地方創生のヒントin東北
被災からの復興で5年先行くニューオリンズが「起業のまち」になった理由。そこには東北の5年後を考えるヒントがある。
2005年8月に全米史上最悪の自然災害ハリケーン・カトリーナに見舞われたルイジアナ州ニューオリンズ。しかし10年経ったいま、Uターン・Iターンで若者が増え「起業のまち」として生まれ変わった。東北と同じようにゼロになり、リセットされたまちは、なぜそのように生まれ変わったのか。そこにはクリエイティブな人たちが集うヒントが隠されている。
「ブレイン(頭脳)流出から、ブレイン流入へ」
いま、このまちには、才能ある若い人材を惹きつける魅力がある。
2005年8月末にアメリカ合衆国南東部を襲ったハリケーン・カトリーナ。死者・行方不明者が2,541名、被害総額100億ドル~250億ドルと、全米史上最悪の自然災害となった。音楽、観光、水産業(ルイジアナ州は全米32%を誇る)、エネルギー産業(天然ガスや石油)などの特色ある産業があるにも関わらず、ニューオリンズは災害の前から経済の縮小に直面していた。2000年からの4年間で16,000の仕事(6.2%)が失われ、人口も23,000人(4.7%)減少していた。これはアメリカ全体のトレンドである経済成長・人口増加の逆をいくものだった。このような停滞状況にあったニューオリンズを、ハリケーン・カトリーナは直撃した。
あれから10年。ニューオリンズは、全米でも有数の「起業のまち」に変貌を遂げた。成人人口10万人に占める新規創業者の割合は、全米平均よりも56%も高い。その担い手の鍵となったのが、UIターンでニューオリンズに入ってきた若者たちだ。現在の人口は38万人。被災前と比べて人口は20%減っているが、外からの移住者が増えつつあるのが特徴だという。この10年の変化を、まちの人たちはこう語る。「ブレイン(頭脳)流出から、ブレイン流入へ」。いま、このまちには、才能ある若い人材を惹きつける魅力がある。
このまちは、アイデアを形にするのに適している。
転機となったのは災害から5年目。「リカバリー、リビルディングからルネッサンスへ」というメッセージを掲げ、新たなアイデアへの積極投資を始めた。停滞していた既存産業への依存からの脱却を目指し、どの分野が今後雇用を伸ばしうるかを分析。デジタルメディア、ヘルスケア・ライフサイエンス、環境産業など5つの優先分野を選定したことで、硬直化していた産業構造の中に、若者たちが挑みうる新たな空白地帯を作り出した。彼らを支えるエコシステム(生態系)も豊かだ。社会起業家支援に取り組むインキュベーター「プロペラ」は、水資源・ヘルスケア・教育といった分野で起業を目指す人々の苗床となっている。バイオイノベーションに特化し、研究施設も整備されたインキュベーション・オフィスもある。マイノリティの人たちの起業に特化した動きも始まっている。
「この10年で素晴らしいタレントたちが生まれたが、起業のほとんどは白人。格差を埋めたい」と、設立者のレスリー・ジェイコブ氏は語る。新たな世代の起業も始まった。カトリーナ当時は高校生だったベトナム系米国人のダニエル・ウェン氏。カリフォルニアでエンジニアとして働いていたが、全米中を旅した結果、数年前にニューオリンズに移住。沿岸地帯で生活するベトナム系の貧しい漁師たちとともに、農業を始めた。80%の人たちが英語を話せないこの地域で、農業に必要なスキルトレーニングや資金提供、販路開拓を行っている。「このまちは、アイデアを促進させるハブやネットワークがとても発達している」(ダニエル氏)。
ニューオリンズの「寿命格差」是正に取り組むビジネス・インキュベーション、ブロード・コミュニティ・コネクションズの「リフレッシュ・プロジェクト」、21億円を調達し、ヘルスケア産業の集積を仕掛ける。
ニューオリンズ出身のジェフリー・シュワルツ氏は、2008年にマサチューセッツ工科大学でコミュニティ経済開発の修士を取得。修士論文では、「カトリーナで被災する前と後の新鮮な食べ物へのアクセス」という研究を行った。その結果、ブロード・ストリートと呼ばれる地区では、この通り1本を挟んで南北で平均寿命が20歳も違っていることがわかった。ハリケーン後、再開しない食料品店も多く、この貧困地域は食砂漠ともなっていた。そこでその格差を埋めるべく、ジェフリー氏は21億円を調達し土地と建物を準備。高級食材店で知られるホールフーズ・マーケットの低価格帯店舗の実験店を誘致した他、キッチンスタジオを備えた医食同源センターでの地元の大学とも連携した料理教室や、外食店で働くための就労支援、庭先での小規模農業を推進するベンチャー企業の巻き込みなど、統合的なアプローチで、課題解決に取り組んでいる。
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