私にとっての右腕体験
介護保険制度の狭間にいる人たちを、地域で支えたい
震災から2年が経過する中で、ETIC.では復興のための活動を続けているジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社のサポートを受け、「ジョンソン・エンド・ジョンソン × ETIC.右腕派遣プログラム」を2013年7月より開始しています。そこで採択された事業の1つが、一般社団法人りぷらすの地域健康サポーター事業。リーダーの橋本大吾さんに、活動や現在募集している右腕について伺いました。
-橋本さんは、右腕を経験した後に、「みちのく起業」プログラムに参加して起業されて、現在、右腕を募集中ですね。まず、今はどういう活動をしてらっしゃるのか聞かせていただけますか。
今やっていることは3つですね。1つ目は介護保険を持っている方が通うデイサービス、2つ目が介護保険が必要となる状態を予防するための1時間500円のリハビリフィットネス、3つ目が利用者も交えた地域交流で、芋掘りなどの社会参加活動を通して、不安定な所での作業や障がいや病気などの特性を、地域で暮らすお互いが理解しあっていけるようにしています。現在、デイサービスもフィットネスもそれぞれ20名ぐらいの方が利用されています。地域の医療・福祉職、住民さんなどと勉強会や交流会を月1回くらい行っております。
-活動している、ここ石巻の河北エリアは、どういう特性や課題を抱えているんでしょうか。
ここ河北の人口がほぼ11000人のエリアです。高齢者率は、旧石巻市(合併前の石巻)は約25%と比べて、河北は約30%と言われています。若い方は石巻市内に行っているので、周辺である河北や牡鹿・雄勝との高齢化率の差が広がってきていると感じます。河北・北上・雄勝地域は、リハビリの専門職である理学療法士や作業療法士もおらず、体力や生活の改善が必要な方は石巻市内に行かざるをえないなどの現状があります。
-右腕として東北に来る前から、今回の事業の種となる問題意識を感じてらっしゃったんですか。
そうですね。東北に来る前は、埼玉県で訪問リハビリや、通所リハビリなどを行っていました。施設の立ち上げなどを経験させて頂いた中で、制度に載らない狭間の方がいることをずっと感じていました。そういった方を支えられるような仕組みを作れたらいいなって考えていた所に震災が起きて、こっちに来て。やっぱり専門職自体も少ないですし、介護が必要な方を支える仕組みが弱いということがあり、それを作ろうと思っていた中で、「みちのく起業」の起業支援プログラムがあって、タイミングだと思いまして。
利用者さんは、デイサービスで生活が改善したあとも、卒業後の受け皿がないために介護保険をなかなか卒業できないと考えています。また、合ったとしても卒業した先が不十分であるのと同時に、新たに介護を必要としないように予防する仕組みも不十分です。そういった方々の受け皿となる、介護保険があってもなくても誰でも使える場として、フィットネスを始めました。
-もともと、介護や理学療法のお仕事に興味を持たれたのはどういうきっかけだったんですか。
高校時代に野球をやっていて怪我して、そういったことをケアする人になろうとスポーツトレーナーの学校に行きました。卒業後に病院のリハビリテーション科に就職したのですが、転倒して骨折して、リハビリして歩けるようになってはまた転倒するというのを繰り返す方がおりまして。そもそもの問題は家にあるんだろうなと思い、病院に来る前からの関わりが必要だと思って、訪問リハビリをやる人になろうと理学療法士の資格を取ったんです。
-その後に専門職として経験をつまれて、東北入りして右腕として活動するわけですね。
右腕活動時は、専門職として現場も持っていましたが、コーディネーターとしての活動をメインに動きました。東北で活動したいという人材を全国から募集して、集まった人材を必要な所にマッチングしたりしていました。
医療・介護系の分野は専門職が集まっていて外の方との交流も少ない業界なんですけど、他の右腕たちと出会って、本当にいろんな業種の人やいろんな地域課題に取り組んでいる人とのつながりができたなと感じます。考え方や社会の広さみたいなのを少し知ることが出来たように思いますし、他の右腕たちとの人脈は、今の活動にも活きています。あと、自分1人だけでは難しい問題でも、活動の理念をみんなで共有してネットワークができれば、物事が動き始めるなと感じられるようになりました。
-右腕も190名を超えて本当に多様なキャリアの方が参加されています。合宿などの研修の場でみなさんが揃うと面白いですよね。事業をやってらっしゃる中で、やりがいを感じる瞬間ってどういう所にありますか。
ほとんどの方はやっぱり生活が良くなります。また、難病の方や進行性の病気の方はでも、生活の中のちょっとした工夫で、例えば道具の使い方や家具をどこに置くか、そしてどのように体を動かすかなどです。これを伝える事で、それまでより生活が改善する事があります。それがやりがいですね。畑をやっていたり、生活の中で体を使ってきたおかげか、首都圏の方たちに比べて、こちらの方たちはとても回復力が高いです。そもそも介護保険自体、暮らす方それぞれが抱えている課題を解決するためのサポートとしてあると思っています。ここを利用されている方には、「何をしたいか」の夢を宣言してもらっていて、それぞれの夢や目標をどうやったら達成できるかを大事にしています。江ノ電で鎌倉に行きたいとか、温泉やお茶のみに行きたいとか、いろいろあるんですよ。こういう夢とか、目標が新たに教えて頂けた時も、非常にやりがいに感じます。
