力を伸ばしていきたいです。せっかく彼らが来て岩手のために仕事をしてもらっているので、彼らの将来から見てもいい時間になってほしいなと思います。期限付きで入ってきてくれた人に対して、次につながる経験を提供するのは受入側としてのこちらの責任だと思っています。
―そこまで考えていただけると、こちらとしても非常に安心して右腕を派遣できますね。既存オペレーションの人足としての右腕、というのは我々がイメージしている派遣ではないので・・
島田:僕もビジョンはしっかり聞きます。キャリアをどうやって積み上げて、僕らはそこにどう近づけて僕らの仕事とどうリンクして繋げていくのか、というのは大事だと思います。例えば、今いる右腕の1人は将来自分の店を持ちたいから、今やっている仕事とつながると思うし。僕らの駒というより、彼らの人生の中でこの1~2年をどうするかだと思います。だから、人足はアルバイトでいいんですよね。右腕に期待するという以上に、受入側が右腕のキャリア・将来を考えた上で、必要な厳しさは必要なんです。例えば、別の右腕が最初に提出した報告書を厳しくフィードバックしたら、再提出した報告書は素晴らしいものでした。彼にとってお金が取れる仕事になったんですね。そうなれるよう、僕が責任を持って本気で教えなきゃいけないという想いがあります。ちなみに、その報告書のおかげで、我々が想定した商品・サービスの展開と地域住民の想定が違っているとわかり、サービスを変えることになったんです。次のマーケティングになったんですね。
菊池:右腕に人足を依存してしまうと、事業が持続的でなくなってしまうと思います。地域の人がより制度の高い仕事をするために仕組みが必要で、それを支えるのが外部から入った右腕。これは平時でも必要な仕組みだと思います。
―最後に、右腕派遣の課題、もっとこうしたらいいのではないか、ということがあれば教えてください。
島田:業界によってどの時期にどのくらいの右腕が必要かは異なってくると思うので、そこを今後調整できるといいと思います。また、うちの業界に関して言うと、色々な分野の人がほしいです。うちは一次産業の現場を活用した観光という要素もあるので、観光の軸で言うと、色々な分野の尖った人がいたらいいなと思います。
鹿野:時期によって必要とされるスキルは変わるので、派遣人数の全体的なスキームは毎年均等な人数でいいと思います。ただその分、スケジュール感を持って「今必要なものは何か」という視点を持てるといいですね。
―ありがとうございました。
聞き手:山内幸治(ETIC.スタッフ)/文:施依依(ETIC.スタッフ)