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特集記事 お世話になった福島に、ワイナリーで恩返しを

リーダーがビジョンを語る7021viewsshares2012.07.10

お世話になった福島に、ワイナリーで恩返しを

福島市内で日本産ワイン専門のワインバーとワインショップを営む宇津木政人さん。震災当初は、町内の飲食店のオーナーの方々と協力して炊き出しも行いました。これまでの経歴と共に福島やワイナリーの魅力についてお話ししていただきました。【ジャパニーズワインショップfeniecオーナー・宇津木政人(1)】

―まず、今はどのようなお仕事をされているのか教えていただけますか。

はい。僕は今、日本産ワイン専門のワインバーとワインショップを経営しています。僕が今、これからのミッションとしているのは、福島市内にワインの醸造場、福島ワイナリーを作るということですね。今は、その為に毎日楽しくお仕事をしています。

―どうしてこの仕事を選ばれたのですか。

実は僕、 客商売というのはすごい嫌いだったんです。母親が美容師をやっていまして、小さい頃から母が働いている所に通っていたものですから、人に頭を下げてお金もらうというのがすごく嫌で。だから、僕は学校を卒業したら、人に頭を下げてもらってお金をもらう仕事に就きたいなと思っていました。それで、まず思いついたのが職人だった。

―職人になれば頭を下げなくていいと。

職人って希少価値があるじゃないですか。だから、職人になればみんなに頭を下げてもらって、ご飯を食べられるかなと思ったんですよ。その流れで、高校を出て自分にできることを考えたときに、整備士になろうかなと。ところが一年で腰を悪くしてしまって。そこから公務員を目指したんですが、見事に試験は落ちました。それからは当てがなくなったんですよね。 僕の人生がスタートしたのは、ここからです。

―そこから、最初はどういうことをされたのですか。

27才くらいまではずっと無職で、色々なアルバイトをしていました。その中の一つが飲食店のアルバイト。給料が安くてもご飯には困らないなと思ってステーキハウスで働いていたんです。そこのマスターが既成の概念を覆すようなすごい人で。Tシャツにジーパン、ブーツ、チェーンウォレットも付けていて、福島ではまず見ないような出で立ちでした。その人と出会って、僕は変わりましたね。

―詳しく聞かせていただけますか。

ガチャガチャ鍵を鳴らして、ブーツでガッタガッタ歩きながらステーキハウスをやっていたんですけれども、そんなマスターに、お客さんがみんな頭を下げてお金を払っていくんですよ。「マスター美味しかったよ。また来るね。ごちそうさまね。ありがとね。」と言って、頭まで下げて帰っていく。まさに、僕が随分前に夢見ていたことですね。

―嫌いだった客商売の中で夢を見つけたということですね。

そうです。一番嫌な仕事、僕の求めているものがそこにあった。それはどうしてだろうと考えた時に、僕が小さい頃に気が付かなかったものが見えたんです。飲食店というのは、美味しい物を提供して、それに対価を払ってもらうことでお客様とは対等なんだと気付きました。その上でマスターは、自分の生き方を認めてくれてありがとう、という感謝の気持ちをお客様に伝えることができたんですね。

―感謝を伝えることができた。

そうです。だから綺麗な真っ白いコートを着て恭しくしないで、ジーパンにTシャツで賑やかな飲み屋みたいな雰囲気でお仕事をしていても、そこにお客さんを感動させるものがあったのかなと思います。

―なんとなく想像ができます。縁があってアルバイトでそのような経験をして、自分の仕事になっていくわけですね。

そうなんです。不思議ですよね、出会いって。それで、28才くらいの時に結婚して就職することになったんですけれど、そのときに飲食店を選んだんです。その後に30才で一度お店を出せたんですけれども、力不足のせいか一年半くらいで、借金が大きくなる前にお店をたたむことになりました。でも、飲食店の素晴らしさを知ってしまいましたので、一生この仕事をやっていこうと思いましたね。

―そういう出会いを通じて、一生の仕事を見つけられた。

そうです。その後、自分ってなんだろうというのを探しながら色々修行したんですよ。その時に、以前お世話になっていた店が福島に屋台村を出したんです。その屋台村の店長をやってくれという話になりまして、二年間店長をやらせてもらいました。その時の二年間の経験は、とても大きかったですね。自分らしさを出せる滑走路といいますか、基礎を作れたのがそこでした。

