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特集記事 ひとりになれるパブリックスペース

リーダーがビジョンを語る8566viewsshares2014.01.22

ひとりになれるパブリックスペース

陸前高田にある「りくカフェ」。多くの建物がなくなってしまった中、ご近所さんたちやこの街を訪れる人たちがふらりと集まる場所になりました(過去のインタビュー:出会いの花咲くみんなのリビング)。

りくカフェをつくった設計事務所、ご存知ですか?今回は荻窪駅前にある商店街近くの成瀬猪熊建築設計事務所の成瀬さん、猪熊さんを訪ねました。すると地域にどういう場所が求められているのかが見えてきました。

 

4

 

―最近はどんなことをされていますか?

猪熊さん(以下、猪熊) 最近は、事務所のやり方が見えてきたというか。りくカフェもそうなんですけど、今までにはない形で人が集まる場所を設計側からつくっていきたいと思っています。たとえばシェアハウスとか。そこから何か生まれたらいいなと思っています。最近は柏の葉でイノベーションセンターをつくったりしていますよ。

 

―ロフトワークのプロジェクトですよね。どういうものなんですか。

猪熊 コワーキングスペースの“オバケ”というか。普通は個人が集まるような場所なんですけど、イノベーションセンターは企業の一部署なども関わるような、会社の越えたイノベーションの場です。2014年4月オープンで、今つくっている状況です。

 

―人が集まる場所、というのはやっぱりキーワードなんですかね。

成瀬さん(以下、成瀬) そうですね。交流する場、ですよね。

猪熊 りくカフェも、公民館とは違ったスペースなんですよね。個人が主体になっていて。いわゆる公共とはまた違った形です。だから運営する側にもメリットがある形で場所をつくっています。そうやって今まで生み出せなかったものをつくることに興味があるますね。

 

1

 

―今まで生み出せなかったもの?

猪熊 人口が縮小していく中で、今までのやり方では街や地域やコミュニティが成り立たなくなっていて、今までとは違った形で人が出会えるような場所が必要です。それは住民同士もそうだし、企業が集まることも同じなんですね。

 

―猪熊さんたちは、建築界でも王道のようなイメージがあるんですけど、とても新しいことをしていらっしゃいますよね。

猪熊 建築の世界ではそうじゃないんですよ(笑)。

成瀬 2010年の秋に「集まって住む、を考えなおす」という展覧会をして、ある程度の反響があったんですけど、建築以外からの反響のほうが多かったんです。

猪熊 震災の影響は大きかったです。震災前は、建築界でも面白い建物をつくったら評価されていたけれども、震災以降は変わりましたね。

 

―影響があったんですね。

成瀬 私たちは震災前後で言っていることが変わらなかったのでよかったのかもしれない。りくカフェの影響も大きかったですね。

 

―りくカフェって、どういう経緯ではじまったのですか。

成瀬 陸前高田で病院をしている人たちと縁があって、コミュニティカフェをつくろうということになったんです。私たちはそれとは関係なく、こういう場所が必要なことをいろいろな企業には話していたんです。お金がなかったので、私たちも設計だけではなく、資金調達から配置計画までやりましたし、たくさんの協力を得ることもできて、つくることができました。はじまりが地元の人たちの「やりたい!」という気持ちなので、今でもいい場所になっています。

 

―そういうデザイン、って大切ですよね。

成瀬 場所の運営って、スキルとともにやる気も必要で、設計段階から関わっていくことが大切なんです。さきにハコだけつくってしまって、入ってください、というのは難しいです。

 

―デザインと人が結びついて、いい場所ができるんですね。

成瀬 そうですね。りくカフェも、会った瞬間にこの人たちとならできる、と思った出会いがあったので、自分も企業を説得できたと思います。

 

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―りくカフェのような場所って、ほかの地域にも必要だと思います。

猪熊 そうですね。人が集まる場って、もともと必要なものだとは考えていたんです。でもはじめのうちは、それでも特殊な事例だと思っていました。集合住宅のように大量に必要なものではないと思っていたんですけど、最近は集まる場って広がりのあるものだと思ってきました。

 

―地域もそうでしょうけど、都市だって、どんなところでも集まる場は必要な気がします。

猪熊 そうなんですよね。都市も地縁というものがなくなって、孤独なまま人は生きていけないだろう、って思います。今だとシェアハウスというようなものもありますけど、もっといろいろなところに自然に現れてこないと難しいと考えていて。特殊なものがもっと普通にならないといけないって思います。

被災地も似ているんです。地域や集落ごとに閉じていて、少しでも離れると、全然知らない人たちばかりだったりして。仮設住宅だと、もともと住んでいたご近所さんたちともバラバラになってしまっているので、そうしたきに、新しい人々の関係づくりはとても大切です。

 

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―建築には、今までの地縁を再生させることもできるし、新しい縁をつくることもできる。

猪熊 そうですね。そういう出会いを提供することができるようになったらいいなと思います。固めていくというよりは、はじめは“かきまぜる”ようなものになったら。

 

―かきまぜる、なんですね。そういうときにデザインが実現できることはたくさんありそうです。

猪熊 ある気がします。たとえば、場を共有したいけれども、ひとりでいても居心地のいい空間をつくりたいですね。

 

―共有しつつ、ひとりでも居心地のいい空間。

猪熊 たとえば、今のりくカフェは狭いのでみんな仲良くなっちゃうんですけどね。私も楽しく会話をしなくちゃ、という意識も生まれるんです。そうすると行くのにパワーがかかってしまう。単にコーヒーを飲むだけでもいられるような場所をつくりたいですね。シェアハウスも毎日パーティーだ、というよりも、ひとりで本を読んでいられるような空間が必要なんです。

成瀬 私たちのつくった名古屋のシェアハウスだと、奥にソファがあったり、ちょっとしたスペースがあったり。

 

―ひとりでもいられるような場所、ですね。場所は共有していて、お互いの存在を身近に感じられるけど、会話はしなくてもいい、というような感じでしょうか。

猪熊 そうですね。今は福祉施設を設計していて、そこでも、そうした距離感を大切にしていて、「愛のある無視ができる空間がいいんだよね」って言っています。

福祉施設って、街から閉じることが多いけれど、ここは街に対して開くように考えているんです。でもいろいろな人が近い距離で入ってくると居住の場としては落ち着かないので、距離感が大切なんですよね。イベントのときは一緒にやってもいいけれども、日常は違うと思うんです。ひとりでいられるパブリックスペース。

 

―孤独が問題でもあるのに、ひとりでいられる空間づくりが大切、というのは面白いです。りくカフェも建物が2倍になるみたいですし、また陸前高田を訪れたら伺おうと思います。ありがとうございました!

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