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特集記事 復興の現場の人たちのために、道を描く

リーダーがビジョンを語る5725viewsshares2012.08.27

復興の現場の人たちのために、道を描く

震災直後より中央政府で復興支援の陣頭指揮をとり、現在は復興庁統括官の岡本全勝さん。一般の人からは何をやっているのかわかりづらい復興庁の業務と、これから復興のために必要なことについて、お話を伺いました。【復興庁統括官・岡本全勝】

 

 

―よろしくお願いします。まずは、復興庁の由来を教えて下さい。

3月11日の震災直後に立ち上がった被災者生活支援本部が前身です。行政の一般的な被災者支援は、市町村役場が被災された方のお世話をします。しかし、今回は災害規模があまりに大きく、町役場が津波に流された自治体もあったので、国が地元自治体を支援する組織を作りました。まずは、水と食料と毛布を届ける。自衛隊や運輸業者にお願いして、各市町村に届けて、そこから先はボランティアの方にお願いする形でした。その後の「直接支援」は避難生活されている方々の支援ニーズを把握しながら支援しました。次の段階が、仮設住宅の手配でした。この際、地元の要望をもとに民間の住宅の借り上げを行いました。

現在の仕事は2つあります。ひとつは、地震津波地域での移住に関する自治体支援です。資金を提供するのに加えて、国交省の職員や全国の市町村の職員を派遣して応援に入ってもらっています。役場に対する支援なので、住民からは見えない支援です。もうひとつが放射能汚染された地区への対応です。放射能レベルの低くなった地区は道路や水道を復旧して帰宅できるようにし、帰宅困難地区の方々には、帰宅できるまで待つ人と別の地区に移住する人それぞれへの対応をしています。小さな天災であれば市町村役場でほぼ対応可能なように訓練できているのですが、今回は市町村役場でやりきれないということで、お金とノウハウと人との面から役場を支援します。それとは別に、NPOなどの民間団体とも協力支援していこうというのが現状です。

―積極的に民間と連携する理由はどこにあるのでしょう?

例えば、これから被災地を復旧するとして、道路・堤防・ビル・住宅などのハードウェアがあるだけでは人は住めません。学校や病院・商店といったサービスがないと住み続けることはできない。それ以外にも、町内会が無いといけませんし、お年寄りをケアする仕組みも必要です。ハードウェアとサービス以外に、ソフトウェアの部分、人のつながりをどう作っていくかを考える必要があります。ハードウェアを作るのは行政が得意なこと。学校や病院を作るのは行政の役目ですが、実際に勤めるお医者さんや先生がいないと動かない。商店も、お店を誘致しないといけない。そういったサービスは民間です。さらに、お医者さんの評判や、お隣さんの体調がどうだという情報は地域のつながりのなかにあるもので、地域の自治会やNPOが担う部分です。行政機構・民間企業・ボランティアとNPOの3つそれぞれの得意分野に仕分けをするのも復興庁の役目だと思っています。

―今回の東日本大震災で、NPOや民間企業の組織的なボランティアの重要性が認識されましたからね。

阪神淡路大震災のあった95年は「ボランティア元年」と呼ばれていますが、それは個人ボランティアだったんですよね。物資を運んだり泥かきしたりするなどの人海戦術でできる支援は、社会福祉協議会がバスツアーを企画して人を集めるようなやり方でできるのですが、仮設住宅の支援などの継続的な支援は、継続的に関わってくれる責任ある組織でないと担えない。ボランティア団体を育て、行政に協力してもらったり、あるいは住民の要望に応えてもらったりすることも重要です。

民間企業でいうと、それまで企業の支援といえば募金に応じボランティアを派遣するだけだったのですが、今回は各企業が本業を活かした支援活動を展開しました。例えば、去年の3月に宮城と福島と岩手の拠点まで、トラックで水と食料を送り込んだところ、物資の集積地がパンクして市町村に支援物資が流れなくなってしまったので、仕分けを宅配便業者にお願いしました。ボランティアを100人集めるよりも、宅配便業者のほうがノウハウがある。これも、CSR(企業の社会的責任)という言葉が広まっていたからです。

―これまでの活動のなかで、これは成功したというものはありますか?

