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特集記事 この地に本当に必要なリズム。女川向学館の考え方。

リーダーがビジョンを語る8905viewsshares2011.11.25

この地に本当に必要なリズム。女川向学館の考え方。

女川向学館は震災で被災した女川の子どもたちの放課後の時間の居場所と学習環境を支援しようと、7月からはじまった放課後学校。高台で津波の被害をまぬがれた町立女川第一小学校の中にあります。教鞭をとるのは、かつて女川で個人塾を経営していた13名の先生たち。子どもたちにとっても先生にとっても新たな居場所となった女川向学館。この塾を立ち上げた今村久美さんに話を伺いました。【「コラボ・スクール」女川向学館プロジェクト・今村久美】

 

 

—最初に被災地を訪れたのはいつですか?

最初に来たのは4月15日でそんなに早くなかったのですが、その時はとにかくニーズを探りたくてたくさんの方々にインタビューをして歩きました。ご迷惑かなとも思ったのですが、子どもたちの教育という長期的な課題にアプローチしていく上で本当に必要な支援のあり方を探しました。短期的に役に立てても、長期的なひずみを生むようなことはしたくないと思ったんです。だから、避難所で一緒に生活をさせてもらいながら、寝食を共にすることで、どんなふうに朝がきて、どんなふうに夜を迎えて、食事はどうなっていて、寄せられる物資をどのような気持ちで手に取るか。まずはそれを実感したかった。そして、人に会って話を聞いて歩きました。

—そう思ったきっかけはあったのですか?

石巻市で見た炊き出しの様子が、私には少し違和感がある風景に見えました。というのは、駅横の公園では炊き出しをやっている。かたや、駅前ではうどん屋さんやたこ焼き屋さんが立ち上がり、石巻市内の蛇田のイオンも営業をはじめた。震災から1ヶ月後から、徐々にこの町の人達自身の手によってこの町の経済を復興させようとしている。それを知らずに、遠くから材料も全て持って来て、食事を配ったり古着を配ったりするアプローチを何ヶ月も続けるのはどうなのだろうと直感的に感じました。それは、震災直後は確実に必要なフェーズもあったかもしれないけど、震災から時間が経って、どのタイミングまで「与える」という形の支援を続けるべきなのだろう、と悩んでしまいました。

—今はもう「与える」の先のフェーズだろうと。

はい。実態として、5月初旬に立ち上がったうどん屋には人が入っていなくて、炊き出しには沢山の人が並んでいた。半年経っても、まだ避難所から仮設住宅に移りたくない人がいて。それは電気代がかかるから、ご飯を作ってもらえなくなるから、という声も聞きます。避難所にいれば全て揃っているし、炊き出しも来てくれるし。そういう状況の中で「やっぱりなんか健全じゃないな」と思います。

—その実感から、どのように今の教育支援の形を作ったのですか?

短期的に喜ばれても、長期的な視点でひずみを生むようなことはしたくないですよね。それは教育サービスも同じだなと思ったわけです。はじめは、わたしたちの団体にはボランティアが沢山いるので、毎日バスで50人とか大学生を沢山乗せて、被災地と東京を巡回するということを立ち上げようと思っていたんですよ、実態が分かっていなかったので。わたしがやろうとしていたことは、単発でしか関われない大学生を連れて行くこと。でも地域には昔から学習塾があって、経済性を伴って運営している。その方々に会って話を聞いていくと「これって炊き出しの二の舞かも知れない」と思えてきました。子どもの視点から見ても、そうでした。単発で来てくれて3日でいなくなる人との出会いも刺激にはなるとは思いますが、10年後子どもたちが少し大人になって地元に戻ってきた時に会いにいけるような地域の人たちとの関係性を作れる方が、長期的には価値がある。それで、女川で個人事業主として塾を経営してきた人たちを中心に先生をつとめていただき、カタリバからは個別対応が必要な子どもたちに短期ボランティアを供給する形でコラボして、子どもたちの学習を支援する夜間学校を作ることにしました。

—なぜ、女川という地を選んだのですか?

