リーダーがビジョンを語る
海って楽しい
南三陸町歌津地区泊浜で、漁師たちによる釣り・遊覧等の「南三陸ブルーツーリズム 金比羅丸」を展開している高橋直哉さん。女性・子供も誰でも気軽に楽しめる釣り船体験『手ぶらでフィッシング』 や、自分で手を加え、育てる過程を知ることで海産物の全てを味わえる『漁業体験』 などを通じて、南三陸のファンを増やそうと考えている。今回、みちのく起業で起業するにあたって、立ち上げの経緯やこれからの展望を伺った。【ブルーツーリズム(宮城県本吉郡南三陸町)・高橋直哉さん】
—高橋さんは、20歳で家業である漁業に就いて、 東日本大震災により、漁具、作業場、船一隻が流出してしまったんですよね。そこからこうして起業するまで、どんなことがあったのか聞かせてください。
「震災後、一度はがれき撤去作業のため建設会社に就職しました。その後、親父と一緒にわかめやホタテの水揚げをはじめて、漁業支援ボランティアを受け入れるようになったんです。そのとき、ボランティアの方が、わかめの種をはさんだり刈ったりする作業を、面白いと言ってくれたんです。そして、とったわかめを美味しい!って感動しながら食べてくれたんですよね。」
—ボランティアの方の反応から、起業のアイデアが生まれたんですか?
「それがきっかけです。ボランティアの方と話して、気付くことが沢山ありました。まず、いつも、自分がつくっているものは漁協に直接卸していたので、食べた人の感想を聞くことがなかった。でも、初めて感想を聞いて、自分たちが獲っているものがすごく美味しいんだって気付いたんです。そこから、知っている方に向けて販売をはじめました。」
—『手ぶらでフィッシング』 はどうやってはじまったんですか?
「自分、釣りが好きで、ボランティアの方を誘って一緒に釣りに行ったりしていたんです。そのとき、こんな小さいやつか、とがっかりするような魚を、ボランティアの方たちがすごい!おもしろい!って感動しながら釣っているのを見て、こういうことで喜んでもらえるんじゃないかなって。」
—素人でも、釣れるものですか?
「本当によく釣れるんですよ。かえって沖にいくよりも釣れる。だから、もっと気軽に釣りを楽しんでほしくて。もともと釣り船もあったんです。自分で竿や長靴や道具そろえて、船酔い心配な人も大丈夫なように準備して。」
—『漁業体験』も、日本や世界から色々な人が体験に来ているみたいですね。
「今日も、午前中にベトナムの学生さんたちが漁業体験に来ていたんですよ。お土産にポストカードをもらいました。やっぱり、ベトナムに比べてこっちは寒いみたいで、みんな震えていました。でも、魚が揚がると歓声が上がったり、盛り上がりました。」
—県外の人と触れ合う機会も以前に比べて増えたと思います。なにか心境の変化はありましたか?
「僕は、20歳で親の跡を継いで漁師になって、それが普通だと思っていたからとくに漁師やりたい!って気持ちが強かったわけでもなかったんです。でも、震災後に外の人に会うと、のんびりした場所で働いて美味しいもの食べて暮らして、楽しい趣味もあって、って羨ましがられることが多いんです。それで、逆にやる気になってきましたね。」
—やる気になってきた。
「はい。今まで海しか知らなかったし、他の人の意見を聞くこともなかった。でも、震災をきっかけに色々な人と知り合えて、自分の仕事の価値に気付くことができた。ちょっと工夫することで、体験だったり販売だったりを通してお金をいただくことができる。海から稼ぐことも楽しくなってきました。なんでも自分の目線で見てちゃだめですね。自分の目線だけだったら、ここまでなってないです。」
—起業して直販やツーリズムなどに取り組むことで、どういうことを伝えていきたいと思いますか?
「よく聞かれるんです。海が怖くないですか?って。津波があって、海は怖いというイメージになっちゃったかもしれないけど、海に生きている自分にとって、海は楽しいんです。海は怖いって分かった上で仕事をしている。津波が怖いのは当たり前だろって。怖いと分かった上で楽しんでいるから、楽しいんです。そういうの、知ってもらいたいです。」
—他には、何かありますか?
「それから、漁師にも、ハチマキ卷いて鼻真っ赤で、怒鳴るイメージがあるかもしれません。実際、酒飲みも多いし、方言混じりで声でかかったりするけど。でも、そういう人ばかりでもないし、もっと身近に感じてもらいたいですね。」
—これから、起業してどうしていきたいですか?
自分で販路をつくって、魚を個人売買で直売していくことと、『ブルーツーリズム』を展開していきたいです。生産者目線も、お客さん目線も大切にしながら、いつまでとかじゃなく、いつまででもできるように。
—今までになかった外との繋がりもできてきましたし、色々楽しみですね。
「外だけではなく、中の繋がりもできました。今まで関わったことのなかった他の地域の漁師の方と話したり、情報交換したり。そういう交流、今までなかったんですよね。話してみると、漁期が少し地域によってずれたりするので、一緒に頑張ればなにか企画ができると思うんですよね。若いやつらで仲間つくって広げていきたいと思います。」
—若い世代の漁師の方は、減っているんですか?
「今は土木作業がいくらでもあるから、そっちに流れちゃうんですよね。せっかく若い世代が多い浜で、水揚げもトータルで1番良かったのに。どんどん辞めちゃってもったいない。土木作業で日銭を稼ぐのではなく、海から稼ぎを上げて、誇りを持って漁業を続けられる仕組みがつくれればと思ってます。」
—最後に何か、一言お願いします。
「ぜひ、僕の企画するツアーに来てほしいです!面白いって思うことをしているので。楽しませることには自信があります。海って本当に楽しいんですよ。」
—話を聞いて、ツアーに参加してみたくなりました。どうもありがとうございました。
聞き手:加納実久・坂口雄人( みちのく仕事ボランティアライター)/文:笠原名々子(ボランティアライター)