仮設住宅の居住者の個人情報をどうNPOに使ってもらうかという問題はいい例です。見回り活動をしているNPOから、「どこに誰がいるのかわからないから支援に入れない」「個人情報保護条例を変えてくれ」という問い合わせがありました。しかし、個人情報保護を全て撤廃すると、善意のNPO以外の人にも名簿が見られてしまうので、危険です。そこで、NPOと市町村役場との間で見回り事業の受託委託関係の契約を結ぶという方法を、各自治体に提案しました。受託契約であれば必用な情報をNPOに提供できるし、NPOに守秘義務を課せば、住所の情報が外に流出しない。このやり方は私としてはヒット作だと思っているのですけどね(笑)

 

 

―取材していて自分も思うのですが、大きなシステムとして、ガバッと決めても取りこぼしがあるし、逆に人だけでやっても限界があるので、その中間にちょうどよいところがあるのかなと感じています。

避難所はそうでしたね。あくまで典型論ではあるのですが、おじさんとおばさんと2人仕切る人がいて、自治会のようなものが出来ていると、秩序もよく、物資は行き渡り、いろいろな要求が集まってきていたように感じました。おじさんだけでは、「女性の生理用品がない」「下着がない」といった要望は出てこない。少し落ち着いてきた時期には、集団移転の合意取り付けの局面で同じことが起こっていました。本来この合意取り付けは市町村の役場や議員の仕事なのですが、意見集約は町内会がどれだけしっかりしているかによってうまく取り付けられるかが変わってくるのですよね。マンションの建て替えと同じで、「自分は先が短いから今のままでいい」という人が2~3人いるだけで話がまとまらなくなってしまいます。

―どうすればいいのでしょう。

話し合いを重ねるしかないですよ。よその人が「こうしたほうがいい」と騒いでも納得してもらえないですし、復興庁の統括官が決めるのではそれこそ反発されて しまいます。できることといえば、うまく行った先行事例を紹介することです。あわせて、うまくいっていない事例も紹介できればベストですね。人とのつながりで言いたいことを言う、話を聞くことが必要です。

進学や結婚など、これからのことは自分で決めて自分で責任を持つものです。ところが、地域全体の将来となると、10軒20軒の住民みんなで決めることになります。家族だと最後は父さん母さん決めるという意味では、子供の将来に責任を持なければならない。自分の責任の上に、家族のぶん、地域全体のぶんの責任がかぶさっています。多数決なんてとんでもないですよね。これが近所10軒だけでなく、各市町村全体での話になるわけです。ただ、全員が納得するのを待っていたらきりがないので、ある段階で決断しないといけません。

―まさに、ブログ※でも書かれたとおり、「決断の苦しみ」がある。そのためにも、人が必要ですね。

もっといえば、熱意と技能を持った人ですね。熱意だけでも困りますし、技能だけでもいけません。情熱とノウハウと、さらにこれからは、一定の継続性が必要です。まちを作るためには3ヶ月、1年と滞在しないとわからない。ですので、復興庁は、そういった人たちをどう組織化するのか、一方で困っている地域があるので助けてくれという情報を発信しなければなりません。「これがほしいです」と写真で見せられるようなものではなくて、説明するのが難しいような仕事の情報を。そして、NPOなどとマッチングする。

―「こういった仕事があって、こういう人が必要で」ということを掘り起こして、認知してもらうところからやる必用があるのですね。

そのためにも、復興庁につくったNPO連携班では、みちのく仕事もぜひ協力してください。

―ぜひよろしくお願いします。今日はありがとうございました。


※岡本全勝さんのブログ(http://homepage3.nifty.com/zenshow/gyousei/hukkou/hukkou26.html)6月5日

※復興庁のウェブサイト(http://www.reconstruction.go.jp/)

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