本当にニーズのあるところはどこなのかを探したかったので、とにかく石巻、南三陸、気仙沼、女川、と手当たり次第に、学習塾に電話をかけてお話を聞きました。石巻や気仙沼は、大規模に町がやられてはいましたが、全壊しているわけではありません。震災後も生徒から月謝を徴収して学習塾を運営している方が複数いらっしゃいました。また、建物も残っていましたので、やろうと思えば事業者が開業することも時間の問題かもしれないかもと思えました。しかし、女川は住居倒壊率83%。建物もほとんど残っていません。学習塾も9割流されていました。塾の先生方の多くは、お寺や避難所などで学習指導ボランティアをしていました。また1つだけ流出しなかった塾は、経営している先生自身も被災して、自宅は流出しているのに、学習塾の無償サービスをしていたんです。しかも、教育行政のトップである教育長に提案をさせていただきにいくと非常にやわらかい頭で、「今は、子どもたちのためにリスクをとらない方がリスクだから、前例がない試みではあるけど、ぜひやりましょう」と言ってくれました。この街なら、パートナーとして成功を収められそうだなと思ったんです。

—成功できるかどうか、という軸で選んだのですね。

小さい組織である私たちは、小さくはじめて成功モデルを作って、それを大きく発信するという戦略で、全体に貢献できるのではないかと思います。ちゃんと成果を出すためには、NPOが住民に呼びかけても受益者になかなか伝わらないですが、行政と組み、学校で告知ができるようにして、学校の先生との有機的な関係性の中で取り組まないと、支援の一方通行になると思いました。なによりも、震災で住居を失った地域の人達が、お寺や避難所でボランティアとして子どもたちに学習指導をしている姿を見たときに「あ、ここの人達となら手を組めるかもしれない」と思って。

 

 

—オープンしたのはいつですか?

7月4日です。

—運営はどのようにしていますか?

まず地元の学習塾を経営していた方を雇用します。どこかにお勤めで解雇された人は失業保険がもらえるのですが、個人事業主の方々は保証がないので、大変です。うちのスタッフはそんな状況で頑張ろうとしていた方々です。女川にいて震災前に学習塾を経営していた人は、多分全員雇用しました。雇用と言うか、新しい形の協働事業という感覚です。

—教員は全部で何人いるのですか?

現状は13人です。教える能力は人によって違います。でも、学習塾を個人事業でやっていた人が集まってコラボレーションする中で、お互いに教え方を参考にしたり、教材を共有したり、悩みを打ち明けたりしながら改善をしています。普通、塾の先生同士って、ほとんど交流がありませんから、実はこの協力関係自体が画期的なんです。先日、みんなで飲み会をやったとき、「こうやって飲み会をするのは35年ぶりです」と、65歳のスタッフが話していました。「大学卒業してからずっと学習塾を運営してきた。塾は夜の仕事だから、付き合いが悪いと分かるとだんだん誰も誘ってくれなくなる」と。震災後、子どもたちの変化をみんなで見守る中で、子どもたちのアラートに気づけるためには、団体戦でゾーンディフェンスする感覚で見守ることが、子どもたちのために合理的だと思います。まずは大人たちが協力関係を作り、みんなでコラボレーションしなから、女川の子どもたちをどういう風に育てていこうか、みんなで話し合いながら運営していきます。

—今まで個人でやってきた者同士が一緒になることで、ほかに何か生まれましたか?

授業が終わった後に、教員の反省会をここでやるんですが、その場は、合理性とかは今は求めていなくて、自分の思ったことを自由に話す場になっています。そこで「こういう生徒に困ってる」とか「わたしはこういうやり方をしているよ」とか、「そういう時はトランプを使って教えたよ」とか、そういうのを先生同士で持ち寄って、「それいいね〜」ってみんなで言ったりしています。個人事業では授業開発はしづらいけど、そこに協働する人がいて対話があれば、生徒にとっていい授業という視点から、どんどん改善をすることでき、開発ができる。女川の講師たちのやり方で、子どもたちを見守りながら、より良い学びの提供の仕方をどんどん話し合って作っていければ、と思います。

—合理性ではなく、自分たちのやり方で良いものを話し合う場。大切ですね。

まだ予定は未定ですけど、3年以降たった後、もう一度みなさんに、独立開業していってもらう時が来ると思っています。その、この場所の機能をクロージングするかもしれないその時には、先生たちに沢山の武器が増えているようにしたい。もちろん、独立開業ではなくてチームで取り組む別の形にシフトするかもしれませんが・・。

—生徒は現在、何人いるのですか?

今は約230人が通っています。女川の子どもが全部で510人ほどなので、けっこうな割合で来ています。イメージとしては「町の勉強部屋」という感じですね。

—立ち上げから2ヶ月経って、何か気がついたことはありますか?