-ここは、例えば、5年後とか10年後に、どういう場所になっているといいなって思っていますか。
経営的に安定するっていうことはもちろん、ここから健康や予防について発信していけて、気軽に人が訪れ、相談できるような場所にしたいと思いますね。介護保険を使っているかや障がいを持っているかに関係なく、いろんな方が訪れてくださる拠点にしたい。うまくいけば、こういったモデルを他の地域にも展開していきたいと考えています。全国にも高齢化や過疎化が進んでくるだろう地域はたくさんあるので、ここの取り組みが応用できるのではないかと思っています。
-なるほど。この地域だけでなく広い視点で見た時に、これからの地域医療とか地域介護ってどういうふうになっていったらいいなというのはありますか。
僕自身は極力、専門家が関わらない方が良いと思っています。薬のことや血圧のことなど、普段の暮らしに関わるようなことをもっといろんな専門職の人が地域住民に還元していく。ボランティアやNPOなどの市民活動や、地域のコミュニティスペースなど、地域交流も大事だと思います。で、専門家が少なくても、健康寿命を長く持てるような社会を作るのが必要かなと考えています。特に過疎地では、そういった予防医療的な動きが本当に大事になってくるでしょうね。
-コミュニティの担い手が、健康や予防医療に自分たちで取り組んでいくということですね。
そうですね。そのための下地を作るのが、健康サポーター講座だと思っています。健康サポーターとして地域住民を育成し、地域内での活動場所を作るサポートをしたり、育成した人たちのネットワーキングの場所を作ったりしたいと思っています。そうして、その人たちが何年か後に新しいサポーターを指導する側になったり、そのサイクルの仕組みを作れたらいいなと思っています。実際、茨城県には似た形の仕組みがあり、指導者が多いところは社会保障費が下がっていると聞きます。
-高齢者が増え、社会保障費がどんどん上がっていく中で、これから本当に大事になっていく取り組みですね。いろんな地域で必要となってくる動きだと思いますが、東北でやるおもしろさはどういったところにありますか。
「何かしたい」という方からの注目度が高かったり、リソースが集まりやすかったりという外からの支援の部分だけでなくて、地域の中の人たちも「このままじゃいけない、変えていかなきゃ」という空気があるところですね。そういう土壌があるから、1人の思いから、いろんな方と繋がって協力して頂けたり、連携させて頂いたりできる。すごく動きが速くておもしろいですね。あとは東北ならではでないかもしれませんが、都市部のように仕事とプライベートが分れておらず、両方が同じ延長線上にあるという働き方は、新鮮で面白いです。
-現在募集している右腕の方は、どういったお仕事を担うことになるんでしょうか。
地域健康サポーター育成、地域交流の2つを主に任せたいと思っています。地域健康サポーター育成では、住民の方が、住民の健康を支えあうための知識や技術を学ぶ講座を行っていきます。その講座の企画を練り上げ、参加者の募集から運営までをお願いしたいです。また、石巻の似た分野の団体さんと情報を共有したり、行政機関や医療機関・介護機関と情報を共有したりしながら、サポーターを増やしていく基盤を作っていきたいと思っています。並行して地域交流では、企画から運営まで任せていきたいと思っています。
-幅広くいろんな方と関わっていくお仕事かなと思いますが、どういった方が向いているでしょうね。
たいへんな状況の人を支えきれない現在の社会保障制度になにかしらの問題意識を感じている方ですね。性格としては、僕自身が結構カタいタイプなので、人当たりがよくフランクな感じの方が来てくださるとうれしいです。あとは、行政機関や介護機関と関わっていくので、そういう方との共通言語を持っていらっしゃる方は歓迎ですね。
-応募を検討している方に向けてメッセージはありますか。
同じような問題意識を持っている方がいらっしゃれば、それに取り組んでいく場としてうちを使ってほしいなと思います。ご自身のステップアップにつながるのであれば、どんどんいろんなことを任せますし、応援していく土壌があります。今、僕たちがやっていることは本当に実験的なことで、どれが本当にこの地域に対して意味あることになるかは、数年後にならないとわからない。今は医療介護系の同じ畑の人たちで作っていっていますが、違う業種の方が見た視点などを共有して頂いたりしながら、一緒に作っていきたいし、意味のあるものにしていきたいと思っています。チャレンジしていると、大変なこともありますけど、なんだかんだと道が拓けていくというのが僕の体験です。なので、是非チャレンジしてほしいなと思いますね。
聞き手・文:田村真菜(NPO法人ETIC.)