―出会いがつながって、そのような経験ができたんですね。

それで、この会社だったら骨を埋めてもいいなと思ったんですが、その後、壁にぶつかって何やってもうまくいかなくなったんです。でも、僕はもうこの会社に骨を埋めるって決めていたので、石にかじりついても!という気持ちでいました。そういう部分が見えていたのか、オーナーがすごく気を使ってくれまして、「宇津木さんどうしますか」って、ことあるごとに聞いてくれるんですよ。「お店のことは気にしなくていいんで、宇津木さんの人生のことだけ考えて下さい。」って言ってくれて。そうして辞めさせてもらって、ちょっとでもお金貯めようと思って日雇いのアルバイトをしていました。そうすると時々、今までお世話になったお客様に会うんですよね。そこで、これからどうするのか聞かれたときに、「今年中にお店出しますから」と言ったんです。自分の人生で初めて福島に居られなくなると思いましたね。

―どういうことでしょう。

年内中にお店やりますよ、と口約束をしておいて、11月まで何も出来ていなかったんです。あれだけ支えてくれた人達に約束したので、本当に心から焦りましたね。「本当に俺、本気で店を出さないと福島を出なきゃいけない」と思ったんですよ。そこからですね、僕の人生がまた変わったのは。本当に100パーセント自分を信じて、100パーセント本気で思い込むと、世の中は変わるんですね。奇跡的なことがたくさん起こりまして、今ここにあるお店を出せたんです。それが二年前ですね。

―奇跡的なこととおっしゃいましたが、具体的には。

素晴らしい物件が見つかったり、方々から融資受けられたり。例えば、この物件も手入れをしていないんですよ。だから、不動産屋で判子を押してから、オープンの看板かけるまで敷金礼金も入れて80万円しかかかっていません。

―それはすごいですね。そういう機会にも恵まれてお店を出すことができた。

そうなんです。こんなにいい加減で、好き勝手やっていたのに、実際にお店を出すことができたんです。じゃあ、せめて何か恩返ししないと罰が当たるなと思ったんですよね。

―それでワイナリーで美味しいワインを飲んでもらおうということですか。

そこなんですよ。僕が好きなのはワインじゃないんです、ワイナリーなんです。ワインを作る場所が好きなんですね。 茨城の牛久ワイナリーに行った時に、僕の中で一本線が通ったんですよ、ピンと。

―何かが繋がったんですね。

はい。今までいろんな経験をしてきて、やりたかったものが一本の線で繋がりました。恩を返すにはどうすればいいのかな、福島が元気になるにはどうしたらいいのかなというのが繋がったんですね。観光型のワイナリーはおしゃれに食事ができたり、買いものもできる。結婚式場が一緒になっていたり、エステを受けられるところもあったりと、郊外の観光地になっているんですよ。あれが一番恩返しできるなあと思って。それで福島にワイナリーを作ろうと思ったんです。

―なるほど。

はい。それに福島って果物の県なんですよ。生産量ではNo,1ではないんですが、品質はかなりいい。献上桃とか献上あんぽ柿と、宮内庁に献上している果物は福島産が多いんです。そんな福島の名産品が、何故メジャーではないのかなと。その農業が元気になれば、それに付随して加工する人も増えてくる。加工する人が増えてくれば、今度はそれをおみやげで買ってもらえる。そんな風に色々考えたときに、僕の中で一番自然だったのがお酒を作ることだったんですよ。

―だから、ワイナリー。

そう。しかも、お酒の魅力はそこからなんです。福島って盆地なんですけれども、温泉は多いんですよね。だから、福島に来てくれた人にお酒を飲んでもらえば、スキーやスノーボードをして遊んで日帰りではなく、温泉宿に一泊してもらえる。それだけではなくて、帰るときには加工業者が作ったサブレやジャムとか、お土産を買って帰るんですね。

聞き手:中村健太(みちのく仕事編集長)/ 文:寺本涼馬(ボランティアライター)

■インタビュー後編:未来に繋げていく福島の宝

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