しばらくここで過ごしながら気づいたのは、「この町の子どもたちは、圧倒的に高校卒業後の進学や職業選択の多様性をしらない」ということ。町の人は多くの割合で漁師、水産加工業を生業にしている方々、原発関係の産業などです。それは後継者育成としては成功してきたわけで、住民の流出を押させる意味でも成功したのではないかと思います。しかし、産業のあり方、グローバル化社会の日本人の仕事などが変わっていく中で、この町の産業も変わっていかなければいけない側面も否めない。震災を乗り越えるということは、震災前に戻すということではなく、発展的な意味で「変わる」ということだとしたら、子どもたち自身に、この町に新しい産業を生み出せるような可能性と力を持たせたいどのための過程の選択肢として、例えばこれからはより多くの生徒が大学に入学するということも重要な選択肢になるのではないか、と考えます。そんなわけで、大学生や多様な年齢層のボランティアさんが日常的に子どもたちに関わっていただける環境を作ることで、これまで女川に住んでいたら出会わなかった職業を持った人と出会い、なかなか出会うことのない大学生とも話すことができる。その刺激が、未来にたいするモチベーションに効果的です。そんなわけで、8月から一週間単位で来てくれる大学生や社会人を募集して、個別指導などを担っていただいています。

—ある程度最初にきた時とニーズが変わって、さらにまた個別のことも必要になり、段々最適化されてきていますね。

「ずっと子どもたちを見続けるプロの学習指導」と、「子どもたちをインスパイアする存在としての短期ボランティア」という組み合わせですね。今も、どうすれば効率的にできるかな、と考えているんですけど。やりながら考えなければいけない。

—現場主義で。

実は、この部屋に立ち上げ後1ヵ月ほど住んでいたんです。ちょっと前までこの避難所には300人ほど人がいたんですよね。東京から何をどうネットサーフィンしても分からないような情報がありました。ここで朝を迎えて、2階に行ってだらだらしてるおじさんとかと話して地域新聞読んで、みたいなことをしていると、どういうリズムのものが必要なのかなんとなく分かってくる。だから、一緒に住まわせてもらっていました。

 

 

—この先の展望や課題はありますか?

放課後学校をオープンして、設置するというところまではできました。でも、その先の成果はまだ出ていない。ひとつポイントになるのはICT教育のようなものを入れていきたいと思っています。被災地だけではなくて、日本の大過疎地には、数人ずつでも子どもたちがいるのかも知れない。東京型の予備校モデルにはならないけど、例えばですがインターネットを使ってゲーム性を持ちながら勉強できる形をつくれないかなと。そんなシステムを導入したら、教員ができる仕事は「動機付け」だけかも知れない。でも、それが1番大切で。結局自分で「勉強したいな」と思わないと勉強できないし、自分で「こんな大人になりたいな」と思わないとそこに近づけない。詰め込みって限界がある。そこを今後は考えていきたいです。

—「動機付け」のために、今考えていることってありますか?

町の大人やボランティアの人達に、カタリバ的に自分の仕事についてや中学生の時の話などを生徒たちと話す機会を、定期的な形で入れていきたい。「大人になるのが楽しみだ!」って思える機会をつくりたいのです。女川にも素晴らしい人達が沢山いて。特に個人事業主でやっている人達は本当にたくましい。この町で一番はじめに立ち上がったお店は、コンテナを組み合わせてコンテナ村商店街というハウスを建ててお店を復興しました。その姿を見ると、起業家になれる子どもたちの姿が目に浮かびます。

—最後に、これだけは言っておきたいことはありますか?

これだけはいっておきたい… あ、寄付を集めてます。女川向学館は、全て寄付金で運営されているので、応援してくれる人を探しています。震災直後は日本のNPOにとって特需的に寄付が集まったのですが、今はブームが去ってきていて、「どうやって説明責任を果たしながら寄付をしてもらうか」を考えています。寄付は投票行為だから、いいと思ってもらえないとしてもらえない。だから、わたしたちにとってもいい意味で競争に晒されていると感じます。被災地の子どもたちにとって本当に成果があった、と思っていただける成果をだせるようにがんばりますので、応援よろしくお願いします。

 

■右腕募集情報:「コラボ・スクール」女川向学館プロジェクト

コラボ・スクール公式サイト

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